20 ギャップ
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
金属製のドアを魔法で施錠し終えると、ユリウスは膝から崩れ落ちた。
「だ、大丈夫?」
咄嗟にビアンカは彼の腕を掴む。
(見た目よりも上腕二頭筋が逞しい。いや、そうじゃなくて!!――――俯いて肩を揺らしているようだが・・・)
「もしかして、笑っている?」
ビアンカは恐る恐る俯いているユリウスの顔を横から覗き込んだ。一瞬、こちらを見たユリウスと目がパチッと合ったのだが、勢いよく逸らされてしまう。
(なっ!?)
「ブッ、――――クックック・・・」
(何をそんなに笑って・・・。今の取り調べに笑うポイントなんか無かっただろ!あいつら、安い金で雇われた殆ど素人だったじゃないか。それに大した情報も持ってなかったし)
「すみません、取り乱して・・・。フッフフフ」
「ユリウス、何か気になることでもあったのですか?」
ビアンカはしつこく笑い続けている彼に呆れ半分で聞く。――――すると口元を手で覆って、ユリウスはやっと顔を上げた。
「すみません。ツボに入ってしまいました」
「ツボ?笑いのツボのこと?何がそんなに面白かったのですか?」
「・・・・・」
素直に質問してみただけなのに、ユリウスはなかなか教えてくれない。
(さっき意地悪されたから私も彼が答えるまで待ってみよう)
ジーッとユリウスを見詰めて、ビアンカは彼の答えを待つ。
「――――ビアンカが悪いのです・・・」
(はぁ~?私が何をした!?)
「いつもと戦士モードのギャップが・・・・、ブッ、ハハハ」
(ああ、そういうことか・・・。だが、戦士の時にのんびりしていたら命に係わるから!)
彼女は心の中で、ユリウスへツッコミを入れる。
「いつか私もああいう口調で罵られることがあるかも知れませんね」
「いや、ユリウスにはしないと思うけど」
(私だって、公私の区別はきちんとつける。夫をあんな風に罵ったら、夫婦の危機を迎えてしまうだろ。――――ん、んん~?危機と言えば、あの二人の姿が浮かんで来た・・・)
「マクシムたちは夫婦の危機なのですか?」
「何故、急にその話が出てくるのです?」
(あ、しまった。思いついたことを口に出してしまった!!)
ユリウスは一瞬で冷静さを取り戻した。
(もしかして、マクシムの話題は地雷だった!?――――そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいのに・・・)
「あの夫婦は・・・、危機というより・・・・、いえ、本人に聞いて下さい」
「え――――っ、そこまで言ったのなら教えてくれてもいいじゃないですか!!」
ビアンカは不服そうに口を尖らせる。それを見て、表情を消していたユリウスの頬が少し緩む。
「仕方ないですね。結論だけ言いましょう。あの二人は終わっています。詳細は本人に聞いて下さい」
「ああああ、やっぱり!!そっか、そうなのですね!何となくそんな感じはしました」
「これ以上は言えません」
(ユリウスが答えてくれたってだけで、飛んでもなく嬉しいのだが!?少し心の距離が縮まった?笑いのツボ効果!?是非、この調子で秘密主義は止めて欲しい!!――――まぁ、それはさておき、あの二人の関係は既に破綻しているということか。マクシム、お気の毒・・・。いやいや、あいつが原因かも知れないから!決めつけるのは止めよう)
ビアンカは大斧を肩に担ぐ。ここでの用事は終わった。
「そろそろティータイムの時間です。ビアンカ、温室にでも行きませんか?」
「良いですね。行きましょう」
数分前まで犯人たちを絞り上げていた二人は何事も無かったかのように牢獄を後にした。
――――――――
「あー、張本人がいる!!」
ビアンカは小声で囁く。
ミッドナイトブルーのローブを羽織ったユリウスと大斧を担いだビアンカが温室のある中庭に出たら、小路の向こうからマクシムが歩いて来たのである。
ユリウスはビアンカの腕を掴み、踵を返そうとした。
「おい、待て!!逃げようとするな!!」
「チッ」
(は?舌打ちした!?相手は王太子なのに・・・。ユリウス、不遜過ぎないか?)
成り行きで巻き込まれてしまったビアンカと、今も渋い顔をしているユリウスは温室の方へ向き直る。程なく、マクシムが到着した。
「ちょうど良かった。今からこの城に残っている他国の王族と温室で茶会を始めるところだったから、お前たちも一緒に来い」
「・・・・・」
来いと言われたのに、ユリウスは無表情で何も答えようとしない。ビアンカは険悪な雰囲気になりそうだと焦る。
(これ、誰がこの場を取り持つの?――――私?私なのか!?はぁ~、面倒クサ~!)
「ユリウス、甘いものが食べたいです」
「分かりました。――――兄さん、行きます」
「お、お前・・・。まぁいい、行くぞ」
――――――――
温室というから庭にある小屋なのかと思っていたら、立派な建物だった。それもパーティーくらい開催出来そうな規模の・・・。真ん中にはグランドピアノが置いてあって、天井から降り注ぐいい感じの光がスポットライトのように当たっていた。
他国の王族の顔と名前は知っているビアンカだったが直接、彼らと会話をするのは今回が初めてだ。ただ、ビアンカもユリウスも制服を着ていて、お茶会で人をもてなすような恰好をしていない。
(こんな姿で良いのだろうか?一応、この城の主とその夫人なのだが・・・)
「待たせて済まない。辺境伯と夫人を見つけたので連れて来た。服装は突然だったので許して欲しい」
ビアンカの心中を察したかのようにマクシムが先手を打った。王太子が了解を取れば、他国の王族もきっと許してくれるだろう。
(思いの外、残っている王族は若い方ばかりだ)
ビアノの前に円形のテーブルが二つ用意されていた。右のテーブルにポリナン公国の公子夫妻が、左のテーブルにはサルバントーレ王国のフォンデ王子とネーゼ王国のコルネリア王女が着席している。
「マクシム王太子殿下、ビアンカ様とお話したいのですが!」
右のテーブルから、お呼びが掛かった。
(ポリナン公国のご夫妻が何故に?――――先の戦闘で貴国の将軍をボコボコにしたことくらいしか思いつかない・・・)
「では、私とビアンカはあちらへ」
彼女の手を取り、ユリウスが一歩踏み出したところで、マクシムが待ったを掛ける。
「待て、ユリウスはこっちに来い」
「嫌です。妻と離れたくありません」
キッパリとユリウスは断った。
「あ~、そうか。結婚したばかりだから仕方ないか・・・」
――――マクシムは額に手を当てる。
「分かった。では、しばらくしたら左のテーブルにも来てくれ」
「承知いたしました」
ビアンカはユリウスの代わりに即答した。そして、彼の手を引いて右のテーブルへ向かう。
(もう、何なの?この不毛なやり取りは!毎回毎回・・・)
「ユリウス、そんなにマクシムが嫌い?」
ビアンカはユリウスに小声で聞いた。ユリウスは立ち止まって、ビアンカの耳へ囁く。
「嫌いです。ライバルですから」
「?」
今度はユリウスがビアンカの手を引いて歩き出す。
(ライバル?何のライバルだ?もしかして・・・、玉座!?玉座を狙っているのか?それとも、何かで競って・・・。あーもう、何かって何?)
ビアンカはまた新たな悩みの種をユリウスから蒔かれ、答えが出ないと分かっているのにグルグルと考えてしまうのだった。
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