25 ご褒美
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
浴槽で抱き締められてビアンカは頭がボーッとしてしまう。
「ユリウス、そろそろ(上がりませんか)?」
「分かりました」
(素肌が触れ合っているだけで、のぼせてしまう。――――ユリウスは平気なのか?)
ザバッ。
二人は同時に浴槽から立ち上がった。何故かユリウスはビアンカに背を向けている。
(そんなあからさまに背を向けなくても・・・。もしかして、気を遣っているのか?)
「ビアンカ、バスローブを使いますか?」
「はい、出来れば・・・」
彼は右手を横に伸ばし、宙からバスローブを取り出した。そして、それを後ろにいるビアンカへ差し出す。勿論、顔は正面に向けたままで。
(フゥ~、相変わらず魔法は凄い・・・。私の大斧もあんな風に出し入れ出来たら便利だな。そうすれば手ぶらで出かけても、いざという時に取り出せる)
ビアンカは手を伸ばしてローブを受け取った。
「ありがとう、ユリウス」
「どういたしまして」
「ところで何故、私の方を見ようとしないのです。昨日も今日も一緒にお風呂へ入った仲じゃないですか」
ビアンカは昨日から散々、裸を晒してしまったため、ユリウスが今更、彼女の身体を見ないようにしようとするこの行動が理解出来なかった。
「それは恋人の練習を止めて良いということですか?」
「――――恋人の練習?あっ、すっかり忘れていました!!」
ユリウスは大きなため息を吐く。
「私はあなたの裸体を眺めて平然としていられるほどの理性は持ち合わせていません」
そう言った後、ユリウスはその場から消えた。
(ああああ~、ユリウスが何処かへ転移してしまった・・・。私は彼の気に障るようなことでも言ってしまったのだろうか!?どうも男女の話になるとダメだな。恋人の練習と裸を見ないということに何の関係があるというのだろう・・・)
ビアンカは首を捻る。――――しかし、考えても答えが出なかったので、後でユリウスに教えてもらおうとスッパリ諦めた。
――――――――
一足先に寝室へ戻っていたユリウスの元にサジェの部下Xが現れた。――――サジェは王国魔法師団のリシュナ支部に所属する歳若い魔法使いで、彼の部下Xは王国魔法師団直属のスパイである。ちなみに本名は非公開だ。
「閣下へご報告っす。ターゲット(王太子妃)の潜伏先見つけたっす。指示をお願いしまっす」
「分かった。詳しく聞こう」
ユリウスは彼を書斎へ招き入れた。
このクセの強い話し方をするXの話によると王太子妃は現在、母国ツィアベール公国との国境チミテロ村に潜伏しているのだという。
「チミテロか・・・」
ユリウスの脳裏に七年前の出来事が思い浮かぶ。血塗れのビアンカが地面に倒れ込んだあの時、十歳のユリウスはまだ己を守る術も持っていなかった。だが、今は違う。鍛錬を重ね、魔法も剣術も人並みに・・・、いや、誰にも負けないくらいの力を付けた自信がある。
――――だから、もう二度とビアンカに傷を負わせたりはしない。
「閣下、大丈夫っすか?」
Xの声がして、ユリウスは我に返った。部下の前だというのに考え事に耽ってしまっていたようだ。
「ああ、大丈夫だ。それで誰が潜伏に協力している?」
「大公の右腕っす」
「ケビン・アマンド伯爵か」
Xは大きく頷いた。ユリウスは腕を組んで考える。今、彼女を連れ戻すべきか、もう少し泳がしておくべきか・・・と。
コンコン。――――そこへ、書斎のドアをノックする音がした。
「ユリウス~。戻っていますか?」
ドアの向こうからビアンカの声がする。ユリウスはXに目配せをしてから、扉を開いた。
(あ、中に客人がいる!!しまった!!)
「すみません。来客中だったとは思わず・・・」
「いえ、彼は私の部下ですから、問題ありません。どうぞ」
ビアンカは書斎へ入る。Xは彼女の方を振り返ることも無く、直立不動で前を向いて立っていた。
(この佇まい・・・。気配をワザと出しているじゃないか!こいつは・・・)
「あんたスパイか?」
ビアンカはぶっきらぼうに言い放つ。
Xはユリウスに視線を流し、指示を待った。目の前の辺境伯夫人へどういう対応をしたら良いのか、判断に困ったからである。
「X、ビアンカには隠し事をする必要は無い」
ユリウスの言葉を聞いて驚いたのはXではなく、ビアンカだった。
(隠し事をする必要は無い!?もう何でも教えてくれるってこと?えっ、それ、とても嬉しいのだけど!!この二日間、何も分からないまま状況に流され続けてストレスが溜まって、溜まって~!!は~、やっと、特別任務のことが分かる~!!!!)
