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大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)  作者: 風野うた
囮になってみた結婚4日目

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41 空腹には勝てない

楽しい物語になるよう心がけています。

どうぞ最後までお付き合いください!!


「ねぇ、ユール見なかった?」


 温室の前で休憩しているフリをして、辺境伯夫婦の警備をしていた庭師グラードは気を引き締める。ふらりと現れたのはサルバントーレ王国のフォンデ王子だった。


「ごきげんよう、フォンデ王子殿下。申し訳ございませんが、閣下は見かけておりません。お探しでしたら、執事に聞いて参りましょうか」


「うううん、大丈夫だよ。急ぎの用事じゃないから」


「左様でございますか」


 グラードは安心する。この様子なら思っていたよりも簡単に引き下がってくれそうだ。しかし・・・。


「ああ、そうだなぁ~。それなら、ビアンカでもいいや。――――ねぇ、ビアンカは何処にいるの?」


 フォンデ王子はグラードに笑顔を張り付けて詰め寄る。


「ビアンカ様は私室にいらっしゃいます。ここのところ、スケジュールが詰まっていらっしゃいましたから、午後はゆっくりなさるのではないかと・・・」


 彼は顔色一つ変えずに、あらかじめ用意していた文言をフォンデ王子に伝えた。ここで嘘を吐いているとフォンデ王子に悟られたら面倒なことになる。フォンデ王子は背後の温室に二人が居ると知ったら、迷いなく飛び込んで行く。――――そう、この御方の傍若無人はいつものこと・・・。


「そっか~、疲れているのか~。うん、新婚さんだもんね。ユールはいいなぁ~」


「閣下が楽しそうにしていらっしゃる姿を見るのは使用人として嬉しい限りです」


 グラードは心からそう思っている。


 当初、閣下は城の使用人たちやリシュナ領軍の兵士たちに厳しく正しく無駄のない態度を貫いており、少し近寄りがたい雰囲気をお持ちだった。


 ある日、あの英雄ビアンカ様が閣下の元に嫁いでくると城で働く者たちへ内密に伝えられた。その日から閣下は使用人や兵士へ気軽に話しかけるようになっていく。


 『彼女がこの城で快適に過ごすためにはどうしたら良いと思うか?』と。


 敏感な侍女たちは、『閣下の行動の随所に花嫁への愛情が垣間見えて甘酸っぱい!!』と裏方で騒ぎ、鈍感な兵士たちは『英雄ビアンカと手合わせするぞー!!』と鍛錬に精を出し始める。


――――気が付けば城の者たちは花嫁のために尽力する辺境伯を応援していた。城の中に一体感が生まれ、来たる日まで誰もが新しい花嫁を迎える準備に勤しんだ。


 そして、ご結婚式を終えた閣下とビアンカ様が馬車からこの城に降り立った、あの日、お二人がにこやかにお話しされている様子を見て、グラードは言葉に出来なくらいの喜びを感じた。


「――――だよね~。しかも、紫の瞳だよ!!」


「確かにビアンカ様は宝石のように綺麗な目をしていらっしゃいますね」


「そうなんだよ!!だから、僕の友人たちにも早く伝えたくて仕方ないんだ!ユールの素敵なお嫁さんのことを!!」


 フォンデは楽しそうに笑った後、離宮の方へ踵を返す。そして、手をひらひらと振りながら去っていった。その姿をグラードは立ち上がって最後まで見送る。


――――無事に去ってくれて本当に良かったと胸を撫で下ろしながら・・・。


――――


 その頃、温室の中にいる二人は・・・。


「何故に儀式!?勝手にそんなことをしたらマズいのではないですか?」


(優しく笑ったと思ったら突然、飛んでもないことを言い出す・・・。この瞳が後継者の『証』だとしても、私は今までただの人間として生きてきた。それで十分強いのだから、神の力など要らない。それにこの大陸の国々に了承を取らなくていいのか?イリィ帝国は滅びた国とは言えこの大陸を治めていたのだから、何かしらの影響が他国に出たらどうするつもりだ?)


「――――ビアンカ、あなたが後継者の儀式を終えたら、ターキッシュ帝国の侵攻を防ぐことが出来ます」


「――――侵攻を防ぐ?」


「はい、あちらは第四皇子が神の力を得ることを見込んで、この大陸を狙っているわけですから、あなたが儀式をして神の力を継承してしまえば、余程のバカじゃない限りこの大陸には手を出さない筈です」


「『余程のバカじゃない限り』ですか」


「ええ、そうです」


(そうか・・・。私は神の力やこの大陸の他国のことばかり考えていたが、ユリウスはこの大陸を守る方法を考えていたのか!!あ~、視野が違い過ぎたな・・・。しかし・・・)


「他の国に言わなくてもいいの?」


「いいでしょう。どうせバレませんから」


 サラッと恐ろしいことを言うユリウス。


(迷いのない男の迷いのない発言!!でも~~~、バレないって・・・、本当に?)


 ビアンカはジト目でユリウスを窺う。彼はこんなに重要なことを話しているのに、バナナジュースを美味しそうに飲んでいる。


(はっ!?――――もしや、成長期?――――いや、そうかも知れないが、今は呑気にジュースを飲むタイミングじゃないだろ!!――――むむむっ!一気にグラスを空けたぞ!?)


「バナナジュースを一気飲み!?」


 つい本音が口から洩れてしまう。


「最近、ずっとお腹が空いている感じがして・・・。すみません」


 ユリウスは素直に謝った。これは間違いなく成長期だとビアンカは確信を持つ。


(まだ十七歳なのだから、まだまだ背も伸びるのだろう。うっかりしていた。余計なことを言わずに食べさせないと!!!)


「こちらこそ、すみません。どうぞ、遠慮なく食べて下さい!!それで、どこまで話して・・・」


「儀式を執り行うという話です。危険はありません。ターキッシュ帝国以外の国に知られることもないでしょう」


(危険もないのか・・・。ターキッシュ帝国は神の力を手に入れようと画策しているのかも知れないが、他国はもう五百年も前に滅びた旧イリィ帝国のことなど、どうでもいいだろう。それなら・・・)


「分かりました。後継者の儀式を受けます。私もこの大陸の人々を守りたいですから。ところで、儀式とは何をしたらいいのですか?」


「はい、儀式は神殿で執り行います。立会人は魔塔主がするので、二人で行けば簡単に済ますことが出来ます」


「二人で?」


「そうです。この後、神殿へ行って速やかに執り行いましょう」


(後継者の儀式なんていうから、もう少し大掛かりなのかと思ったら案外、簡単そうだな。しかも、現在の魔塔主がユリウスだなんて・・・、話が出来過ぎじゃないか?)


 二人は朝食の後、密かに儀式を執り行おうと約束をした。



★ミニ情報★

庭師グラード 辺境伯城で働く庭師のおじいさま。元戦士で弓が得意。

時々、若い子(X)の手伝いに駆り出される。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。


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