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29-2 ユリウスとアン

楽しい物語になるよう心がけています。

どうぞ最後までお付き合いください!!


「アン。取り掛かれ」


 ユリウスはアンに命令した。ピョンピョンと跳ね回っていたアンは二人の前に戻って来て、ローブの懐から短い杖を出す。


(あ、杖だ!アンの杖は黒色か・・・)


 ビアンカは彼女の動きをジッと見つめる。アンは懐から出した杖で宙に何かを描き出した。杖先の軌跡は金色の線となり、複雑な模様を紡いでいく。


「あれは・・・」


「魔法陣です。アンは魔法で人を連れ去るのが得意ですから、今回の任務に適任ということで呼びました」


(今、人を連れ去るって言わなかった?聞き間違い?いや、確かに言った!!――――魔法使い、ヤバい奴が多いのか?人を連れ去るのは犯罪だぞ。――――アンは美少女にしか見えないから、怖いな・・・、ああ、怖すぎる。男なんて簡単に騙されそうだ。――――本当に人は見た目で判断してはいけない・・・)


 ビアンカが手のひらで額を押さえて深刻そうな表情になったので、ユリウスは心配になる。横から彼女の額に当てている手を取り、優しく握った。


(――――動揺していると気付かれてしまった。今からが本番だと言うのに!!女戦士ビアンカ!最近、気が緩み過ぎだ!!)


 彼女はゆっくりと息を吐きだし、そして大きく吸った。――――気持ちを切り替えるには、深呼吸をするのが一番である。


(よし!覚悟は決めた!!相手が魔法使いだろうが普通の兵士だろうが関係ない!!私は任務を遂行するだけだ!!)


「主~、落とします!」


 アンは杖を強く振り下げる。いやな予感がして、ビアンカは空を見上げた。


「あ!」


(本当に空から大公が降って来た。あの高さからだと死んでしまうのでは?)


 ユリウスはビアンカと繋いでいた手をサッと放し、懐から杖を素早く出して、空へ向ける。


「アン、爪が甘い!」


 彼は部下へ一言、苦言を呈してから魔力を杖へ注ぎ込む。すると、大公の落下速度は緩やかになった。


(これは、アンのミスをユリウスが透かさずフォローしたということか。――――ああ、かなりゆっくりになった。――――大公は気を失っている状態なのだろうか、身体に力が入って無さそうだが・・・)


――――三人は大公が地面に降りて来るまで、その場でジッと待つ。


 漸く地面に下ろされた大公の目は開いていた。


(あ、私のことを睨んでいる・・・。身体は魔法で拘束しているようだ)


「大公、初めまして、私はローマリア王国の辺境伯爵ユリウス・フルゴル・コンストラーナです。今回は私の妻ビアンカに対する殺人容疑と、ターキッシュ帝国から仕入れた兵器をイリィ大陸内で違法販売した罪であなたを逮捕します」


 ユリウスは堂々としている。


「統治者である大公が逮捕されましたので、ツィアベール公国は、本日を持って独立国家ではなく、あなたの娘が嫁いだローマリア王国の一部となります。今後、あなたは我が国の法に則って裁かれますので、どうぞご覚悟を」


 彼はここまで話して、一呼吸置く。


「また、ツィアベール公国をローマリア王国が吸収すること関しまして、旧イリィ帝国にルーツのある他の三か国も賛同して下さいました。そして、あなた宛ての逮捕状もそれぞれの国から預かっておりますが、我が国に処分を一任していただけるとのこと。では、今お話しした内容はこちらへ記載されていますので、ご確認ください」


 ユリウスはテキパキと逮捕状を広げて、大公へ近づける。大公は抵抗しようとしたものの身動きが取れず、顔を歪めた。


「ユリウス、大公の言い分は聞かなくていいのですか?」


 ビアンカは単に自分が大公や王太子妃に睨まれている理由が知りたかっただけである。――――ただ、今聞かないといけないのか?と聞かれたら、別に今じゃ無くても問題ない。


「ビアンカはやさしいですね。あなたを執拗に狙った男です。私は裁判にかける必要もないと思っているのに・・・」


(ユリウスの声が震えている。目が怖い・・・。これ本気で怒っているじゃないか!――――マズい私、空気を読まない発言をしてしまったかも知れない。ユリウスが本気で暴れ出したら、止められる自信がないのに・・・)


「主~、私がトドメを差しちゃいましょうか?手が滑っちゃったってことで~」


 ビアンカの隙を突いて、アンが危険なことを言い出した。彼女は杖を指先で摘まんでゆらゆらと楽しそうに揺らしている。


「待って!二人とも待って!!」


 ビアンカは焦った。不穏な空気が漂い始めたような気がしたからだ。


「大公!あんたが何故、私を狙ったのか!後日しっかり聞かせてもらう。ユリウス、アン、こいつを速やかに連行しよう!!――――余計なことを言って済まなかった!!」


 アンは大きく頷いた。


「ビアンカ様、承知いたしました~。主~、いつもの牢ですか~?」


 ユリウスはアンの質問には答えず、無言で大公に杖を振り下ろす。


「うわっ!」


 ビアンカは驚いて声を上げてしまった。ユリウスが大公にトドメを刺したと勘違いしてしまったのだ。


(あれっ、消えた!?)


 彼の一振りで、地面に転がされていた大公の姿が消えた。


(はぁ、トドメを刺したわけじゃなかったのか・・・)


「アン、大公は牢へ送った。次の段階に入る。お前は大公の城に潜んでいる魔法使いを引っ張り出して、ここで相手をしてやれ!!」


「は~い!了解で~す!!」


 アンは杖を天に掲げて、グルグル回し始める。


(なっ、魔法使いの相手をここでしたら・・・)


 ビアンカは眼下に広がる港町へ視線を向ける。まだ夜は明けていない。こんな時間に破壊活動を始められたら、人々は混乱するだろう。


「ユリウス、ここで戦ったら港町の人たちに被害が出ませんか?」


「ここは開けているので結界が張れます。大丈夫です」


 彼は周辺を見渡した。確かにこの展望台は岩山の上にあるとは思えないほどの広さがある。


「ビアンカ、いよいよあなたの出番です!!これから二人で大公の城を一掃します。大斧をガンガン振り回していいですよ!!」


(一掃する?もう大公を捕らえたのに???)


「先ほど、ツィアベール公国は消滅しました。――――ということで、この国に入り込んでいるターキッシュ帝国の者たちを排除し、城を明け渡して貰いましょう。さあ、行きますよ!」


「二人で!?ターキッシュ帝国を相手にする???えええっ、一気に話が大きくなった気が・・・」


 ユリウスに腕を掴まれたビアンカは文句を言いながら、大公の城へ転移していった。


――――二人の姿が消えると同時に三人の魔法使いがアンの前に落ちてくる。


「ふーん、たった三人かぁ~。お兄さんたち~、私とちょっと遊ばない~?」


 アンは無邪気な笑顔で彼らを誘惑した。

最後まで読んで下さりありがとうございます。

面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。


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