33 引導
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
会議室の円卓の上座に国王が着席したところで、宰相(ピサロ侯爵)は緊急会議の開会を宣言した。しかし、集まっているメンバーは国王の血縁者ばかりで・・・。
(緊急会議というよりも、これは家族会議だな。陛下は先ほど会った時よりも随分と硬い表情をしている。――――マクシムにツィアベール公国のことを伝えるのが心苦しいのだろうか)
「良く集まってくれた。今日は皆が驚くような話も出て来る。どうか最後まで落ち着いて聞いて欲しい」
前置きを口にした国王はテーブルの上で両手を重ね、その場にいる全員の顔をゆっくりと視線で辿ってから、続きを話し始める。
「かねてから、我が国はサルバントーレ王国、ネーゼ王国、ポリナン公国と合同で、ツィアベール公国が引き起こした『武器の違法取引』及び、『イリィ大陸諸国への侵略行為』に関して捜査を重ねて来た」
国王はここで一度、言葉を止めてマクシムを見た。
「王太子、すまないが、この案件は秘密裏に進めていたが故、ツィアベール公国出身の妻を持つお前には伏せていた」
「――――承知いたしました」
マクシムは戸惑っているようだ。取りあえず返事だけはしたという印象を受けた。
「話を戻そう。今朝方、ツィアベール公国の大公及び、我が国の王太子妃リリアージュを逮捕、その身柄も拘束した。前述の件に加え、『英雄ビアンカの命を二度も狙った事件』についても罪に問うつもりだ」
国王の言葉を受け、円卓で顔を突き合わせている全員が揃って頷く。
「それと、一番重要なことを話す前に伝えておきたい。今朝ユリウスとビアンカがツィアベール公国の大公が暮らす城へ踏み込んだ。その際、城の中にはターキッシュ帝国の者しか居なかったそうだ。これが何を意味しているのか分かるか?」
国王はマリウスへ視線を送る。彼は軽く頷いてから、口を開いた。
「ターキッシュ帝国がツィアベール公国へかなり入り込んでいるということでしょうか?」
「そうだ。既に大公の城はターキッシュ帝国の親善大使と名乗る男に乗っ取られていたようだ」
「それは深刻な状態ですね・・・」
頭を抱えるマリウス。ビアンカは隣に座っているユリウスをチラリと見た。彼は涼しい顔をして、マリウスの方を見ている。
(公の場では別人のようだな。座っているだけで、人ならざる美しさに目を奪われるし、かなりの力を秘めていると感じさせるオーラも滲み出ている。だけど、実際は些細なことで笑うし、ちょっと指摘したら凹むという可愛いところがあるのだから、面白い人だ)
「マクシム、お前は(ツィアベール公国のことを)どれくらい把握していたのだ?」
ここで、国王が直球を投げた。
「陛下、私は・・・」
マクシムは言葉に詰まる。――――その場に居る全員が彼の言葉を待つ。空気がピンと張り詰めていく。
(言い辛いのかも知れないが、ここは正直に話して欲しい・・・)
ユリウスはマクシムが何処まで本当のことを言うのだろうかと考えていた。彼が何もかもを包み隠さずに話してしまえば、全く罪のないビアンカまで巻き込まれてしまう。――――仕方がない、ここは少し手助けをしてやるかと決意する。
「兄さん、王太子妃との関係はどうだったのですか?」
(おおおお?ユリウスがマクシムに質問をした!?彼に対して積極的に話し掛ける姿なんて、初めて見たぞ!)
「余り良いとは言えない関係だった。その原因は・・・」
やはり歯切れの悪いマクシム。
「原因は何だ?」
国王は話の続きを促す。ビアンカはヒヤヒヤしてしまう。
(陛下・・・、言えないような理由でも全てこの場で話しなさいということか?いや、これ、私が聞いて良いのか?)
「――――離婚の話を持ち掛けたところ・・・、拒否されたので、私は彼女にユリウスを勧めました」
「は?」
ビアンカは思わず声を出してしまう。咄嗟に口を押えたが遅かった。
(な、何故、そこでユリウスを勧める?――――意味が分からないのだが???)
「兄さん、あなたは王家の秘密を彼女に話したのですね?」。
「――――話した」
ボソッと答えるマクシム。彼はユリウスの指摘を肯定した。マリウスは「は~ぁ」と大きなため息を吐き、国王は頭を抱え込む。二人の様子は事態の深刻さを物語っていた。――――ビアンカは視線を合わせたくないあの人(ピサロ侯爵)の方もチラリと見て確かめる。
(あ~、蔑むような目でマクシムを見ている。私以外の人にも、父上はあの目をするのか・・・)
「兄さん、リリアージュはその話を大公にしたと思いますか?」
(あ、人前で王太子妃を呼び捨てにした!確かに彼女は罪人として、牢に捕らえられてはいるが・・・。容赦がないな、ユリウス)
「ああ、御父上に話したのは間違いないだろう。だから、お前の花嫁を狙うという愚かな行動に出たのだと思う。案外、乗り気だったのかと驚・・・」
マクシムがボソボソとした話し方をするせいで、ビアンカは語尾が聞き取れなかった。
(ユリウス~、マクシムがすっかり弱ってしまったじゃないか。それよりも知っていたことを知らなかったことのように質問していくのだから、凄い・・・。あんた真の嘘つきだな!)
彼女から嘘つきと罵られていることなど全く知らないユリウスは質問を続ける。
「ビアンカが狙われると最初から知っていたのですか?」
(あ、それは私も聞きたい。知っていたのなら一発、殴りたい)
ビアンカは机の下でこぶしを握った。
「知らなかった・・・だが、予測出来なかったのかと言われたら・・・、まぁ出来なかった私が愚かなのだろう」
(何だ!?その回りくどい言い方は!!)
ビアンカは机を殴りたい気持ちを必死に抑える。今ここで暴れたら、ピサロ侯爵が激怒するのは間違いないし、ユリウスに迷惑を掛けてしまう。
「少しいいか。マクシム、王家の秘密を漏洩した件についてはどう考えている?」
国王がここで口を挟んだ。
(これはそれ相当の処分を与えるという意味だろう。但し、王家の秘密を漏洩したという件はあくまで王家の問題だからなぁ。一般的な処罰を下すということとは違うと思われるが・・・)
「兄さん、覚悟は決まりましたか?」
ユリウスはマクシムに引導を渡す。
「ああ、決まった」
マクシムは即答した。そして・・・。
「陛下、私は王太子の位を返上いたします」
「それがお前のけじめということか」
「はい」
マクシムは先ほどのグダグダした雰囲気とは打って変わり、シャキッと答えた。まるで憑き物が落ちたみたいに・・・。
「分かった。ただし、即答は出来ない。これから検討する」
「はい」
「では、一番重要な話をしよう。本日付けでツィアベール公国という国は無くなり、かの国の領土は我が国のものとなった」
「え、ええええ!!!」
マリウスが雄叫びを上げた。
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