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40 二人の後継者

楽しい物語になるよう心がけています。

どうぞ最後までお付き合いください!!


 かつて『聖地イリィ』と呼ばれていたイリィ大陸。――――この大陸には古き時代に建てられた神殿が点在している。


 だから、ここは神々が暮らす聖地だったのですと言われても、ビアンカは神を見たことが無いので何とも言えない。


 ただ、この大陸の大半の者は神の存在を信じている。その理由の一つとして、旧イリィ帝国の建国神話が神の存在を認めているということが挙げられるだろう。


 この建国神話は神の子と人間の娘が恋に落ちるところから話が始まる。ところが二人は多くの問題に阻まれ、とうとう一緒になることは叶わなかった。


 二人の間が引き裂かれた後、娘は自分が妊娠していることに気付く。


 娘は自分の中に宿った小さな命のことを神の子には知らせなかった。自分が責任を持って、愛する人の子を人間の世界で大切に育てていくと決意したからである。


 やがて、その愛し子はイリィ帝国を築いた・・・。


「あの建国神話、イリィ帝国の皇族は神の血を引いていると宣言していますよね。かなり眉唾な話だと・・・」


「ええ、本当に嘘のような話ですが・・・」


 ユリウスは言葉を止めて、一口サイズに切ったベーコンを口へ運び、咀嚼し始める。


(え~、このタイミングで話を止めて食べちゃうのか!?しかも、ちょっとこれ美味しいなというような顔をしてるじゃないか・・・)


「ユリウス、続きが気になります」


 ビアンカはユリウスを待っている間に、オレンジジュースの入っているグラスを手に取って、一口飲んだ。――――甘酸っぱさが訓練後の身体に染み渡る。疲れが和らいだような気がした。そして、もう一口・・・。


「――――真実です」


 ゴホッ、ゴホゴホッ・・・。


(うううっ、ユリウス!発言のタイミングが悪過ぎる!!あわわわっ、変なところにオレンジジュースが・・・、ゴホッ、ゴホッ。――――というか、真実って・・・!?えーっと、聞き間違えてないよな??)


「真実?」


「はい、間違いありません」


 神の存在を肯定するという飛んでもない発言をした後、彼はパンを千切って口に運び出した。クルミが練り込まれているからか、噛むたびにザクザクといい音を立てている。


(ユリウス、こんな話をしながら、普通に食事をするのか・・・。私はこの後、何を命令されるのかが気になって、食欲が失せていっているのだが・・・)


「――――ということは・・・、コルネリア王女は神なのですか?」


「いいえ、彼女は人間です。そして彼女の父(ネーゼ王国の国王)も人間です」


「では、神は何処へ行ったのですか。――――もしかして、五百年前にイリィの皇家は滅亡していたとか?それとも、神の力が尽きた?または子供が出来ずに血縁が途絶えた?――――だとしたら、今のネーゼ王国の王族とは一体・・・?」


 歴史好きのビアンカはいくつかの仮説を立てて、ユリウスに問う。


「ビアンカ、順を追って話していきます。先ず、神は何処にも行っていません。そもそも、この大陸は神の住む聖地ですから」


「なるほど・・・」


「それから、旧イリィ帝国の皇族は滅びていません。ネーゼ王国の王族は間違いなく、旧イリィ帝国の皇家の血を引いています」


(血縁があるのに、コルネリア王女と国王が人間というのは・・・、どういう事なのだろう?)


 毎度、ユリウスの話は説明が足りない。ビアンカの食事の手はすっかり止まってしまっている。視線を上げるとユリウスはグリルポテトを口に運んでいた。


(訓練の後だし、腹が減っているのかも知れないが・・・。私は歴史書に書かれていないような話を聞かされて、困惑しているのに!)


「ユリウス、私の理解力が乏しいのは分かっています。ただ、もう少し分かり易く・・・」


 ビアンカは上目遣いで彼にお願いした。単純明快に話して欲しいと心から願って。


「分かりました。では何故、イリィ皇家の血を引いているのに神と普通の人がいるのかを説明します。イリィ皇家の血を持つ者の中で、神の力を神から分け与えてもらえるのは一代に付き一名です。要は後継者が神の力を得るのです。その後継者とはイリィ皇家の血を引き、『証』を持つ者の中から選ばれます。しかし、コルネリア王女と国王はその『証』を持っていません」


「『証』・・・?それを誰も持っていないということは、いよいよイリィ皇家が滅びる時が来たということですか?」


「いいえ、血縁者はあの二人だけではありません。五百年前の争いをあなたもご存じでしょう?」


(それくらいは有名な話だから知っているけれども・・・)


「四人の王子が争って内乱になったにもかかわらず次の皇帝が決まらなかった。そして、国が五つに分かれたという話ですよね?」


(次の皇帝の席を四人で争ったということは・・・、四人とも『証』があったということか・・・)


「ええ、そうです。ネーゼ王国は第二王子の子孫です。第一王子、第四王子は内乱で亡くなりました。そして、第三王子は海を渡って国外へ逃亡したのです」


(第三王子が海を渡って逃げた!?いや・・・、そんな話、初めて聞いたのだが。五百年も前の話だろ?ユリウス、あなたはどうしてそんなに・・・)


「――――そこまでは知りませんでした。この情報は王家の機密ですか?」


「いいえ、魔塔の機密です」


「あ~、かなり聞いてはいけない(聞きたくない)ヤツですね。――――その顔・・・、まだ続きが?」


 のどの渇きを感じて、ビアンカはオレンジジュースを一口飲んだ。相変わらず、食べ物には手が伸びない。というか、もう食べたい気分ではない。


(もしや、その末裔を殺せと私に命令するつもりか?相手は神の力を持っているかもしれない者か・・・)


 ビアンカは勝手に先読みをしてしまう。


「現在、イリィ皇家の『証』を持つ者は二人います」


(ああ、やっぱり・・・。その上、二人も倒さないといけないのか!!よし、覚悟を決めなければ!!)


