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錬金術はインチキじゃない!  作者: フオツグ


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8/11

ワンダー博士、錬金術対決をす。

 錬金術対決当日。

 村の中心部にて、二人の錬金術師が対峙していた。

 村の錬金術師、マヤカス。

 そして、突如村に現れた稀代の錬金術師(マジシャン)、ワンダー博士。


「逃げずに来たみたいだね」


 マヤカスがくすくすと笑う。

 釣られて、ワンダーも笑った。


「逃げる道理などない……。人々に驚き(サプラーイズ)感動(エモーション)を! それが、ボクの信条だ!」

「ククク。そうか……。逃げた方がマシだったと思うときが来ないと良いね」


 マヤカスは手で視線を誘導する。

 ステージの上には、暗い顔をした二人の少女が椅子に座っている。

 二人の膝にはブランケットがかけられ、足を隠されていた。


「対決の内容を説明しよう」


 マヤカスは二人の少女にかけられたブランケットを剥ぎ取った。

 二人の足には包帯が痛々しく巻かれている。


「ここに、歩けなくなった二人の少女がいる」

「アマリ、リリス、その足……!」


 シーアは青い顔をする。


「知り合いかい? シーア嬢」


 ワンダーはシーアに尋ねた。


「村に住んでいる双子の女の子です。アマリとリリスって言います。数日前まで元気に走り回っていたのに、どうして足を……」

「先日、賊に襲われたらしいんだ。可哀想に……」


 マヤカスは悲しげに目を伏せた。

 アマリはキッとマヤカスを睨み、『嘘つき』と心の中で叫んだ。

 双子の家族は昨日、突然家にやってきたマヤカスに襲われた。

 アマリは足の腱を断たれた。

 リリスは歩けないふりをしろ、と命令された。

 二人は従うしなかった。

 二人の母親が人質に取られてしまっていたから。


「ママ……」


 アマリは人だかりの一番後ろに立つ、母親を見た。

 不安そうにする母親の横に、マヤカスの手の者が立っている。

 アマリとリリスが裏切ったら、いつでも手を下せるように。


「彼女達の足の怪我を治し、見事歩けるようにするんだ。私はリリスの足を治す。君はアマリの足を治すんだ」


 マヤカスは笑う。

 マヤカス自身が治すのは、怪我などしていないリリスの方だ。

 対して、ワンダーが治すのは、念入りに足を潰されたアマリ。

 結果は明白だ。

 この対決で、ワンダーを屈服させる。

 そうすれば、目障りな反錬金術主義のオーディンとシーアも、マヤカスに従わざるを得なくなるだろう。

 古代アルケミアの錬金術を調べている考古学者・オーディンの指示を得られれば、この村でのマヤカスの権威は、より盤石なものになる。

──この村の全てを、俺の意のままに操れるようになる。俺の住み良い村、理想郷の完成だ……。

 マヤカスは口元を歪ませた。


「この対決内容に何か不満はあるかい?」


 マヤカスの問いかけに、ワンダーは大きく口を開けて笑顔を見せた。


「ない! とても良い錬金術の使い方だと思う!」


 かかったな、とマヤカスはほくそ笑む。


「……だが一つ、対決に関係ないことで、提案があるんだけど」

「……何だい」

「もし治せなかった場合、相手の錬金術師が足を治してあげることにしよう。さすれば、可哀想な少女はこの場にいなくなる! みんなハッピーだ! 良い案だろう?」


 ワンダーはニッコリと笑う。


「は、はあ? 二度も奇跡を起こせと?」

「一度も二度も変わらないだろう? ボクにはアマリ嬢もリリス嬢も笑顔にさせる、確固たる自信がある。キミも錬金術師ならば、そうだろう?」


 そう言われて、マヤカスは頷くしかない。

 マヤカスはワンダーより上だと、村人の前で示さなければならない。


「……当たり前だ」


 マヤカスの答えにワンダーは嬉しそうに笑った。


「キミとは良き友になれそうだ! いやあ、対決が楽しみだね!」


 マヤカスはワンダーの方の少女・アマリを睨む。

 マヤカスが治すとき、「無理にでも立て」と言うことだろう。

 アマリは顔を青くさせる。

 彼女の足は念入りに腱を斬られた。

 絶対に立てないように。

 逆らえば、母親を殺すと言われて。

──どうしたら。


「大丈夫、アマリ嬢。何も心配いらないさ」


 ワンダーはアマリの肩を優しく叩いた。


「この稀代の錬金術師(マジシャン)、ワンダー博士がついているからね! 大船に乗ったつもりで居たまえ!」


 ワンダーは空を見上げるほど、胸を張った。

 アマリはじんわりと目が元が熱くなる。

 期待しちゃ駄目だとわかっていた。

 錬金術はインチキなのだ。

 信じていたマヤカスが、ただの詐欺師と知ってしまった。


 木造の簡易のステージの上に、椅子に座った少女が二人。

 それぞれの少女の横に、各々の錬金術師が立つ。


「まずは、私から奇跡をお見せしよう」


 先方はマヤカスだった。

 マヤカスは水晶玉を取り出し、リリスの膝の上に置いた。


「この水晶玉には神々の奇跡の力が宿っている。私を信じる者にしか、奇跡は与えられない。さあ、リリス。願うんだ。再び、歩きたいと……」


 リリスは強く願う。

 ママとアマリを助けられますように、と。

 マヤカスは水晶玉を持ち上げる。


「……さあ、もう立てるはずだ」


 リリスは易々と立ち上がった。


「ワアアアアアア!」


 村人達から歓声が上がる。


「流石、マヤカス様!」

「奇跡だ!」


 アマリとリリス、そして、シーアだけは、浮かない顔をしていた。


「──素晴らしい!」


 ワンダーはマヤカスに拍手を送った。


対価(タネ)準備(仕掛け)もない錬金術(マジック)とは恐れ入った! ボクには出来ない芸当だ!」

「つまり、敗北宣言をすると?」

「ああ。ボクの負けだ」


 その言葉に、マヤカスは笑いを堪えきれなかった。

──勝った……。


「では、次はボクの錬金術(マジック)をお見せしよう。……バニバニ、持ってきてくれ!」

「はい」


 バニバニが大きな釜を持って、ステージに上がる。


「いや、え? 今、負けたって言ったよな?」

「ああ、うん。錬金術師としては、ボクの負けだ。やっぱりボクは、まだまだ未熟者だと痛感したよ」


 バニバニはワンダーの前に、大きな釜をどん、と置いた。

 木造のステージが振動する。


「ボクの奇跡など、村の皆々にはチンケなものに映るかもしれないが、ボクはボクなりに、観客(オーディエンス)を沸かせようではないか!」


 ばさり、とワンダーはマントを翻した。

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