11 先入観は持たないで
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
コンストラーナ辺境伯の結婚を祝うパーティーが大広間で始まった。
辺境伯はこの国の王族(しかも王位継承権を持つ)なので、周辺諸国の王族たちは結婚式に引き続き、このパーティーにも参加している。
彼らの相手は王太子マクシムと王太子妃リリアージュが受け持ち、国王陛下がお祝いの挨拶をするとのこと。ビアンカはパーティーの流れをユリウスに聞いて卒倒しそうだった。
(ヴィロラーナ公爵(ユリウスの父)を差し置いて、王家が出張って来るなんて、誰が想像する?ユリウスの両親は何処にいるのだろう。あ、あれは・・・)
ビアンカは会場内でひと際、目立っている集団へ視線を向ける。そして、その中心に王太子妃リリアージュが居るのを見つけた。
――――王太子妃リリアージュはツィアベール公国から嫁いできた。彼女は大公の一人娘でツィアベール公国唯一の公女。経緯は知らないが、マクシムとは幼少期に婚約したと聞く。二人が結婚したのはマクシムが王立学園を卒業した年だった。――――僅か三年前のことだ。
ビアンカが目を凝らしてみると、彼女を取り囲んでいるのは大公の右腕として知られているケビン・アマンド伯爵をはじめとしたツィアベール公国の貴族や、大陸一の貿易商と言われているソレイユ商会のベイジン会長とその部下たちだった。
(ん、大公は居ないようだな、ということは、ケビン・アマンド伯爵が大公の代役として来ているのか)
マクシムは取り巻きと盛り上がっているリリアージュへ一声を掛けてから、他国の王族へ挨拶をするため、その場から離れていく。
「ふーん、マクシムも色々と苦労しているのだな。あんなに王太子妃の周りをツィアベール公国の者どもに固められたら、やり辛いだろう・・・」
――――ビアンカは今、裏方からパーティー会場の様子を覗いている。彼女とユリウスの出番はもう少し後のため、この隠し部屋で暇を潰しているところだ。
彼女は隣で椅子に腰かけているユリウスへ会場内の出来事を実況中継していた。ユリウスは自分とは違う視点で語られる話を黙って聞いていたのだが・・・。
――――彼はビアンカがこの会場にいる貴族、王族の顔と名前を完全に把握していることに驚いた。
「ビアンカ、他国の王族のことまで良く知っているのですね」
「はい、戦争になったら首を取らないといけないので」
「首を取るために覚えたということですか?」
「そうです」
キッパリと言い切るビアンカ。
――――ユリウスは下を向く。笑いをかみ殺すためである。裏方にある部屋とはいえ、笑ったら会場に声が漏れてしまう。
「ユリウス、もしかして笑っている?」
「――――はい」
(ん?今の話のどこに笑うポイントがあった!?まぁいっか。マクシム、次は何処に挨拶へ行くのかな。――――あ、父上のところだ!!ウソッ!!母上と兄上もいる!!えーっ、ここで大斧を担いで出て行ったら、卒倒・・・、いや、激怒されるかも知れない)
ビアンカは血の気が引いた。彼女が何より苦手としているのは理詰めで攻めて来るピサロ家の人々なのだ。
「大斧、置いて行くか・・・」
ボソッと呟く、ビアンカ。――――ユリウスはこの一言をしっかりと聞いていた。
(別に刺客が来たら、大斧が無くても足に短剣を三本仕込んでいるし、何より魔法使いのユリウスが隣に居るから大丈夫だろ。あ、そう言えば・・・)
「ユリウス、教会にいた刺客はどうなりましたか?」
「その質問は大斧を置いて行くことと、何か関係があるのですか?」
「ん、大斧!?」
(あ、さっきの呟きを聞いていたのか・・・)
「いえ、大斧は別件です。あの刺客、誰の差し金か分かりましたか?」
「ええ、分かりました」
ユリウスは漸く、顔を上げた。何とか笑いはおさまったらしい。
「――――守秘義務がある?」
「いいえ、お教え出来ます。ですが、私の話を聞いて、先入観を持たないで欲しいのです」
(先入観?どういうこと?)
「ん―――――、分かりました」
仁王立ちで両腕を組み、ビアンカはユリウスの言葉を待つ。彼はビアンカと視線を合わせて数秒ほどためてから口を開いた。
「ツィアベール公国の大公です」
(ツィアベール公国の大公って、王太子妃の父上じゃないか!!娘は大国の王太子マクシムに嫁いで盤石なクセに!私を狙って何の利があると言うのだ?うーむ、あまり憶測で判断してはいけないが・・・。正直なところ、覗き見たマクシムとリリアージュ王太子妃の雰囲気はあまり良くなかった。マクシムは一人で挨拶回りを始めるし・・・。いや、普通に考えて、お喋りにかまけて任務をおざなりにするのは王太子妃としてアウトだろ!)