「一人目はターキッシュ帝国・第四皇子テオドロスです。彼の母はイリィ帝国が崩壊した際にこの大陸から去った第三王子の血縁です」


(第三王子はターキッシュ帝国に流れ着いたのか。かの国はツィアベール公国の件にも絡んでいるし、厄介だな・・・。碌な展開にならなさそうだ)


「で、もう一人は?」


「もう一人は・・・・・」


 ユリウスは話している途中で言い淀む。


(この大陸のために倒さなければならない相手なのだろう?どんなに強い敵でも、私は立ち向かう!!)


「遠慮なく行って下さい。もう一人は誰ですか!!」


「・・・・・」

 

 数十秒ほど二人で見詰め合った後、ユリウスは重い口を開いた。


「――――あなたです」


「・・・・・・」


「ビアンカ、あなたです」


「――――は?どういうことですか!?私と旧イリィ帝国に接点なんてありませんけど?」


 ユリウスに食って掛かるビアンカ。父はこの国で代々続く侯爵家の一人っ子で、母もこの国に古くからある伯爵家の出身だ。ネーゼ王国の王家と繋がる可能性など全くないという確信が彼女にはあった。


「ビアンカ」


「はい」


「イリィ皇家の後継者の『証』はその紫の瞳です」


「この目が『証』!?いや、紫色の瞳は少し珍しいかも知れませんが・・・、かの国と私は今、言ったばかりですが接点など無く・・・(間違いなのでは・・・)」


「ビアンカ、宰相(ピサロ侯爵・ビアンカの父)のお母上は、ネーゼ王国のご出身でしょう?」


(父の母・・・。祖母のことか?)


「父方の祖母マーシャはフーリー領(ピサロ侯爵家の領地)で隠居していますが、彼女の実家はこの国のクラン伯爵家です」


「イリィ皇家の血を引いているのは前妻のサヴァンヌ殿です。彼女はネーゼ王国フローレンス公爵家の出身。父親は王弟ヴィンセントです。あなたのおじい様であるモルト殿のところへ嫁いで来ましたが、あなたの父上を出産する際に命を落とされました。マーシャ殿は後妻です」


「嘘・・・!!そんな話、知らない・・・」


 ビアンカはテーブルの上で拳を握り込む。


(私の知らない祖母がいて、その祖母がネーゼ王国の王弟の娘だなんて話は初めて聞いた。母上や兄上はこのことを知っているのか?こんな重要なことを私にだけ隠していたのだとしたら到底、許せないのだが!?父上―っ!!!)


 彼女の様子が気になったユリウスはカトラリーを皿の上に置いてから、ビアンカの横へ移動した。そして、屈んで彼女に目線を合わせる。


「ビアンカ、驚かせてしまいましたね。大丈夫ですか?」


 ユリウスはビアンカの両頬を手のひらで包み込む。


(――――ユリウス・・・)


 彼の温かさを感じてビアンカの固く握り込んでいた拳が緩んでいく。


「ユリウス・・・。何度も聞いてすみませんが、――――本当に?」


「残念ながら、真実です。ネーゼ王国の王家の血をあなたは引いています。宰相が伝えなかったのは、あなたを密かに守りたかったからです」


「――――私を守るため?」


「ええ、そうです。愛するあなたをターキッシュ帝国の皇帝から守ることを宰相はいつも考えています。そのターキッシュ帝国の皇帝は、自分の子がイリィ帝国の後継者の『証』を持って産まれたことにより、この大陸を狙うようになりました。そして、自分の息子が産まれた二年後にあなたが産まれたと知り、事あるごとに命を狙おうとして来たのです」


(息子を使ってこの大陸を手に入れたいから、私が邪魔だったということか。――――しかし・・・、狙われていたという自覚が全くないのだが・・・)


 ビアンカはユリウスの手で頬を包まれたまま、首を傾げる。


「父上、別に隠す必要なんてないのに・・・。何度、狙われようと、私は強いから負けないのに・・・」


 ユリウスは彼女がボソッ呟いた言葉を聞いて、ふんわりと柔らかな笑みを浮かべた。


「そうですね。宰相もターキッシュ帝国の皇帝も、あなたがこんなに強いとは思っていないのでしょう」


 ユリウスは視線をビアンカの傍に置いてある大斧へ向ける。


「ビアンカ、後継者の儀式を執り行いましょう」


「――――はい?」


★ミニ情報★

【ネーゼ王国】

サヴァンヌ・シーラ・ピサロ(ビアンカの祖母)ネーゼ王国・王弟の娘 ビアンカの父、ピサロ侯爵を産んだ時に亡くなった。(前妻)

ヴィンセント・ルド・フローレンス(サヴァンヌの父)ネーゼ王国の国王の弟、フローレンス公爵家の当主。

【ターキッシュ帝国】

皇帝ムガリ(野心家)

第四皇子テオドロス イリィ皇家の後継者の証を持つ者(紫色の瞳)


【ローマリア王国】

マーシャ(ビアンカの祖母)クラン伯爵家からピサロ侯爵家へ後妻として嫁いで来た。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

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