9 新しい仲間
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
ビアンカは着替えて軽食をとった後、侍女たちに促されベッドで横になる。
――――こんな贅沢な時間を過ごせるとは思ってなかった。普段は訓練と雑用を朝から晩までこなし、疲れ切った身体でベッドに倒れ込むのだから。
昼寝なんていつ振りだろう。食事も取れる時にそこへあるものを食べているだけだ。当然、味など二の次である。だから、軽食として運ばれて来たサンドイッチやきのこのポタージュスープ、搾りたてのオレンジジュース、アップルパイのどれもが美味しくて感動してしまった。
その上、今日はこんなにふかふかのベッドでお昼寝までしていいのだという。
(何なのだ、この贅沢な時間の使い方は・・・。まぁ、振り返ってみるとここ最近は忙し過ぎたのかも知れないな。本を読む時間も無く・・・。――――学園に通っていた時は図書館で良く本を借りていた。最初は行軍のためになるだろうと地理や風土関係の本を読み漁って・・・、段々と周辺諸国へ興味が出て来て各国の歴史書を読んで・・・。――――懐かしい・・・。読書のお陰で史学は良い評価を取れて・・・。それで国軍に戻った時に指揮官補佐へなれて・・・・・・・・)
ここで、ビアンカは眠りに落ちた。
――――――――
「――――ん、んんん~。あっ、陽が傾いている。すっかり眠り込んでいた・・・」
ビアンカはベッドから身を起こして窓の外を見る。レースのカーテン越しだが、夕刻に近づいているのは分かった。
(そういえば昼寝をする前、アンナがサイドテーブルにベルを置いて『若奥様、起きたらこれを鳴らしてください』と言っていたな。鳴らしてみるか・・・)
―――――ビアンカはベルを手に取り、「リン、リン、リン」と三回振ってみる。
コンコン。
(オワッ!?隣の部屋に誰か居たのか!!ビックリした!!)
「――――はい」
「若奥様、失礼いたします」
アンナの声だった。彼女はドアを開き、一礼して部屋へ入ってきた。
「よく眠れましたでしょうか?」
「はい、すっかり疲れも取れました。アンナ、その若奥様という呼び方は誰の指示?」
「執事のセザンヌです」
(うーん、世代か・・・。執事は結構、お歳を重ねてそうだったからなぁ~)
「執事には悪いのだが、出来ればビアンカと名前で呼んで欲しい」
「承知いたしました。執事に伝えます」
アンナはドアのところまで戻り、隣の部屋の侍女へ言付けをする。
――――パタパタパタと侍女の足音が遠のいて行った。恐らく執事のところへ向かったのだろう。
「いま、侍女アリエルを執事の元へ向かわせました。戻ってくるまで少し時間が掛かりますので、パーティーの準備を始めましょう」
「分かりました」
「では流れをご説明いたします。先ず、ご入浴していただきます。その後、マッサージで老廃物を流し、むくみを取ります。そして、お着替えをしてからお化粧と髪のセットをいたします」
アンナはテキパキと説明を終えるとビアンカの足元へスリッパを置く。ビアンカは無意識のうちにスリッパへ足を入れて、歩き始めていた。
(うむ、この御方は凄いな!川を流れる水のように人を動かす才能がある)
「さあ、こちらへ」
ビアンカは隣の部屋を見て唖然とする。
(はぁ?バスタブだと!?コレ、担いで来たのか?それにマッサージ台とドレッサーまであるじゃないか!?――――侍女の仕事は想像以上に大変なのだな。煌びやかな職業だと認識していたが、飛んだ勘違いだった。――――世の侍女の方々にお詫びを)
「入浴のお手伝いはアリエルとセシルがいたします。しかし今、アリエルは席を外しておりますので戻るまでの間、わたくしが彼女の代わりをいたします。セシル、ご挨拶を」
「若奥様、侍女のセシルと申します。侍女の仕事を始めて四年目になります。席を外しているアリエルは私の姉です。どうぞよろしくお願いいたします」
栗色の髪をお団子にしているセシルはパッチリ二重の丸顔で愛らしい笑みを浮かべている。ビアンカは彼女に恐怖感を与えないよう、出来るだけ柔らかい口調で話し掛けた。
「初めましてセシル、私の名はビアンカです。約十年間、国軍で働いていましたが、花嫁の仕事は一日目です。どうぞよろしく!」
「はい!若奥様、よろしくお願いいたします。誠心誠意努めさせていただきます!!」
セシルはガッツポーズを決める。
(あ、この感じなら上手くやっていけそうな気がする。侍女たちのノリが実家や王宮と違って、筋肉系というか、――――失礼ながら国軍のノリに近いような・・・。マクシムが私をここに送った理由、少し理解出来たような気がする)
「では、只今から『閣下は若奥様に釘づけ作戦』を始めます!!」
アンナの拳を上げて叫ぶと同時にセシルも拳を突きあげた。ビアンカも釣られて拳を掲げて・・・。
「「「オー!!」」」
合図をしたわけでもないのに三人の呼吸はピッタリと合っていた。
(あ、間違いなく私、この人たちと気が合う。良かった!!何とかやっていけそうだ!!)
