27 強敵
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
寝室のベッドの前でビアンカは決断を迫られていた。
「アンナに用意して貰いました」
ビアンカはユリウスから受け取った手触りの良い布を広げてみる。
(色は私好みのライトブルーだけど・・・。今まで着たことが無いタイプの・・・)
「流石に裸のままで隣に居られると私も自信がないので、それを着て下さい」
「――――自信がない?」
「はい、遮るものがあった方が安全です」
(安全?――――あ、あああ、私の苦手な男女の話か・・・)
ビアンカはユリウスが気まずそうにしているのを見て漸く、このやり取りの真意を悟った。しかし、そう言う彼も・・・。
「ユリウスこそ、薄いガウンを一枚羽織っているだけじゃないですか!そのままでは身の危険がありますよ」
「身の危険!?――――ブッ、クックック・・・」
ビアンカのおかしな発言が彼の笑いのツボを刺激した。ユリウスは声を出して笑う。
「――――それは・・・、私がビアンカにフッフフフ、――――されるって、ことですか?アハハハ・・・・」
(はぁ~?何て言った?肝心なところが良く聞き取れなかったのだが・・・。それにしても、ユリウス、笑い過ぎじゃないか?)
「――――そうそう、そう言うことです。気を付けて下さい」
いつまでも笑っているユリウスに、ビアンカは適当な返事をした。
(――――明朝には大きな任務が控えている。折角、ベッドを使うのにユリウスがぐっすり眠れなかったら意味がない。よし、覚悟は決めた!アンナが用意してくれた可愛いネグリジェを着るとしよう)
ビアンカは笑いが止まらないユリウスを置いて、着替えをするために隣のクローゼットルームへ。
――――――――
ビアンカは着ていたブラウスとスラックス脱いで、ネグリジェを手に取った。目の前にある姿見には下着姿のビアンカが映っている。
(えーっと、ネグリジェの下には何か着ていた方が良いのか?――――いや~、これをつけて寝るのは苦しい。外しておこう)
ビアンカは胸に巻いている布を取った。――――職業柄、動き易さを重視する彼女はいつも胸に伸縮性のある布を巻いている。
「あ、本当に無い・・・」
彼女は鏡に映った自分の姿に目を奪われた。
(さっきは手で触って確認したが・・・。鏡で見る方が衝撃的だな。あの左胸に走っていた大きな太刀傷が跡形も無く消え去っているのだから)
「ユリウスは回復魔法ではない魔法を使ったと言っていた。――――しかし、これ以上説明して貰っても多分、私には理解出来ないだろう」
――――何となく、傷のあった辺りを手のひらで押さえてみる。
(ただの柔らかい胸。筋状に盛り上がっていた醜い傷はもう無い)
「魔法、恐るべし!!」
(で、下はどうする?一応、履いておくか?――――いや、見えないからいいだろう。ネグリジェだけで十分だ)
ビアンカはショーツも脱いだ。そして、可愛らしいデザインのネグリジェを頭から被る。
「おおおお!これ優秀!!」
(バストの部分、上手い具合に皺が寄って、透けないようになっている!!)
このネグリジェは胸元にふんわりとギャザーが寄せられている甘めのデザインなのだが、ビアンカはそういう知識を持ち合わせていないので上手く表現出来ない。
「流石アンナが選んだだけのことはある。丈もこれくらいなら問題ない!」
ひざ上丈のネグリジェを着たビアンカはその場でクルリと回ってみた。
(私は浮かれているようだ)
ビアンカはクスッと笑う。ユリウスの笑い上戸がうつったのかも知れない。
――――――――
クローゼットルームのドアを開いて、ビアンカは隣の寝室へ戻って来た。
「嘘っ!?」
ユリウスが、ベッドの上にうつ伏せで倒れている。
(さっきまであんなに笑っていたのに?――――しかも、うつ伏せ!?)
「これ、多分・・・、寝ている?」
ビアンカは恐る恐るユリウスの傍へ。一応、顔を近づけて確認してみると規則正しい呼吸音が聞こえて来た。
「かなり疲れていたのだろうな」
(渋らず、サッサとネグリジェに着替えれば良かった。――――ユリウス、力尽きてベッドへ倒れ込んでしまったのか、申し訳ないことをした)
ビアンカはユリウスを起こさないよう慎重に彼の下敷きになっているブランケットを横から引き抜く。そして、それを彼へ被せた。――――と、ここでビアンカは重大なことに気付いてしまう。
「ユリウス、ベッドのど真ん中に寝ている・・・」
(まぁ、大きいベッドだから、私が端の方に寝ればいい)
疲れ切っている彼を起こしてしまうのは可哀想なので、ビアンカは部屋の明かりを消してから、ベッドの端の方へそそくさと身体を滑り込ませた。
しかし、ビアンカが仰けになると左肩でユリウスを踏んでしまうということに気付いてしまう。
(あ、これはいけない!うつ伏せで寝ているのに上から押したら危険だ。そうだなぁ~、横を向いて寝るか?いや、ユリウスをあと少し向こうにズラしたら、大丈夫そうだ)
彼女は左半身を使って、じわりとユリウスを押してみる。しかし、彼はうつ伏せで眠っているため、上手くシーツの上を滑ってくれない。
(――――これ結構、難しいな)
――――するとブランケットがフワリと持ち上がり・・・。
ドスッ。
(えっ!?重っ!!何、何がどうなった!??)
