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錬金術はインチキじゃない!  作者: フオツグ


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9/11

ワンダー博士の錬金術ショー!

 ワンダーは踊るように歩き、アマリの後ろに回る。


「さて、ここにいるのは賊に襲われ、歩けなくなった哀れな少女アマリ」


 ワンダーはアマリの両肩に手を置いた。


「今回の錬金術(マジック)では、【万能ポーションの精製】をお見せしよう!」

「【万能ポーション】だと……?」

「薬に頼るのか!? 錬金術師が!?」


 村人達が難癖をつける。


「チ、チ、チ」


 ワンダーは人差し指を左右に動かす。


「錬金術の始まりは、人々の怪我や病気を治す薬を、魔法のように作り出すことから始まったのだ。機械を生み出すのは、時代が進んでからなんだぞう」


 ワンダーは自嘲気味に笑った。


「おっと、失礼。昔話をするのは老人の性のようなものでね」

「……老人?」


 村人達は首を傾げる。

 今のワンダーの姿は、何処をどう見ても子供だ。

 明らかに老人を自称する年齢ではない。

 ワンダーは気にせず続ける。


「この大釜の中には、何の変哲もないの水が満たされている」


 ワンダーはコンコンと大釜をノックする。


「バニバニ、見せてあげて」


 バニバニは大釜を傾け、観客に大釜の中身を見せた。

 ちゃぷちゃぷと水の波打つ音が聞こえる。


「本当にただの水なのかぁ〜?」


 村人の一人がへらへらと笑いながら野次を飛ばす。


「何か変なもんでも入ってるんじゃないのかぁ?」

「ただの水だとも!」


 ワンダーは手の上にパッとカップを出現させる。

 そのカップで大釜の中の水を掬うと、ごくごくと喉を鳴らして飲み干した。


「ぷはぁっ。ほら、何ともないだろう?」

「信用出来ねえなぁ」

「なら、キミ達も飲んでみるかい? おーい、バニバニ〜」

「はい。お客様、どうぞこちらへ」


 バニバニに促され、野次を飛ばした者含む数人の村人が大釜へと近づく。

 バニバニはカップを渡し、大釜の中の液体を飲むように言った。

 村人は恐る恐る大釜の水を救い、カップの中身を飲む。


「水……だな。水だ……」


 そう言いながら、すごすごと元の場所へと戻っていく。


「ふっふっふ。それでは、皆様お待ちかね、奇跡(マジック)をお見せしよう」


 バニバニは布を被せた物体を持って、ステージに上がる。


「今回の対価(タネ)はこれだ!」


 ワンダーが布を剥ぎ取る。

 バニバニの手には、ガラクタの塊が乗せられていた。


「……なんだあれ」

「ガラクタ?」


 村人達は首を捻る。


「これはポチ──空飛ぶ車のエンジンさ!」


 空飛ぶ車・ポチは凹凸だらけの傷物にされたが、中身までは壊されていなかった。

 犯人は外見だけでなく、中身も重要なことがわからなかったのだろう。

 空飛ぶ車の存在すら懐疑的な現代人なのだから、当然のことだ。

 だからワンダーは、これを対価(タネ)にすると決めた。


「えんじん……?」

「うーん。馬車で言うなら馬の部分?」

「ガラクタだろ」


 観客は嘲笑する。

 ワンダーは逆に、機嫌を良くした。

 ただのガラクタを、神の妙薬に変えることが出来たのなら、村人達は驚くだろう、と。


「では、このガラクタをー……大釜にドボン!」


 バニバニはエンジンを大釜の中に入れた。

 大釜内に水飛沫が上がる。


「それでは、奇跡までのカウントダウン! アン、ドゥ……トロワ!」


 ボフン、と大釜から煙が湧き上がる。

 その後、しん、と辺りが静まり返った。


「煙を上げるのが奇跡?」


 マヤカスがくすくすと笑う。


「チ、チ、チ。ここから本当の奇跡だ……」


 バニバニが大釜の中身をカップで掬う。

 そのカップを流れるようにワンダーへと手渡した。

 ワンダーはカップを持って、怪我をした少女・アマリに歩み寄った。


「さあ、不運な少女よ。奇跡の妙薬をどうぞ?」


 アマリはぶんぶん、と首を横に振った。


「そ、そんなもの、飲みたくない……」


 得体の知れない物体を入れた液体など、普通飲みたくないだろう。


「そうか……」


 ワンダーはしょぼんと、眉を八の字にした。


「しかし! 心配はいらない! 奇跡の妙薬は飲み方を選ばないのさ!」


 ワンダーは思いっきり、アマリの足に液体をかけた。


「きゃあっ!」


 アマリは驚いて、思わず足を上げた。


「……え?」


 アマリは足に不思議な感覚を覚えた。

 なくなっていた足の感覚が徐々に戻ってきているような気がしたのだ。

 包帯の上からでは、本当に傷が治ったかどうかわからない。


「さあ、お手をどうぞ? お嬢様」


 ワンダーが手を差し出す。

 アマリは困惑して、ワンダーの手を見つめることしか出来なかった。


「ふふ。シャイガールだ──なっ!」


 ワンダーはアマリの腕を掴み、思いっきり引いた。

 倒れそうになって、アマリは思わず、足に力を入れてしまう。

 一歩、また一歩と、足が自然と前に出る。

 ワンダーは手を引き、アマリをリードして、ダンスする。

 くるくるとダンスをする二人に、その場にいた全員が呆気に取られた。

 アマリが立っている。

 どころか、踊っている。


「お上手だ。ダンスはお好き?」


 ワンダーはアマリに笑いかける。

 アマリは呆然とワンダーの顔を見つめていた。

 暫くして、くしゃりと顔を歪ませた。


「……好き」


 アマリの目から涙が溢れる。


「好きっ……!」


 ワンダーはとびきりの笑顔をアマリに向けた。


「さあ、皆様ご唱和下さい──」


 ダンスの終わり、ワンダーはアマリと二人でポーズを決めた。


「ワーオ! ワンダホー!」


 観客達は感嘆の声を上げた。

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