38 レッスン? 下
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
ユリウスはビアンカの返事を聞いて嬉しそうにしている。一方、ビアンカはそんな彼が理解出来なくて、小首を傾げたまま彼を見詰めていた。
(足が綺麗。寝言が可愛い。そんな些細なことで褒められるとくすぐったい。よっぽど、ユリウスの方が見た目も良くて、何でも出来るじゃないか・・・)
――――そこで、ピンと閃く。
(ユリウス、もしかしてワザと・・・!?)
「あのう、今更ですけど!私が飛び掛かった時にどうして抵抗しなかったのですか。あなたなら防げたでしょう?」
「そんなことはありません。ビアンカはとても強いですから・・・」
「いやいやいや、ユリウスの方が絶対強いですよね?」
ビアンカは『絶対』という言葉を強調する。
「では、油断していて防げなかったということにしておいて下さい」
クスッと笑う、ユリウス。――――ビアンカはゾッとする。
(これ・・・、油断したとか絶対、嘘だろ!!投げられて嬉しかったとか楽しかったとか言い出しそうで怖いのだが!?私の夫は大丈夫か!!)
「それよりも・・・、今日からリシュナ領軍の朝訓練に参加するのでしょう?」
「あっ、そうだった!!ユリウス、起こしてくれてありがとう。着替えて来ます!!」
ビアンカはクローゼットルームへ行くためにソファーから立ち上がろうとした。
「ビアンカ、待って」
「えっ?」
ユリウスは彼女の右腕を掴んだ。
「恋人四日目のレッスン課題です。あなたからキスをして下さい」
「はぁ?――――レッスン課題~!?いつそんなシステムになったのですか?」
気の抜けた声を出すビアンカ。
(急いで呼び止めた理由がキス?――――本気か・・・。いや、昨日まではリードしてくれたじゃないか。それじゃダメなのか!?)
彼女は少し想像してみる。自分からユリウスに唇を寄せる姿を・・・。
「無理・・・」
「何故?」
「――――恥ずかしいからです」
ビアンカは素直な気持ちを伝えた。
(伊達に二十一年間、恋人なしの独身だったわけではない。ユリウスの出したレッスン課題は私にはハードルが高過ぎる!)
「では、私が目を瞑って動かないという条件にしましょう」
(条件!?はぁ~、しないという選択肢はないのか?しかも、優しい顔から突然、妥協は許さないオーラ全開の仕事モードな顔になっているじゃないか・・・)
彼は少しでもビアンカがやり易いようにと考えて提案したのだが、ビアンカにはその想いが伝わらない。
(う~ん、これは達成しないと朝訓練に行かせて貰えないパターンなのか!?それは困る・・・)
「――――やってみます」
どうしても朝訓練に行きたいビアンカは、恋人四日目のレッスン課題にチャレンジすることにした。ユリウスはビアンカの前に立って目を閉じる。
(別に逃げたりはしないのに、この腕は離してくれないのか。力は入ってないのに全く外せる気がしないから恐ろしい。それにしても、こんな強制的なレッスン課題はダメだろう。恋人の練習とは愛とか恋とかそういうものを二人で育むのではないのか?これでは目標から遠ざかっていくような気がするぞ)
ふぅ。
心の中で悪態をついたビアンカは、小さなため息を吐いてから彼の顔を見た。瞼を閉じているので、ライトグレーの瞳は隠されている。その代わり、銀色の睫毛が羽毛のようにフワフワとしていることに気付いた。
(睫毛がカールしている。はぁ、羨ましいくらいの美形・・・。さて、どこへキスしたらいい?――――鼻先、目元、頬、口・・・、いや、口は恥ずかしい。鼻先で勘弁してくれ~)
ビアンカは覚悟を決めて、彼の鼻先へチュッと軽く触れてみた。しかし、ユリウスは無反応。
(アレ?反応がない。かなり軽く触れただけだったから、分からなかったのか?)
