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34 長い物に巻かれる

楽しい物語になるよう心がけています。

どうぞ最後までお付き合いください!!


 ビアンカは大声を上げたマリウスのことが気になってしまう。


――――彼女はマクシムが王太子の位を返上した場合、自分の未来がどう変わるのかというところまで考えが及んでいなかった。


「陛下、私は今後も裏から国を支えていくつもりです」


「マリウスよ。まだ、マクシムが王太子を降りると決まったわけではない」


「ですが!!私はネーゼ王国と小麦増産のプロジェクトを受け持っていて・・・」


(兄上、やけに焦っているようだが・・・)


 ビアンカはユリウスの袖を引く。


「ユリウス、ユリウス・・・」


「どうかしましたか?」


「(兄上は)どうしてあんなに・・・(慌てているのだろうか)」


 周りに聞こえても問題が無いように言葉を濁しつつ、――――チラリとマリウスを一瞥してから、間近にあるライトグレーの瞳を力強く見詰める。即座に質問の意図を理解したユリウスは、唇を彼女の耳へ触れてしまいそうなくらいに近づけて、小さな声で囁く。


「(このままでは王太子に)選ばれてしまうかも知れないと焦っているのですよ」


「!!!!」


(なっ!?そういうことか!王太子は次期国王になる者ということ。ならば、兄上が必死で逃げようとする気持ちは分からなくもない。だが、彼は王位継承権を持つ身でもある・・・)


「(兄上は後継者の)教育を受けられたのですよね?」


「いいえ。(ですから、彼が選ばれる)可能性は低いでしょう」


「そうですか。(それなら)良かったです。かなり・・・(嫌そうにしていたので)」


 ビアンカはマリウスが選ばれる可能性がないのなら良かったと素直に口にした。ところが・・・。


「ふぅ~~~~」


 ユリウスは大きなため息を吐く。


(えっ、ユリウス?――――滅茶苦茶大きなため息・・・。これ、ワザとだろ。また私が何かミスをしたということか?)


「――――さて、話を続けてもいいだろうか?」


 好き勝手に話をしているユリウスとビアンカに向かって、国王は注意を入れる。二人は口を閉じて前を向いた。


「ツィアベール公国についてだが至急、王宮から各部門の文官を数名ずつ、旧公都ムラーノへ送ろうと考えている。また国軍も暴動などに備えて派遣するつもりだ。――――ということでマリウス、お前をこの件の責任者へ任命しよう。今、受け持っているネーゼ王国とのプロジェクトと並行して進めてくれ」


「並行して進める!?そんな無茶なことを・・・。――――陛下、酷いです!!」


「お前はこの国を裏から支えたいのだろう?しっかり頼むぞ!」


(兄上、ただでさえ大きなプロジェクトを抱えているのに、こんな厄介な仕事を押し付けられて、――――可哀想に。それにツィアベール公国の民が、ローマリア王国を快く受け入れてくれるかどうかもまだ分からないし、揉め事にならなければ良いのだが・・・。それから、国軍を派遣するというなら・・・)


「――――マリオたちが出るかも知れないな・・・」


「また、マリオですか!?」


「っわ!口に出ていた!!」


 無意識に呟いた言葉に、ユリウスが言い返して来るとは思わず、ビアンカは焦ってしまう。


(この突っかかってくる感じ・・・。ユリウスはマリオのことが嫌いなのか!?会ったことも無いのに?)


「ビアンカ、仲間が出動することになったとしても、あなたはもう国軍には所属していないのですから、一緒には行けませんよ」


「それくらい分かっています!別に行きたいとか言っていません!!」


 ビアンカは不服な気持ちを込めて頬を膨らませ、上目遣いでユリウスを見詰めている。――――ピサロ侯爵は驚く。人前でこんなに可愛い素振りをするビアンカを見たのは幼少期以来かも知れないと。


 瞬きもせずに娘を凝視している宰相(ピサロ侯爵)に、国王は苦笑する。


「陛下、申し訳ないのですが・・・。私は今日中にネーゼ王国へ、一度戻りたいので、旧ツィアベール公国の件は、早めに関係者と打ち合わせを始めたいのですが・・・」


(おお!兄上、もう次の段取りを考えていたのか!頼まれたことを断ったりはしないのだな。やはり、彼は良い人だ・・・)


 彼女の中で、マリウスの評価がワンランクアップした。正直なところ、マリウスは王位継承者の中で一番、信用出来る人物だとビアンカは思っている。


「では、そろそろ終わろう。何か質問はないか?」


 国王の質問にその場の全員が特にないという雰囲気を出す。


「では、緊急会議はこれにて終了といたします」


 最後に宰相(ピサロ侯爵)が閉会を宣言して、会議は終了となった。



――――――――


「よう!」


 王宮の建物から外に出たところで、ビアンカとユリウスはマリオに遭遇した。


(うわ~、最悪なタイミング・・・)

 

「何だよ。その苦虫を噛みつぶしたような顔は・・・」


「・・・・・」


「お前、最近おかしいぞ。で、孤児院はどうなった。俺が止めたのに大斧を担いで行っただろ。子供たちは泣かなかったか?」


 マリオはニヤニヤ笑っている。


(ヤバい・・・。こいつには特別任務のことを言えないから、適当な嘘を吐いたのだった。どうしようか。――――結婚したって報告した方がいいだろうな・・・)


「お前はいつもビアンカにそういう態度で接しているのか?」


(はっ!?ユ、ユリウス・・・?なっ、何を言い出して・・・)