ビアンカは今の状況を確認する。右手をブランケットから出して乗っかっているものを手で探った。
(嘘だろ~。私の上にあおむけで寝ている。これは可哀想だと言っている場合じゃないぞ。一度、起こした方が・・・)
「ユリウス、ユリウス・・・」
「・・・・・」
優しく呼びかけてみたが、反応がない。
「ユーリーウースー!!」
二度目は少し大きい声で名前を呼んでみた。
「―――――すぅ、――――すぅ」
残念ながら、彼の寝息しか聞こえて来ない。
(えええっ、こんなことってある?先ほどした色気のある会話は何だったんだ?こんなに深い眠りに付けるなら、あんた何の心配もないだろ!!)
ビアンカが怒っているとは露知らず、ユリウスは気持ちよさそうな寝息を立て続ける。
(いくら私が力持ちだとしても、ユリウスを上にのせたまま眠るのは無理だ!!)
「起きて!!ユリウス!!頼むから起きて!!」
可哀想だと思っていたことなど、すっかり何処かへ飛んで行った。ビアンカは彼の耳元で騒ぐ。
「おーきーてー!!ユリウス!!!」
「―――――すぅ、―――――すぅ」
「はぁ~~~~ぁ」
ビアンカは大きなため息を吐いた。
(ダメだ。さっきより深い眠りに入っている。あ~、このままだと今夜は寝られない・・・)
暗闇を見詰めて、ビアンカは絶望する。―――――外から聞こえる雨音は先ほどより激しくなっていた。
(もう一層のこと、投げ飛ばしてみるか?いや、それは最終手段だ。もう少し様子を見よう)
ビアンカがしばらく悩んでいると・・・。
ゴロン。――――ユリウスはビアンカの上から右へ転がり、またベッドの真ん中でうつ伏せの状態になった。
ビアンカはこの隙を逃さない。透かさず、左腕を彼の胸の下に押し込んで、右腕は彼の背に乗せ、横からガッシリと抱き込んだ。
「――――ユリウスの下敷きにはもうなりたくない。一先ず、押さえ込んでおこう」
彼女はボソボソと呟く。
今、ビアンカはうつ伏せの状態で寝ているユリウスを横から抱えている状態だ。これなら、何とか眠れそうである。
――――しばらくすると遠くから、眠気が近づいて来る気配がした。ところが・・・。
「ビアンカ」
「はい?」
(これは寝言?それとも起きた?)
「もっと」
(はぁ?――――ええええ!!)
ガサッ、ドン!!
うつ伏せのユリウスが、今度は力強く右方向へ転がって仰向けになった。彼を抱き込んでいたビアンカは勢いよくユリウスの寝返りに巻き込まれてしまう。
「うわっ!」
ドシン!!――――ビアンカは勢い余って、ベッドから床に転げ落ちる。
「信じられない!!ユリウス、寝相が悪過ぎる!!」
腹が立ったビアンカは、仰向けで気持ちよさそうに眠っているユリウスを担ぎ上げた。
(もう!クローゼットルームに転がしておこう!!書斎と違って敷物があるからいいだろ!)
「――――したい」
担ぎ上げたユリウスが何か言った。ビアンカは返事だけしておく。
「はいはい」
さっさとクローゼットルームのドアを開けて、ユリウスを敷物の上へ、下ろした。
「あ・・・」
このタイミングで、ビアンカはユリウスと目が合ってしまう。
(マズイ!目が開いている。起きた?)
ユリウスはゆっくりと右手を上げて、ビアンカの方へ差し出す。
(は、え、どうしよう・・・)
動揺したビアンカが彼の手を握った瞬間、彼女の視界は暗転した。
★ミニ情報★
ベッドの状況
1、左 ビアンカ(表)ーユリウス(裏)ー空き部分 右
2、左 ビアンカ(表)の上にユリウス(表)ー空き部分―空き部分 右
3、左 ビアンカ(横)ーユリウス(裏)ー空き部分 右
4、左 空き部分ー空き部分ーユリウス(表) ビアンカ 右
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