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錬金術はインチキじゃない!  作者: フオツグ


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7/11

ワンダー博士、お客様です。

 村でマヤカスと顔を合わせた後。

 ワンダー達はシーアの家に戻って来ていた。


「ワンダー博士! 安請け合いして、大丈夫なんですか!?」


 シーアはワンダーに向かって叫ぶ。


「良いじゃないか、シーア嬢! ボクの錬金術(マジック)村人達(オーディエンス)に披露する絶好の機会(ステージ)だぞう!」

「ワンダー博士の錬金術の腕は疑っている訳ではないんです。問題なのはマヤカスの方……」


 シーアは苦い顔をする。


「マヤカスは自分に都合の良い勝負を仕掛けてくるに決まってます。あいつのことだから、妨害だってしてくるだろうし!」

「逆境を跳ね返し、奇跡を起こしてこその錬金術師(マジシャン)さ!」


 ワンダーはバサリ、とマントを翻した。


「さあて、最高の錬金術(マジック)を披露するために、今は英気を養おうではないか! では、おやすみ〜」


 ワンダーはスキップしながら、客室に向かう。


「お休みなさいませ、ワンダー博士」


 バニバニはワンダーの背中に一礼した。


「もう……呑気なんだから」

「ワンダー博士は自分の錬金術の腕を過信しているところがありますから。それで何度も痛い目を見ているはずなんですがね」

「やっぱり、錬金術も万能じゃないんだ……」


 バニバニはムッと唇を尖らせて、不快感を表す。


「錬金術は万能です。それを扱う人間が万能でないのです。お間違えなきよう、人間様」

「バニバニ様、なんか怒ってます?」

「バニバニはワンダー博士に錬金されたガイノロイド。怒ることはありません。しかし、錬金術を馬鹿にすることは、バニバニを馬鹿にすることと同義だということを、お忘れなきよう」

「あ、そうだった。あまりにも人間らしかったから忘れてた。ごめんなさい……」


 バニバニは「よろしい」と言うように頷いた。


「さて。シーア様も今日のところはお休みになられては?」

「……うだうだ考えても仕方ないですよね。そうします」


 シーアは浮かない顔で、寝室に行った。

 ワンダーとシーアを見送った後、バニバニは窓の外に目を向けた。


「──さて」


 窓の外、無数の赤い光が、こちらに向かってくるのが見えた。


 □


「──いらっしゃいませ、お客様」


 バニバニは家の前で客人を出迎える。

 客人は手に松明を持っている。

 先ほど見えた赤い光の正体はそれだ。

 客人はバニバニを見て、動揺する。


「お前は……変な服の奴と一緒にいた、もっと変な服の奴!」

「バニバニと申します。ワンダー博士の助手をしています。以後お見知りきを」


 バニバニは丁寧にお辞儀をする。


「ワンダー博士は人々を『あっ!』と驚かせるため、睡眠をとっておられます。お引き取りを」

「あのインチキ錬金術師には、村を出て行って貰わねえと困るんだよ。錬金術対決なんて、マヤカス様のお手を煩わせる訳にゃあいかねえ」


 客人は武器を取り出した。

 スコップにクワといった農具だ。

 あれで殴られたら一溜まりもないだろう。


「……どうやら、お引き取り頂けないようですね」


 バニバニは拳を構えた。


「それでは、このバニバニが丁重におもてなし致しましょう」


 □


 早朝。

 外で野鳥が鳴いているのを聞いて、ワンダーは目を覚ました。


「ふああ。よく寝たー」


 ワンダーは大欠伸をしながら、リビングに姿を現す。


「おはようございます、ワンダー博士」

「おはよう、バニバニ! ……おや?」


 ワンダーはバニバニの手を握り、顔を近づける。


「手が汚れているじゃないか。夜、何かあったのかい?」

「大きな虫が出ました」

「なんと、虫が出たのか! まだ近くにいるかい!?」


 ワンダーはキョロキョロと家の中を見回した。


「申し訳ありません。バニバニが森に逃してしまいました」

「なあんだ。見たかったなあ、千年後の虫……まあ、また次の機会だな! これからいくらでも見られるだろう!」


 ワンダーはうんうん、と頷いた。


「おはようございます、ワンダー博士」


 シーアがキッチンから顔を出した。


「おはよう、シーア!」

「今丁度、朝食の準備が出来ましたよ。どうぞ」

「何から何までありがとう!」


 シーアはパンとスープの皿をテーブルに置いた。

 ワンダーは嬉しそうに席についた。


「ワンダー博士、錬金術対決、勝機はあるんですか?」

「あるさ! ポチがあるだろう?」

「ポチ?」

「ボクの車さ!『ポチ』と名付けた!」

「ああ、あの空を飛ぶ車!」

「あれを対価(タネ)にすれば何でも出来るぞう。なんてったって、元兵器だからな……」


 兵器には時代の最先端の技術が使われる。

 それを対価に差し出せば、ありとあらゆるものを錬金出来るだろう。


「人の命を奪うため錬金術を使うなんて、錬金術への冒涜だ。今後は、皆を驚かせるために有効利用させて貰おう!」


 ワンダーは朝食を食べ終え、意気揚々と外に出た。


「おはよう、ポチー! キミは次、どんな姿になりたいー?」


 車体は打撃を受けたようにボコボコと凹んでいる。

 そこにピカピカだったワンダーの愛車『ポチ』の姿はなかった。


「ああーっ! ボクのポチが見るも無惨な姿にーっ!?」

「マヤカスの仕業ね……! どうするんですか!? これがないと、錬金術対決に勝てないんでしょう!?」


 ワンダーは泣きながら、愛車ポチにしなだれかかった。


「うっうっ。ポチぃ……」

「ワンダー博士、しっかりして下さい! 泣いてないで、どうするか考えないと!」


 シーアはワンダーの肩を掴み、ゆさゆさと揺さぶった。

 ワンダーはその場から動こうとしなかった。

 バニバニは生体反応を感じた方に目を向ける。

 木の影から村人達がこちらを見ていた。

 彼らはワンダーが泣き叫んでいる様子を見て、ニヤニヤと笑っていた。

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