30 連携技
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
高台の展望台から魔法で転移したユリウスとビアンカは、大公の城の中庭に姿を現す。
――――ちょうど夜明けの時を迎えている城内は既に騒然としていた。
「この雰囲気・・・。大公が居なくなったと気付いたのでしょうか」
「恐らく。ビアンカ、ターキッシュ帝国の者たちは、宗教上の理由で頭に黒い布を巻いています。見分ける時の目印にするといいですよ。――――それで、これからどうします?片っ端から捕えて行きますか、それとも親玉を狙いますか?」
軽い口調でユリウスは彼女に問う。しかし、ビアンカはあくまでユリウスの部下として、この任務に就いているのだ。ここはハッキリ断っておくべきだろう。
「それは私が決めることでは無いと思います」
(彼の質問は何か別の意味を含んでいるのかも知れないが、この場面で急にどうしたいなんて聞かれたら普通、戸惑うだろ!指示を出すのは上司の役目だ!!)
彼はビアンカの言葉を受けて、このように返した。
「ビアンカへ命じる。一人残らず、牢へ送れ」
「御意」
床に突き立てていた大斧をビアンカは肩に担ぎ上げる。ユリウスは人の流れを確認してから、進む道を決めた。
――――――――
「ゔっ・・」
バタンと細身の男が膝から崩れ落ちる。ビアンカがユリウスに目配せをすると彼は杖を軽く振った。――――と、同時に彼女に斬られた男の姿が消え去る。
男はユリウスの魔法で辺境伯の城の地下にある牢へ送られた。――――あの牢はかなりの人数を収容出来る上、魔法で厳しく管理されているため、脱獄の心配が無い。それに王都の牢に送ればマクシムの耳に入る可能性がある。今、マクシムに嗅ぎつけられるのだけは避けたいと、ユリウスはビアンカへ溢した。
(今の男で八人目。これまで出会った敵は全員、黒い布を頭に巻いていた。――――いや~、いやいや、この城にツィアベール公国の者は居ないのか?ここは大公の城なのだろう?――――まるで、ターキッシュ帝国の城に乗り込んだような気分なのだが・・・)
「ユリウス、ターキッシュ帝国の者たちばかりのような気がしますけど・・・」
「そうですね。この状況は私も想像していませんでした」
「――――もはや、手遅れということは・・・」
(既にツィアベール公国はターキッシュ帝国の手に落ちていたのではないか?)
「仮に手遅れだとしても、私達が今から行うことに変更はありません。ここに居るターキッシュ帝国の者たちをしっかりと捕らえて、かの国との交渉に使います」
「交渉・・・。分かりました。必ず、全員捕らえます!」
ビアンカの決意に、ユリウスはしっかりと頷いた。
――――と、そこで「ハリュシス(縛)!」という叫び声が聞こえてくる。
それにいち早く反応したユリウスは杖で、声がした方へクロスを切った。
「クッ!!」
悔しそうな声の方へビアンカが目を向けると、つばの広い帽子を被った女性が、大きな杖をこちらへ向けて立っている。年齢は三十代くらいだろうか。胸元を強調した赤いドレスを身に纏い、妖艶な雰囲気を漂わせていた。
(おおおう、絵本に出て来る魔女のようだ・・・。――――しかし、魔法使いの相手はアンがすると言っていたはず・・・)
「(アンは)大きな忘れ物をしたようだ」
ユリウスはため息交じりに呟く。そして、こう続けた。
「アンの力が及ばなかったということは、彼女がここで一番強い魔法使いということです」
(なぬっ!ということは・・・、とうとう魔法使い対魔法使いの死闘が始まるということか!?――――うお~っ、大変ことになるじゃないか!!)
「ユリウス!!」
「彼女の相手は私がします。――――ビアンカ、他の敵は殺さず、気を失わせて下さい。後程、私が牢へ送りますから」
「――――分かりました。任せて下さい」
ビアンカはユリウスの肩に拳をコツンと当てた。
前に向き直ったユリウスは魔法使いの方へ杖を掲げて、近づいて行く。女は後退りをしながら、彼の様子を窺っていた。
誰もいない真っ直ぐな廊下に、ガラスが割れる前のような緊張感が漂い始める。
「ビアンカ、私が合図を出したら、魔法使いの横を一気に走り抜けて下さい」
彼は敢えて、こちらに警戒している魔法使いへ聞こえるように言った。ビアンカも大きな声で彼に返事をする。
「分かりました。全力で走り抜けます!」
ユリウスは杖を掲げ「スタシス(停止)」、続いて「行け、ビアンカ」と、小声で囁く。
準備が整っていたビアンカは合図を受けて、疾風のように駆け出す。大斧を担いでいることを忘れるくらいに・・・。
シュッ。ガァツ。――――ゴトッ。ドン!!