――――――――
極上のエステサロンのような施術を終え、いよいよドレスの着付けを始める。
「アンナ、コルセットは筋肉があるから簡単に締まらないかも知れない」
ビアンカは事前に懸念を口にした。
今朝準備をしてくれた王宮の侍女たちは、王太子から命じられた職務を追行することに必死で、ビアンカとは殆ど会話をしていない。その結果、あの地獄ような締め付けに何時間も耐えなければならない羽目になった。
(コミュニケーションは大切だ。それは良く分かっている。しかし、今朝の侍女たちは終始、私に怯えていたから、下手に話し掛けたら泣かしてしまいそうで怖かった。その点、アンナたちには何を言っても大丈夫そうな安心感がある)
戻って来たアリエルとセシルがビアンカのマッサージをしている間も、タイミング良くアンナが話題を振って、場の雰囲気を和やかにしてくれた。
また、執事へ『若奥様ではなく、名前で呼んで欲しい』というビアンカの希望を伝えたところ至急、城の使用人たちに『ビアンカ様、もしくはビアンカ奥様』という呼び方をするよう周知徹底いたしますという返事が届いたのである。ビアンカは執事の柔軟且つ、迅速な行動に驚いた。
――――アンナは少し考えてから、ビアンカに提案する。
「思い切って、コルセット無しにしましょうか?ビアンカ様はメリハリのある体形をされていて、わざわざ持ち上げなくても胸の形も良いですし、腹筋や背筋がしっかりとされてますからドレスを着ていても、美しい姿勢を保つことが出来るでしょう。胸のトップを目立たせないように上手く覆えば大丈夫だと思います」
「そうして貰えると助かる。動けないと有事の時に困るから」
「承知いたしました。武器のご用意はいかがいたしましょうか?」
部屋の片隅に置いてある大斧へ、アンナは視線を向けた。ビアンカはパーティー会場に大斧を持ち込むのは無理だろうと既に諦めている。
「短剣を二、三本仕込む。太ももに固定する」
「はい、ご準備いたします。それでは大斧と短剣を二、三本で宜しいでしょうか?」
(ん?大斧!?大斧って言った!!)
「アンナ、ドレス姿で大斧を担いでいいのか?」
「はい、構いません。閣下が許可を出されています」
「ユリウス、話が分かる奴だな。父上とは全然違う・・・」
ビアンカはボソッと呟く。
(ユリウスの寛容さは一体、何なのだろう・・・。勝てる気がしない。あいつ、歳を誤魔化しているのではないか?マクシムよりもよっぽど・・・)
見た目と行動が全く嚙み合わない花婿にビアンカは首を傾げる。マクシムは良い意味で年相応だ。怒っている時や悲しい時は顔に出るし、嫌味を言われたら食ってかかるような熱いところがある。一方、ユリウスはポーカーフェイスなのか地なのか分からない言動や行動をするので本心が全く分からない。
(もしかするとユリウスの方が王に向いている?いや、彼とは会ったばかりじゃないか。判断するのは時期尚早だ。先ず、二人(マクシム、ユリウス)がグルなのか、互いに牽制する仲なのかくらいは今夜のパーティーで見極めよう!!)
ビアンカがもやもやと考えている間に着付けは終わっていた。パーティ用のドレスはスカート部分に何枚もの折目を縦にしっかりと付けた布を重ねている。――――パッと見ではプリーツスカートのようで、実際は一枚一枚が縫い合わせられておらず、足を横方向に力強く踏み出すとモモの辺りまでスリットが開く。
「これは戦闘用のドレスと言っていいような・・・」
「はい、ビアンカ様がこちらへ嫁いで来られるとのことで、このようなタイプのドレスを多数、ご準備いたしました」
「誰の指示?」
流れに乗って色々聞き出そうとする、ビアンカ。――――アンナはそんな意図があるとは知らないため、包み隠さず答える。
「閣下です」
「それはいつ頃の話?」
(あ、コレは少し探れそうだ!!)
「そうでございますね・・・。あ、閣下がお見えになられました」
コンコン。
(何このタイミング!!怖っ!!それにアンナはノックが鳴る前にユリウスだと気付いていたよね?)
「入ってもいいだろうか?」
アンナの言った通り、声の主はユリウスだった。
★ミニ情報・物語に出て来たところまで★
侍女 アリエル セシルの姉
侍女 セシル アリエルの妹
最後まで読んで下さりありがとうございます。
次回もお楽しみに!!
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