43 神だろうと何だろうと 上
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
神聖な空気に包まれた祭壇の前をまじまじと見ているビアンカ。等間隔に並んだ柱と磨き上げられた白い石の床、壁、そして、調度品。――――当然のことながら生活感など皆無のこの空間。
生命体の気配もなく、神殿内には植物も見当たらない。(幻想のように見えている畑の風景は除いて)本当に神はこの神殿に居るのだろうか?と疑いたくなる。
(神は人間と違って、食事をしたり、誰かとお喋りをしたり、運動をしたりしないのだろうか?使用人のような者もここにはいないようだ。澄み切った空気は清々しくて気持ちいいけれども、少し殺風景過ぎないか?)
隣のユリウスをチラリと見ると、彼もビアンカの方を見ていたようで、パチッと目が合った。何となく胸が温まり、ビアンカの表情筋が少し緩む。
「ユリウス、儀式は(大丈夫ですかね)?」
ビアンカは誰に聞かれても良いように控えめな発言を心掛け、本心は目で訴える。
「はい、全く問題ないです。ただ・・・、ブッフフフ・・・」
真剣に尋ねたのにユリウスは下を向いて笑い出す。
(今の会話に笑うポイントなんて無かったと思うのだが・・・?)
「――――ユリウス?」
「あ、ハハッハ、失礼しました。では、ここの主を呼びましょう」
ユリウスは笑いを必死に飲み込んで、祭壇の方へ向き直った。ビアンカは怪訝な表情のままで、同じように前を向く。
「コソコソ見てないで出て来て下さい!」
「!?」
(ん?ユリウス、その柱の影に誰かいるのか!?――――私は気配を全く感じなかったぞ?相変わらず、凄いな)
「――――すまない。女性の訪問者は久しぶりで緊張してしまった」
ブツブツ言い訳をしながら、柱の影から現れたのは・・・。
「はぁ??父上!?」
ビアンカは彼の姿を見て叫ぶ。
「嘘っ!?どうして、ここに居るのですかー!!」
彼女は犬猿の仲の父親がここに居るとあっさり勘違いしてしまう。
――――それは仕方のないことだった。彼女の前に現れた男は、ビアンカよりも身長は頭一つ高く、サラサラの黒髪は後ろで緩く束ねており、瞳の色はヘーゼル色。その上、顔は彼女の父親(ピサロ侯爵)に瓜二つで・・・。上品な金色のローブを羽織っていた。
突然、『父上!?』と叫ばれたその男は、何も言わずに穏やかな表情でビアンカを見つめている。
(あれっ?おかしい・・・、言い返してこない!?物凄く似ているけれど・・・、まさか・・・えっ、別人?)
「主神ダイア、彼女は私の妻ビアンカ・ルーナ・コンストラーナです。今日は後継者の儀式をするためにこちらへ来ました。諸事情により早めに終わらせてください」
(えっ、今、ユリウスはこの人のことを主神ダイアって呼んだ?この父上にそっくりな人が神なのか!?本当に?――――いや、これ悪い冗談だろ・・・)
ユリウスはビアンカのことを主神ダイアへ紹介し、同時に此処へ来た目的も明らかにした。
「魔塔主ユリウスよ。そう慌てるではない。少し待て」
主神ダイアはユリウスに待ったを掛けて、ビアンカの方を向く。
「まずは、そなたの瞳を見せてくれないか」
主神ダイアはビアンカの前にやって来て、彼女の瞳をジーッと覗き込んだ。
(な、何っ?これは紫の瞳を確認して偽者かどうかを判別するってことか?――――正直、私も自分が本物かどうかなんて、ユリウスに言われただけだから自信が無いのだが・・・。――――ここで偽物と言われたら、最悪だな)
音のない神殿でゆっくりと時が過ぎていく。その静寂を破ったのは迷いのない発言に定評のあるユリウスだった。
「ダイア、――――長い!」
(ユリウス、主神にタメ口・・・。それ大丈夫なのか?――――本当の身分が王位継承権を持った王子だから特別に許されているとか?――――いや、それは無い。ローマリア王国とこの主神ダイアは何の関係もないのだから。――――少なくとも私が読んだことのある神話では、神に暴言の吐いた人間は碌な死に方をしていなかった。そんなことにならないためにも『ため口はダメだ!』と、年長者の私がユリウスへ注意するべきか・・・)
「――――ユリウス、その口の利き方は良くない」
ビアンカは主神ダイアと目を合わせたまま、隣のユリウスへ注意する。すると、ユリウスはこう言った。
「問題ありません。力関係どおりです」
ユリウスはキッパリと言い切る。ビアンカは彼のいう意味が全く分からない。
(主神にため口を聞いて良い力関係とはどういうこと?ユリウスと主神は同等、もしくは・・・。いや~、それは無い!!相手は主神だぞ!もしかして、ユリウスが何か主神の弱みでも握っているとか・・・、そうだ!きっと、そういうことだ!!それなら、あり得る!!)
「ビアンカ、そなたは何故、女戦士になった」
心の中の整理がついた瞬間、主神ダイアから急に話し掛けられた。ビアンカはその質問を投げかけられた時はいつも同じ回答をする。
「弱い立場の人々を守るためです」
――――その言葉を言い放つ時、ビアンカは凛としていた。
主神ダイアは大きく頷いて彼女の言葉を受け止める。口にするのは簡単だが、それを英雄と呼ばれるまで成し遂げて来たのは大変なことだっただろうと。
(この想いは国軍にスカウトされて、宿舎で生活するようになった頃から変わらない。大斧一つで出来ることは何でもして来た。結果、英雄と呼ばれるようになった。だが、英雄とは単なる誉め言葉の一つだ。名誉?――――そんなもので大切な人は守れない。それくらい誰でも知っている。だから、私は毎日鍛錬をして、いつでもこの大斧を振り回せるようにしているのだ!!)
「そうか。では、私の血を引くお前に力を分け与えよう」
「質問はたったそれだけですか?」
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