――――ビアンカが放った大斧の一閃で、魔女の首は刎ねられた。
物騒な音と共に魔法使いの頭部は数メートル先へ吹っ飛び、胴体は床へ倒れ込む。
「タナトス(死を)」
ユリウスは二つに分かれてしまった魔法使いへ死の魔法を掛ける。――――この女が、二度と復活出来ぬように・・・と。
そして、最後に杖をもう一振りして、亡骸をその場から消滅させた。
「通じ合いましたね」
「はい。仕事柄、こういう勘は冴えていますから」
ビアンカはフッと表情を緩める。
(二人の連携が上手くいったから、強敵を簡単に倒せた。本当に魔法使い対魔法使いの戦いにならなくて良かった。――――下手したら今頃、この建物も吹っ飛んでいたかも知れないな・・・。想像しただけで、背筋が凍りそうだ)
「ユリウス、先ほどの呪文は動きを封じる効果があるのですか?私が大斧を振るう時、あの魔法使いは目を見開いたまま固まっていました」
「はい、あの呪文は相手の時間を止めるものです。ただ、不意打ちしないと結構、防がれてしまうのが難点で。――――あなたの察しが良くて助かりました」
(『他の敵は殺さず』と言われたら、『こいつを殺せ』という意味だと、軍人なら気付く。ただそれだけのことだが・・・)
「――――どういたしまして」
「では、先を急ぎましょう」
ユリウスに促されてビアンカは再び大斧を担ぎ上げ、彼と一緒に歩き始めた。
――――――――
「近寄るな!」と、短剣を手にした男が大声で叫び。
「てめ~、最低だな・・・」と、ビアンカが冷ややかに呟く。
謁見室と思われる大広間に辿り着くと、親玉とその手下らしき男たち(五名)が複数の女を人質に取り、こちらを威嚇して来る。
(ターキッシュ帝国から来た者たちは今のところ男ばかりだな。ただ、人質の女たちは・・・、褐色の肌と黄色い瞳か・・・。見たところ、この大陸の者では無さそうだが、――――奴隷か?)
ビアンカの疑問に答えてくれたのは、ユリウスだった。
「あの女性たちはターキッシュ帝国の方々のようです。ほら、手の甲に星型の入れ墨が入っていますから」
「あ、本当だ。皆さん手の甲に入れ墨がありますね」
「これは自作自演なので無視しま・・・」
ビアンカはユリウスが話している途中で、敵に向かって飛び出す。一瞬、遅れを取った彼らは浮足立ち、次々とビアンカの大斧になぎ倒されていった。
部下がバタバタと倒れて行く様を目の当たりにして、親玉の顔色はどんどん悪くなっていく。
(こいつが親玉か。両国がどういう状態なのか聞き出さないといけないな)
「アンタ。どこのどいつだ?」
「・・・・・」
親玉は口を噤む。
「おいっ!」
ビアンカは大斧の刃先を親玉の首筋に当てた。少しでも引けば頸動脈が切れる位置だ。
「話せよ」
低音の声で相手を威嚇するビアンカ。この隙にユリウスは杖を一振りして、邪魔な手下たちを牢へ送った。――――きっと今頃、辺境伯の城の地下牢で、サジェは沢山送られてくる逮捕者の振り分けを必死でしていることだろう・・・。
「ターキッシュ帝国のゴニョゴ二ョ・・・」
「はぁ~?ターキッシュ帝国の後が聞こえねぇぞ!!!!」
シュッ。
「ひぃいい!」
ビアンカは袖口へ仕込んでいた短剣を親玉に投げつけ、彼の頬へ一筋、赤い線を描いた。
「早く言え!」
「――――ターキッシュ帝国の皇帝の命で参りました。親善大使のカナンです。本国での爵位は伯爵ですっ!ひぃいいい~」
★ミニ情報★
親善大使カナン ターキッシュ帝国の伯爵???
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