32 古い情報と新しい真実
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
地平線まで続く、黄金色の畑。――――麦の穂は風に撫でつけられて、サワサワと囁き声を立てる。
(ここはどう見ても畑にしか見えないが・・・)
ビアンカは戸惑っていた。
(兄上のお仕事は外交官と聞いたような気がするのだが・・・)
「ユリウス、本当にこの場所で間違いないのですか?」
「はい、マリウス兄上はここで収穫の打ち合わせをしていると・・・、――――聞きました。間違いないです」
(誰から得たのかも分からないその情報・・・。外交官が麦畑に・・・。発信源も内容も謎過ぎるのだが!?)
「あのう、兄上が畑にいるという話は誰に聞いたのですか?」
ビアンカはユリウスに直球を投げる。
(凄腕の魔法使いだけに幽霊を使って諜報活動をしているとか、魔物と契約しているとか・・・?そんな類の話が出てきたらどうしようか。――――いや~、無理だ。百戦錬磨の女戦士ビアンカも大斧で斬れない幽霊は怖いし、どんな攻撃をしたら良いのかが分からない魔物は遠慮したい。そもそも、そういうモノが実在しているのかどうかも・・・)
「それは・・・、国家機密です」
ビアンカが想像を膨らませ過ぎて、おかしな方向に進んで行っているとは露知らず、彼はお決まりの台詞をクールに告げた。
(なっ!秘密!?またか!!もう何でも教えてくれると思っていたのに!!!)
「ええっと、その国家機密は魔法関係?それとも諜報関係?それとも闇関係ですか?」
彼がスッキリと教えてくれないことが悔しくて、食い下がろうとするビアンカ。
「そうですね~。何とも言えないですね~」
適当な回答を口にして、彼女に不意打ちでチュッと口づけをする、ユリウス。
「はぁ~。教えてくれないのに口づけはするのか・・・。超~自己中・・・」
ビアンカはつい本音を溢す。ユリウスは彼女の言葉をしっかりと聞いていた。
「ビアンカ・・・」
「お~い!ユリウス!ビアンカさん!!」
ユリウスが何か言おうとしたところで、二人を呼ぶ声に遮られる。揃って、声の主の方へ振り返ると・・・。
麦わら帽子と赤いエプロンをつけた大男が、こちらへ向かって大きく手を振っているのが見えた。
(あ、あの顔は間違いない・・・)
手を振っているのはマクシムと瓜二つの顔をしているマリウスだった。
視線が合うと、マリウスは二人の元へ走り出す。――――あっという間に彼ははビアンカたちの目の前までやって来た。
「兄さん、陛下から伝言です。本日、午後一時に王宮の北の会議室に集合して欲しいとのことでした。内容はまだ言えませんが、この会議には私達も参加します」
ユリウスは挨拶もなしに用件をさっさと伝えた。それを聞かされたマリウスは口を開いたまま、ポカーンと呆けてしまう。
「兄上、だ、大丈夫ですか?」
固まってしまったマリウスのことが心配になったビアンカは、少し大きな声で彼に話しかけた。彼女の声で我に返ったマリウスは大声で叫ぶ。
「嘘だろう!!二時間後!?まだ打ち合わせの途中、いや、今から話を詰めるつもりで・・・。――――あ~、分かった。取りあえず、ネーゼ王国の担当者に言付けをして来る」
マリウスは大きなため息を吐いた。そして・・・。
「ユリウス、申し訳ないが私も王宮まで一緒に連れて帰って貰えないか?」
突然、両手を胸の前で組み、ユリウスにお願いをし始めるマリウス。――――それはそうだろう。ここはイリィ大陸の北西部にあるネーゼ王国だ。一番近い転移魔法陣のある街まで、駿馬で向かったとしても、午後一時までにローマリア王国の王宮へ到着するのは難しい。
(兄上は見かけによらず、可愛い仕草をするのだな。――――顔は一緒でも性格はマクシムと大違いだ)
「分かりました。早く用事を済まし来て下さい。私はビアンカとここで待っています」
「ありがとう!急いで行ってくるから!!ビアンカさん、すみませんが少し待っていて下さい!!」
「分かりました」
急ぐと宣言した通り、マリウスは畑の奥の方へ全力で駆けて行く。彼はこの広大な敷地の何処まで行くつもりだろう。二人は彼の後ろ姿を静かに見守っていた。
ところが・・・。
――――突然、小麦畑の中から人が現れて、マリウスを呼び止める。
「うわ~~~~!!」
驚いたマリウスは大声を上げて、ピョンと高く飛んだ。
「あんな所に農家の方が潜んでいるなんて!!――――兄上、大丈夫ですかね!?」
体勢を崩してよろめいたマリウスを心配してビアンカが呟く。と、ここで、ユリウスがブッと勢いよく笑い出した。
「ブッハハハ!!ビアンカ、あの人をよーく見て下さい!――――彼はネーゼ王国の国王です」
「はっ?本当に!?ネーゼ王国の王家と言えば、旧イリィ帝国の皇家の血筋を重んじる気高い人々・・・」
(そんな国のトップが何故、こんな場所(畑)に居るのだろうか?)
