35 安堵 上
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「ユリウス、あいつらは何を揉めているんだ?」
――――声を掛けて来たのはマクシムだった。背後ではビアンカがマリオを締め上げている。ユリウスは堪えていた笑いを無理やり消化して、彼の質問に答えた。
「国軍の兵士たちが、ビアンカの結婚を賭けにしていました。そして今、彼女は同僚から首謀者を聞き出そうとしているところです」
「ああ、なるほど・・・」
マクシムはビアンカの方へ向き直る。
「おい!そこまでにしろ!!」
(ん?あっ、マクシムじゃないか!いつの間にここへ?)
制止の声を掛けられ、ビアンカはピタッと動きを止めた。――――続けて、マクシムはこう告げる。
「首謀者は私が知っている。マリオを離してやれ、ビアンカ」
(いやいやいや、知っているじゃないだろ!!)
「知っていたのに野放しですか!!!」
「金銭のやり取りをした証拠を押さえてから、処分するつもりだった」
感情的になっているビアンカに対し、マクシムは落ち着いた口調で自分の考えを述べた。それを聞いたマリオが「あっぶね~」と反省の色も見せずにボヤく。
(てめ~、危ね~じゃね~だろ。賭けた時点でアウトだ!)
ビアンカはイラッとして、マリオを掴んでいた手を乱暴に離した。
「それで、首謀者は誰ですか?」
「将軍補佐のジャン・ローンだが、彼は・・・、あっ、待て、ビアンカ!!」
ビアンカはマクシムの話を最後まで聞かずに全力で走り出す。そして、出遅れたユリウスは彼女に置いて行かれてしまった。
――――マリオ、ユリウス、マクシムの間に気まずい空気が流れる・・・。微妙な状況で口火を切ったのはマクシムだった。
「あ~あ、作戦が台無しだ!!ジャンがお前に金銭を要求して来たところで取り押さえるつもりだったのに・・・」
「うえっ!!殿下、俺を囮にするつもりだったのですか!?」
「ああ、そうだ!」
ビアンカに散々引っ張られてボロボロになったシャツの胸元を整えながら、マリオはマクシムを恨めしそうな目で見る。ただ、腹は立っても相手は王太子なので反抗する気は無さそうだ。
「兄さん、呑気にしている場合ではないでしょう。そういう計画があるのなら、一刻も早くビアンカを止めた方がいいのではないですか?」
「それは・・・、そうだな。では、ユリウス、頼む!!」
――――ちゃっかりと面倒なことはユリウスに丸投げしてくる、マクシム。
ユリウスは「は~」と息を吐いてから、手のひらを上に向けて両腕を前に差し出す。マリオは『閣下は一体、何をするつもりなのだろう?』と、ユリウスの手元へ視線を向けた。すると、次の瞬間・・・。
――――宙から舞りて来た(落下してきた)ビアンカを、ユリウスが横抱きで受け止めた。
「はあぁ!?」と驚いたマリオが後退りをする。その様子を見ていたマクシムはニヤリと笑った。
一呼吸置き「えええ~?何で!?」と、ビアンカの叫び声が辺りに響き渡る。
「ビアンカ、兄さんの話を最後まで聞かないで走り出したでしょう」
「――――はい」
「兄さん、話の続きをビアンカにして下さい」
ユリウスはビアンカを横抱きにしたまま、マクシムへ指示を出す。
マクシムはニヤけていた顔を整えて、ビアンカに『マリオを囮にして、賭けに参加した者たちを捕まえる作戦』を伝えた。初めは怒り心頭だったビアンカもマクシムの話を聞き、それは良い案だと納得する。
「この件は兄さんに任せませんか?ビアンカ」
「そうします。殿下、よろしくお願いします。マリオォォ!ちゃんと協力しろよ!!」
彼女はマリオに『適当なことをしたら殺す』というメッセージを込めた、強い視線を送った。――――しかし、残念なことに彼女は今の自分の姿(ユリウスにお姫様抱っこをされている)をすっかり失念していて・・・。
「いや、その状態でメンチを切られても全然、怖くないから」
――――マリオのボヤキは幸いなことにビアンカまでは届かなかった。うっかり聞いてしまったユリウスはつい笑ってしまいそうになり、下を向いて必死に堪える。
「ユリウス、私はマリオと少し話をしてから、リシュナ領へ戻る。まだ他国の王族が辺境伯の城に滞在しているからな」
「――――分かりました。私達は先に戻ります」
マクシムは分かったと頷いた。
(マクシムは他国の王族がリシュナ領から去るまで接待を続けなければならないのか!?結構、面倒な役回りだな・・・。皆さんが一日も早く帰国してくれるように願っておくとするか。――――それにしても、会議ではツィアベール公国が消滅した話ばかりで、王太子妃たちを辺境伯の城の地下牢へ投げ込んだことは話題に上らなかったのだが、今後はどうするつもりなのだろうか?)
「閣下、お疲れ様でした!!」
帰ろうとしているユリウスへ、マリオが元気よく挨拶をする。
「マリオ、王太子の指示に従い問題(ビアンカをダシにした賭け)を解決してくれ。頼んだぞ」
「はっ!畏まりました!!閣下!!」
(王太子妃に王家の秘密を洩らしたとマクシムはあっさり認めた。マクシムは大公とタッグを組んでいるわけではないが微妙に繋がっている。だから、ユリウスは大公や王太子妃たちが辺境伯の城の地下牢にいることをマクシムに言うなと部下に指示していたのだろう。――――と、仮定するには、ユリウスが最初から全てを知っていたということが必須条件になる。まぁ、それはマクシムが情報漏洩を認めた時に他の者はかなり驚いてたのに、彼は顔色一つ変えていなかったから間違いないだろうな。――――ユリウス、その情報は一体どこから得たのだ?まさか・・・王太子妃本人から聞いたとか?う~む、ユリウスが彼女から言い寄られていた可能性は流石に・・・、いや、無くもないか・・・)
自分の世界に入ってしまっているビアンカを抱えたまま、ユリウスはマクシムとマリオに挨拶を告げるとその場を後にした。
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