 マリオへの殺気を隠そうとしないユリウスにハラハラしてしまう、ビアンカ。しかし、何も考えていないマリオは、ユリウスの顔を見るなりこう言った。


「・・・・・、あんた、キレイな顔だな!!」


「・・・・・」


(あ~っ、ユリウスが固まってしまった。マリオが余計なことをいうから・・・。仕方ない・・・)


「マリオ、彼は私の夫だ!」


 ビアンカはマリオにユリウスのことを紹介しようとした。だが・・・。


「ぶぁっははは!!!何だ?その冗談は・・・、あんた、こんな女のダシにされて可哀想だな!ハハハ」


 腹を抱えて笑うマリオに対し、殺気駄々洩れで能面顔のユリウス。――――ビアンカは背筋が凍りつく。


(これ以上はマズイ!!魔王が降臨してしまう・・・。マリオをどうにかしなければ!)


「マリオ、よく聞け!!――――この御方はリシュナ領を治めているコンストラーナ辺境伯だ。失礼だぞ!!」


 ビアンカは長いものに巻かれるタイプのマリオには、ユリウスの肩書を告げた方が効果的だと判断した。


 その結果、マリオはピタッと笑うのを止めてビシッと背筋を伸ばし、腕を後ろで組んでユリウスへ視線を向ける。――――ビアンカのヨミは見事に当たった。


「閣下、大変失礼いたしました!!俺は国軍の指揮官補佐マリオ・コスナーと申します!!」


(いやいやいや、変わり過ぎだろ!!!マリオ~!!)


 マリオの変わり身の早さにビアンカはドン引きしてしまう。と、ここで、ユリウスの方を見ると・・・。


(あ、不機嫌だ・・・。かなり、不機嫌だ・・・。――――どうしたら、いつもの笑顔を引き出せる?)


 まだユリウスは無表情のままで口を開く気配もない。ビアンカは今度こそ、マリオに結婚したことを報告しようと試みる。


「マリオ、落ち着いて聞いてくれ。私は一昨日、彼と結婚した。これは嘘ではない」


 マリオの目を見て、ビアンカはゆっくりと言葉を紡いでいく。ついでに左手の指に嵌めてある指輪も見せながら。


「だから、私はもう国軍の所属ではなくなった。これからはリシュナ領で働く」


「――――ビアンカ、それは違う」


 意外なことに、ここでユリウスが口を挟んだ。


「今までもこれからも、ビアンカと私はローマリア王国のために力を尽くす」


「力を尽くす。――――くぅ~!!閣下、カッコいいことを言いますね!!そうかぁ~、ビアンカ、お前、本当に結婚して・・・、――――あ、マズ・・・」


 マリオは話している途中で言葉に詰まった。そして、その表情を歪めたかと思うと拳を握り込んで・・・、小刻みに震えている?


(震えるほど怒っているのか?もしや、私があの時、嘘を吐いたからか・・・。――――いや~、違うな。それくらいで、こんなに怒ったりはしないだろう)


 沈黙している三人の間に風が通り抜けた。と、次の瞬間。


「うわ~ん!!」


「えええっ!?」


 マリオは大声を上げて泣き出した。驚いたビアンカが声を上げる。


(こんなところで泣き出すだと!?)


「マ、マリオ・・・。何で?」


 腫れ物に触るようにマリオへ問い掛けるビアンカ。ユリウスは彼女の隣で静かにその様子を見ている。


「どうして泣く?私が居なくなって悲しいのか?」


 パシッ。――――ビアンカがマリオの肩に手を置こうとしたところで、ユリウスがその手をはたいた。


「ユリウス!」


「ビアンカ、彼を慰める必要はない」


「どうして?」


 彼女はユリウスに『理由を言え』と、目で訴える。――――ユリウスはフッと軽く息を吐いて、マリオの方を向いた。


「幾らだ」


「――――、グズッ・・・、ううううっ」


「言え!」


 ユリウスは強い口調でマリオに命令する。ビアンカは良く分からないまま、彼らのやり取りを見守る。


「――――万、――――ひゃく・・・、グスッ」


 声が震えて上手く言葉に出来ない。マリオは両手のひらで涙を拭い、顔を上に向けて数回、深呼吸をした。そして、気持ちが落ち着いたところで、ユリウスの方へ向き直り、ハッキリとこう答えたのである。


「百二十万ゴルドです」


(百二十万ゴルドって、何の金額?――――というか、この二人、私には分からない話で通じ合っているということか?)


「元締めは?」


(は?元締め!?賭け事の話か?)


「それは言えません。国軍から追放される可能性があるので・・・」


「言え!」


 ユリウスは容赦なく、マリオに詰め寄る。


(何の話か分からないが、ユリウスが切れる前に止めた方が良いだろう)


「待て、待て!!話が見えない。何をそんなに・・・」


 二人の間に割って入り、事情を聞こうとするビアンカ。ここで口を開いたのはユリウスだった。


「ビアンカ、彼らはあなたが結婚するかしないかを賭けていた。それでも止めますか?」


(何だと!!!!!)


「おい!元締めは誰だ!!」


 ビアンカはマリオの胸倉を掴んで、持ち上げる。


「うっうううう・・・」


「さっさと吐け!!!!」


 女戦士ビアンカの激しい尋問が始まると同時に、ユリウスは込み上げて来た笑いを隠すため、彼女たちに背を向けた。

最後まで読んで下さりありがとうございます。

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