「あ~、それはかなり古い情報ですね。――――現国王は農学博士です。別名・土(土壌改良)のスペシャリスト。また、安全で効果的な肥料の開発・販売にも力を注いでいて、この大陸だけではなく、他の大陸にも肥料を輸出しています。商品名は『ヨクソダーツ』。彼の口癖は『ネーゼ王国をイリィ大陸一の農業国にする!』です」
(いや~、やけに国王の情報を語るじゃないか、ユリウス。――――確かにこの畑の小麦の穂はとても良い色をしている。――――パンにしたら美味しそうだ)
ビアンカは小麦の穂が風に靡いている風景をしみじみと眺める。ユリウスは先ほどここでは言えないことを聞かれたので、軽くはぐらかしたのだがその結果、ビアンカから自己中という判定を受けてしまった。
だから、今回は反省の念も込めて、ビアンカの質問に丁寧な回答をしたのだが、彼女は全く気付いてくれない。
(それにしても、国王が農学博士だったとは知らなかったなぁ。ネーゼ王国と言えば、あの夢見る乙女、コルネリア王女の祖国。ん?ということは、あの国王が彼女のお父上ということか!?いや~、全然気が付かなかった。父と娘の顔は似ているのか?――――ムムムッ、遠くて、顔が良く見えないな)
隣で国王の方を見て、目を白黒させているビアンカ。こっそりと彼女を眺めているユリウス。
「あの国王は色々なものに愛情を注ぐのがお好きですから、コルネリア王女も愛に興味があるのかも知れませんね~」
(コルネリア王女と言えば、ユリウスの語る愛の物語を聞いて、私よりも感動して涙を溢していた。――――正直なところ、私は驚きの方が大きかった。だって昔、助けた子供が私のことをずっと想っていてくれるなんて、そんなことあるか?――――その上、私の命を救うために初めて治癒魔法を使ったとか言い出すし・・・。もう、何というか・・・、ネロ(ユリウス)、愛おし過ぎるだろ!!大体、彼を呼び出した魔・・・)
「ビアンカ、マリウス兄さんが戻って来ます」
視線を上げるとこちらに向かって走っているマリウスが見えた。笑顔を浮かべ、右手を大きく左右に振っている。
(な~んか、憎めないな。この人・・・)
マクシムのような堅苦しくて不器用なところは無く、ユリウスのように完璧主義で本心を隠すのが上手という訳でもない。――――ハッキリ言えば、マリウスはおおらかで性格が良さそうだ。
(別に後の二人の性格が悪いとまでは言わないが・・・。まぁ、三人の中で一番、玉座には向かない人とは言える)
「お待たせしました!担当者は何処かで作業をしているのか見つからなくて・・・、でも、国王陛下がタイミング良く声を掛けてくれたから一度、王都に帰ると伝えて来ましたよ」
マリウスは喋りながら麦わら帽子を脱ぎ、エプロンも外して、それをサササッと帽子のくぼみに押し込んだ。今の服装は白いシャツとグレーのスラックス。革靴は多少、土がついているが、これは王宮で侍女に拭いて貰えば問題ないだろう。
「では、王宮へ戻りましょう」
ユリウスの一声で、三人は王宮へ転移した。
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