「そうすっか?じゃあ、辺境伯夫人、初めまして!Xっす!!」
「あ、ああ、あんた軽いな!私はビアンカだ。辺境伯夫人と呼ぶのは止めてくれ」
「分かったっす!ビアンカ、よろしくっす!!」
ユリウスは不謹慎だとは思いながらも笑いが込み上げて来た。昼間に牢獄で見た女戦士ビアンカの恫喝を思い出したからである。
「ユリウス、もしかして笑って・・・」
急に背を向け、声を殺して肩を揺らすユリウスへ、ビアンカが話し掛けようとすると、Xが止めた。
「ビアンカさぁ~ん。見逃してあげて~!閣下は笑い上戸を隠したいんです~!!」
「いやいや、部下にしっかりバレてるじゃないか!!」
Xのツッコミにビアンカが対抗する。ユリウスはしゃがみ込んだ。
(ユリウス・・・、笑いのツボにハマったのか?)
「ねぇ、ユリウスが笑っている間に話を聞かせてくれない?あんたがここにいるのは何故?」
ビアンカはユリウスが使い物にならないので、先にXと話すことにした。
「俺がここに来たのはターゲットの居場所を掴んだからっす」
「ターゲットって、王太子妃のことか?」
Xは頷いた。
(マクシムは捜査を止めろと言ったが・・・。そうか、王太子妃を見つけたのか)
「で、何処にいる?」
「ツィアベール公国との国境にあるチミテロ村っす」
「チミテロか・・・」
そこでXがブッと笑う。
「夫婦で同じ反応っすね!」
「ああ、仲良しだからな。で、協力者は?」
ビアンカはサラッと受け流した。
「大公の右腕っす」
Xはユリウスに伝えた内容と同じことをビアンカへ言う。
(大公が堂々と娘を連れ去っている状況か。マクシムと彼女の関係は破綻しているとユリウスは言った。この後、どうするのかによって対応が変わって来る)
「ユリウス、この後の流れを教えて下さい」
ビアンカはしゃがみ込んでいるユリウスの肩を軽く叩いた。彼は大きな深呼吸を一つして、立ち上がる。
「ーーーー失礼しました。今後の流れですが、王太子妃を拘束します。罪状は非公開にするつもりですが、あなたには話しておきましょう。彼女の罪は王家の秘密を母国へ流したということと、密輸に関与していたということです」
(王家の秘密・・・。王太子妃はユリウスが王の子だと気付いたのか?だが、現在の王太子はマクシムだ。別にユリウスが王の子だとしても、彼女の立場は揺らがないはず・・・)
「X、明朝の四時にチミテロ村の潜伏先へ踏み込む。私とビアンカも参加する。お前はサジェに伝えて指示を仰げ。魔塔のモルテへ情報の共有を。私からは以上だ。よろしく頼む」
「御意っす!」
Xはユリウスとビアンカに恭しい敬礼をしてから、部屋を後にした。
(X、本当に軽い奴だなぁ~)
彼を見送った後、ユリウスが口を開く。
「ビアンカ、あなたの同意を得ずにメンバーへ入れてしまいましたが、一緒に来てくれますか?」
「勿論です。私の辞書に『戦いのある場所には出向かない』という文字はありません」
「それは・・・、随分と物騒な辞書ですね、ブッ」
ユリウスは肩を揺らす。しかし、笑っている顔を隠そうとはしなかった。
「普段きちんとしている上司が笑い上戸というのは最高のご褒美です!!これからは部下の前でも堂々と笑って下さい!!」
「あなたにそう言ってもらえると嬉しいです。フフフフッ」
(まぁ見た目が良いから許されると言うのもあるかも知れないが・・・)
「Xはスパイ稼業で間違いないですよね?」
「そうです。流石ですね。一目で見抜くとは思いませんでした」
「スパイだらけの職場に居るので、それくらい分かります。それで、王太子妃を拘束した後、マクシムと彼女を離縁させるということでいいですか?」
ビアンカは疑問に思っていたことを素直に聞いただけだった。ところが・・・。
「ええ、私が結婚したので、兄さんが離縁しても何の問題もありません。ただ、それだけでは足りない」
(ユリウスが結婚したから、マクシムが離縁出来る?一体どういうことだ???いや、今はそれよりも・・・)
「――――足りないとは?」
「ツィアベール公国を消します」
誤字の修正をいたしました。
ご報告ありがとうございました!!
★ミニ情報★
王国軍魔法師団・スパイ課
X 軽いノリのお兄さん 本名・年齢・非公開
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