次は右頬へチュッと唇を軽く押し付けてみる。ユリウスの頬はムニッとしていた。
(――――これ、かなり恥ずかしい。――――頬が、熱い。よく考えたら、戦い以外で自分から男に触れるのは初めてかも知れない・・・)
ビアンカは熱くなった顔を手で扇ぐ。目の前の彼は何の反応も見せない。彼の様子が気になりつつ、ビアンカは扇いでいた手を止めて、更に彼の左頬と額にもキスをしていく。
(もう!!滅茶苦茶、恥ずかしい・・・、とうとう、手まで震え出した。うううっ、女戦士ビアンカの大ピンチ!!ユリウスはどうしたら合格をくれるのだろう?――――早くしないと訓練に遅れるのに~~~)
今、彼女はライトグレーの可愛いネグリジェを纏っている。軍服へ着替えることに慣れているとは言っても、そろそろ動かないと五時半からスタートする訓練には間に合わなくなってしまう。
(修練場までは結構、距離があるのにこんなにゆっくりしていたら・・・)
「ユリウス~。まだ、ダメ~?」
困り果てたビアンカに、ユリウスは黙って目を閉じたまま、口を指差す。
(くぅ~、意地悪!!あ~、もう!!恥ずかしいけど仕方がない。―――――遅刻ダメ、絶対!!女戦士ビアンカは時間を守る!!よし!覚悟は決めた!)
ビアンカは震える指先を数回、ブルブルと振ってから、ユリウスの首に両腕を緊張しながら回した。
(ああああ、近い。はぁー、覚悟を決めるしかない!!)
頭を傾けて、ゆっくりと目標(ユリウスの唇)へ唇を近づけていく。
(ううううっ、恥ずかしい・・・!!いつもユリウスがしているようにしたらいいだけなのに、どうしてこんな・・・。はぁ~、はぁ~、動悸がする。――――ダメだ・・・、頭に血が上って、ボーッとしてきた。鼻血が出たらどうしよう。――――ユリウスは何故、スマートにキスが出来るのだろう。迷いのない男だからか?性格の問題か!?)
漸く、ビアンカの唇はユリウスの唇に辿り着いた。
(うわっ、ヤバッ!温かっ・・・、んんんっ、しっかり触れている。――――あ~、ドキドキし過ぎて息が上手く出来ない。苦しい・・・。ああああ、心臓が破裂しそう。――――ところでキスって、何秒くらいしたらいいんだろう・・・)
唇を離したところで、緊張が限界に達したビアンカは脱力した。ユリウスは寄り掛かって来た彼女をギューッと受け止める。
「ビアンカ」
ユリウスに呼ばれて、ビアンカが真っ赤になった顔を上げると彼と瞳と目が合ってしまった。
(いや、恥ずかしいというか、照れくさいというか・・・、ソワソワする!!何この感じ!!!昨日のキスの後とは全然違う!!)
「ビアンカ、ありがとう」
彼の感情を込めた言葉が心に染みる。
(綺麗な顔でこんなに嬉しそうな顔をされたら・・・。ああ、胸の奥が熱い。これは、――――恥ずかしいからだ。きっと、そうだ!!そうに違いない!!)
ビアンカは、初めて抱いた感情を持て余してしまう。
「では、そろそろ支度を・・・。朝訓練には私も参加します。着替えたら一緒に行きましょう。ここで待っています」
ユリウスはクローゼットルームの入口まで、彼女の手を取ってエスコートした。
――――ドアを閉めた途端、ビアンカはドサッとその場に座り込む。
(あああ、もう、ダメだ!!心臓がまだバクバクしている。はぁ~、緊張し過ぎた・・・。こんなにドキドキしたのは人生初かも知れない。――――マズいな。朝訓練の前に何とかして心を落ち着かせなければ!!――――そうだ!こんな時こそ、東洋のサムライ式呼吸法をしてみよう!!)
「動く時に吸う、止まっている時に吐く!!」
――――胸がドキドキした本当の理由を彼女が自覚する日はまだまだ遠い。
―――――
彼女がクローゼットルームへ入った後、ユリウスは力が抜けてベッドへ倒れ込んだ。
「ああ、もう今日はこの部屋にずっといたい・・・」
難しいレッスン課題を出しても、責任感の強いビアンカはきっと何とかするだろうとは思っていた。
「緊張して震えるなんて、反則だろう」
ユリウスは両手で顔を覆って、見悶える。
「こんなにドキドキしたのは初めてだ・・・」
――――この戦い(レッスン)は、女戦士ビアンカの完全勝利で幕を閉じた。
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