37 レッスン? 上
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
恋人の練習を始めて四日目の朝。窓の外はまだ薄暗く、そろそろ五時を迎えようとしている。
「ビアンカ、時間です。ビアンカ・・・」
「ん~、まだ、――――齧ってみるから・・・」
彼女の可愛い寝言で笑いのツボを刺激されてしまう、ユリウス。
いつもは威厳を保つため人前で笑いそうになったら必死に堪えるのだが、今この部屋にはビアンカしかいない。――――しかも、彼女は眠っている。これは細かなことを気にしなくても良い状況ということ・・・。
「ブッ、アハハハ!!クックックッ・・・」
我慢せずに大笑いをしたユリウス。ビアンカは彼が声を出して笑っても、まだ起きない。――――笑ったことで心が解放されたのか、ユリウスにいたずら心が芽生える。彼は早速、ビアンカの見ている夢と合いそうな質問を彼女の耳元へ囁いてみることにした。
「ビアンカ、美味しい?」
「――――ガリガリはダメ」
『ガリガリとは何だ?』と、ユリウスはクスクス笑う。そして更に質問を続けてみた。
「硬いの?」
「ズルくて・・・、輝いて・・・、ん~~~~」
『ズルい』、『輝いて』いうことはもう食べ物の夢じゃなくなったのだろうか?
「もう食べないの?」
「甘い、甘いから・・・」
『甘い』ということは、まだ食べ物の夢を見ているようだ。
「それ好きなの?」
「――――強い、待って・・・」と言いながら、彼女は身じろいだ。ユリウスは笑いながら、独りごちる。
「フフフッ、クッ、ククッ、今度は戦っているのか?――――ハチャメチャで面白いな・・・。アハハハ・・・・」
このまま彼女の観察でもしていた方が楽しい一日になりそうだ。ユリウスは一旦、声掛けするのを止めて、彼女のベッドに腰掛ける。
――――昨夜、二人の寝室にベッドがひとつ増えた。これは言うまでもなく、ユリウスの寝相問題の落とし処としてである。
彼はあれだけのこと(彼女をベッドから投げ落とした)をしてしまったため、『今後は寝室を別にして欲しい』と彼女から言われても仕方ないと半ば覚悟を決めていた。ところが、ビアンカはユリウスに一緒の寝室で過ごすための解決策を考えたと言って来たのである。――――これは素直に嬉しかった。
一つ目の案は、クローゼットルームに寝具を用意してもらい、彼女がそこに寝る。
二つ目の案は、寝室にベッドを二台置く。
ユリウスは迷うことなく二つ目の案を推した。
理由は至ってシンプル。彼女をクローゼットルームなんかに寝かせたくなかったから。その後の話し合いで天蓋付きのベッドはビアンカ、後から設置した窓際のベッドはユリウスが使うことになった。なお二人のベッドの間には応接セットを置いて距離も確保した。これなら、ビアンカは天蓋のカーテンをしっかり閉めておけば、ユリウスが暴れまわったとしても安全に眠れるだろう。
「――――もっと早く知りたかった・・・」
ユリウスは今まで寝相の悪さを指摘してくれなかった使用人たちに一言、物申したい気分だった。一番恰好をつけたい相手から欠点を指摘されるという恥ずかしさと情けなさは言葉にならない。――――しかも、自覚して無かった分、ショックが大きかった。
ガサッ。
ブランケットからビアンカの右足が飛び出す。ユリウスはブランケットを掛け直してあげようと端の方を摘まんだのだが・・・。そこで目に留めた彼女の足に見惚れてしまう。
並み外れた運動神経を持つビアンカの足、そのつま先は思っていたよりも細くて指が長かった。足裏のアーチもしっかりとしていて綺麗な曲線を描いている。身長が高い分、一般の女性より足のサイズは大きいのかもしれない。ただ、戦士にしてはかなり華奢な気がする。
「この足で身体を支えて、あの大斧を振り回すなんて、とても・・・」
ユリウスは何気なく彼女の足の裏を親指で、ギュッと押した。刹那・・・。
バサッ!!ガサッ!!ドシン!!――――室内に派手な音と振動が響いた。
――――そして訪れた静寂。
「ビアンカ、――――おはよう」
至近距離にいる彼女の紫色の瞳にはユリウスが映っていた。
――――大きな音を立てることになった原因は、ユリウスの軽はずみな行動である。
彼がビアンカの右足の裏を押した瞬間、彼女はブランケットを左足で蹴り上げた。そして、勢いのままに自分の体重を相手に乗せてそのまま床へ押し倒す。その際、拳を握った腕を交差した状態で相手の首元へ固定して、動きも封じた。
突然の覚醒から一連の動作を無意識にしてしまったビアンカ。彼の声を聞いて、敵だと思っていた相手がユリウスだと気付く。
(あ、あれ?何で!?ユリウスを絞めて・・・、えええっ、もしかして、私も寝相が悪かったのか?――――嘘~!!)
「――――お、おはよう・・・、ユ、ユリウス、これは・・・」
彼女は起きたばかりで状況が全く分かっていない。ただ、ユリウスの首元を絞めていた腕は慌てて外した。
二人は無言で床から起き上がり、応接セットのソファーへ隣同士に座る。
「乱暴なことをして、――――申し訳ない」
「いいえ、これは私が悪いので・・・」
お詫びの言葉を口にするビアンカへ、ユリウスは事情を説明した。
――――数分後。
「――――分かりました」
(つい触ったって・・・。この足の何がそんなに良かったのだろうか?ユリウスの感性はサッパリ分からない。――――私を好きだというところから、かなり変わっている人だというのは知っているが・・・)
ビアンカは寝相が悪かったわけではないと分かって安心した。ユリウスが足を褒めてくれたが正直、自分の身体には全く興味がないので聞き流すことにする。
「でも、起こして貰ったのに直ぐに起きなかったのでしょう?すみませんでした!」
「いえ、私も途中で起こしたく無くなったので・・・」
「ん?」
ユリウスはおかしな寝言の話を彼女に伝えた。――――余りに可愛い寝言を言うのでいつまでも見ていたかったと・・・。
(いや、夢の内容など何も覚えてないのだが・・・)
「残念ながら、飛び起きた時に夢の内容は全て忘れてしまいました。楽しんでもらえたのなら、良かったです」
「ええ、とても楽しかったです。毎日、聞かせて欲しいです」
「――――まぁ・・・、それはお好きにどうぞ」
(私の寝言が楽しいって言われても、私は寝ているから聞けないし。――――まぁ、減るものでもない、好きにしたらいい)
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