「―――――すみません。先入観を持ってしまいました・・・」
「仕方ないですね。問題が起こりそうな時は私がフォローします」
ユリウスは至って冷静。
一方、ビアンカは今すぐ大斧を担いで行って、王太子妃を問い詰めたかった。教会の刺客はビアンカ、警備兵、サジェ(王国軍魔法師団・リシュナ領支部所属の魔法使い)の連携で上手く収めたが、けが人が出てもおかしくない状況だったのである。そして、あの立派な陶板レリーフも破壊されてしまった。
「やっぱり、大斧を担いでいきます。何が起こってもいいように・・・」
「ビアンカ、会場で戦うつもりですか?大斧を担いでいくのは余興として面白いので許可しました。しかし、戦闘はして欲しくありません」
「余興なら良くて、戦闘は禁止!?」
頓珍漢なことを言われて、ビアンカはポカーンと口を開けたまま固まる。
(大斧で余興って何?大斧は武器だから、戦うための道具だと思うのだけど・・・)
「ビアンカ、今夜は私たちのお祝いですから、戦いなら城の者が出ます。大斧はまた別の機会に活躍してもらいましょう」
「もしかして、既に対処済み?」
「はい」
(うおー!抜け目がないというか、何というか・・・。最初から、このパーティーは荒れる予定だったということじゃないか!!)
「ビアンカ、あなたの美しい足を晒さなくていい様にしますから、ご心配なく!」
ユリウスはビアンカのドレスの深いスリットが隠されている部分をジーッと見詰める。
(ムズムズする。そんなに凝視しないで欲しい)
「ユリウス、見過ぎ・・・」
「正直なところ、(スリットを)縫い付けておきたいです」
「はっ?」
ニコッと笑みを作るユリウス。ビアンカは少し怖くなった。
(笑ってるけど、笑ってない・・・。これ約束を破って暴れたら、お仕置きが待っているとかそういう類の・・・。まさか・・・、ね)
「閣下、ビアンカ様、ご準備を!そろそろ出番でございます」
アンナに呼ばれ、二人は部屋から出て、大広間の階段の上へ移動した。
――――――――
司会者が「辺境伯夫妻の入場です」と言った瞬間、会場からは大きな拍手が沸き起こる。
ユリウスとビアンカは大広間にある大階段の上にある扉を開けて登場した。拍手の中に一瞬の騒めき。これは想定内である。
(皆さん、私が大斧を担いでくるとは思ってなかっただろう。顔が引きつっている者が結構いるな・・・。あ、ピサロ家(実家)の人々とは視線を合わさないよう気を付けよう)
ビアンカは右手をユリウスの腕に通し、左肩には大斧を担いで階段を一歩ずつ降りて行く。
(ユリウスから貰った靴、柔らかくて、歩きやすい!!これなら走っても大丈夫そうだ)
彼女はユリウスからの贈られた銀色のヒールが低いパンプスを履いている。柔らかい革で作られていて、履き心地のよい靴だった。
(ドレスも丁度良いサイズだし、コルセットも巻いていないから、自由に動ける!!――――だけど、戦ってはいけない。いや、難し・・・)
「ビアンカ、階段を降りている間は緊張感を」
「はい」
ユリウスはビアンカの耳元へ注意を促す。階段は狙われやすい。そんな鉄則を忘れて考え事をしていた。ビアンカは深呼吸を一度して、気合を入れ直す。
「陛下にも注意を払っておきましょうか?」
「陛下は影が守っているので心配ないです」
「分かりました」
(フッ、お祝いパーティーでする会話じゃないな・・・)
ビアンカの視界にマクシムが入った。彼は今、サルバントーレ王国の王子の隣に立っていた。そして、リリアージュ王太子妃は相変わらず、故郷の貴族たちに取り囲まれている。
(マクシムに早く子供が出来たら国は安泰だと安易に考えていたが、どうやら風向きがおかしい。今、国王陛下夫妻は何処に・・・、ん、父上達と一緒に居るのか!あーっ、マズイ!兄上と目が合ってしまった。――――あーっ、顔が・・・、かなり怒っている・・・)
デイヴィス(ビアンカの兄)は、妹が階段の上に現れた瞬間、めまいがした。豪傑な妹も結婚すれば少しは落ち着くだろうと思っていたのだが・・・。
ビアンカは豪華なドレスを身に纏い見目麗しい辺境伯の隣で、堂々と大斧を担いでいた。――――これは何の悪夢だろうか・・・。結婚のお祝いパーティーに大斧!?
父上と母上は妹を甘やかし過ぎたのではないかと腹が立って来た。その上、辺境伯はおかしな妹の横で平然としている。彼は妹の愚行を止めようと思わなかったのだろうか?――――デイヴィスはイライラしながら、ビアンカへ視線を飛ばす。
「はぁ・・・、私を視線で殺す気か。ユリウス、先に謝ります。兄があなたにおかしなことを言うかも知れない」
「ご心配なく。私は大丈夫です」
深刻な声のビアンカに対し、ユリウスは楽しそうな声で返事をした。
――――二人がフロアへ降り立つと国王陛下が前に出る。
「ユリウス・フルゴル・コンストラーナ辺境伯、ビアンカ・ルーナ・コンストラーナ辺境伯夫人。この国を代表し、お祝いの言葉を伝える。結婚おめでとう!末永く、幸せに。そして、この国を二人で盛り上げてくれ!!」
(盛り上げてくれと言われても、私は大斧を振り回すくらいしか出来ん。それよりも陛下は自分の息子夫婦をどうにかした方が良いと思うぞ・・・)
★ミニ情報・物語に出て来たところまで★
ローマリア王国
デイヴィス・ピーター・ピサロ侯爵令息 ビアンカの兄 王太子マクシムの側近
ツィアベール公国(大陸一の港を持つ貿易国・ローマリア王国とは友好条約を結んでいる)
ケビン・アマンド伯爵 大公の右腕
ベイジン会長 ソレイユ商会(大陸一の貿易商)
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