ワンダー博士と、村の錬金術師。
翌日。
シーアに誘われ、ワンダーとバニバニは村へと降りてきていた。
シルクハットを被り、タキシードにマントという奇妙奇天烈な格好をした少年。
そして、肌の露出の多いバニーガールの服を着た女性。
物珍しい二人に視線が集まっている。
「皆がボクに注目している……。何か錬金術を披露せねば!」
「ワンダー博士、今は我慢しましょうね」
「む……。そうだったな。今日はマヤカスとやらの錬金術を見に来たのだった」
シーアの語るインチキ錬金術師、マヤカス。
彼は定期的に村で錬金術を披露するらしい。
「今の錬金術がどうなっているのか、楽しませて貰おう」
ワンダーは目を輝かせた。
村の中心部。
木材を組み合わせて建てられた、簡単なステージがあった。
ステージの周りには、村に住む人々が集まっている。
「あれが、マヤカスです」
ステージの上に、黒いローブを着た男が立っている。
顔には余裕そうな微笑みが貼り付けられており、村人達に手を振っている。
「あれがマヤカス殿か……。錬金術師というよりかは、魔法使いと言った出立ちだな」
「マヤカスが現れてから、村のみんなはおかしくなりました。マヤカスを信奉するようになったんです」
「錬金術が浸透していない地域ではよくあることだ」
「古代アルケミアでも?」
「アルケミアが錬金大国と呼ばれるようになったのはここ十年程のことなんだ……って、キミ達にとっては千年前のことだったな」
ワンダーにとっては、寝て起きた程度の時間感覚で、無意識にそう言ってしまった。
「それで、シーア嬢はどうしてマヤカス殿をインチキだと思うんだい?」
「それは……私のママとパパを見殺しにしたから」
「見殺し……?」
「最初は私もマヤカスを本当の錬金術師だと信じていました。お爺ちゃんはそうじゃなかったんですけど」
シーアは自虐的に笑った。
「でも、二年前、パパとママが大怪我をした。盗賊に襲われて。そのとき、マヤカスを頼りました」
「そこで、【万能ポーション】の話が出て来る訳だな」
「はい。【万能ポーション】の話はお爺ちゃんから聞いたから、それを作って下さいって。お金はいくらでも払うからって。でも、マヤカスは……」
『貴女のご家族は信仰心が足りないから、【万能ポーション】を作るのは不可能だ』
動かなくなったシーアの両親の前で、マヤカスは嘲笑したという。
その場にはシーアの祖父・オーディンもいた。
マヤカスはおそらく、オーディンが気に食わなかったのだろう。
オーディンは最初からマヤカスを疑っていたから。
「それで、私はマヤカスを信じることを止めました」
「信仰心……まるで、神になったつもりのようだな」
「マヤカスはインチキ錬金術師。それを村のみんなの前で暴きたいんです。私のパパとママのような人が生まれないように……」
「……うーん」
ワンダーは唸った。
「錬金術はインチキではないが、真の錬金術をインチキだと言い張るのは無理がある」
「絶対にインチキです。見ていて下さい。今から、マヤカスの〝奇跡の啓示〟が始まりますから」
シーアにそう言われて、ワンダーはマヤカスに目を向けた。
「やあ、村のみんな。今日も錬金術による奇跡をお見せしよう」
マヤカスは水晶玉と布を取り出す。
「この水晶玉に命を吹き込もう……」
マヤカスは水晶玉に息を吹きかけた。
すると、水晶玉はマヤカスの肩を転がったり、布の端を渡ったりし始める。
まるで水晶玉自体に意思があるような、摩訶不思議な動きを魅せた。
水晶が光を反射し、本当に生きているかのように輝いている。
マヤカスが水晶玉を手に取り、一礼すると、村人達から歓声が上がる。
「奇跡だー!」
「マヤカス様ー!」
マヤカスは微笑み、村人達に軽く手を振る。
「ブラボー!」
ワンダーは一際大きい歓声を上げ、拍手を送る。
シーアはぎょっとした。
ワンダーに皆の視線が集まる。
「おや、見ない顔だね。新しく村に来た人かな」
マヤカスは優しく微笑む。
「ああ、昨日、この村に来たばかりさ。いやあ、実に面白いショーを見せて貰った! この村に来た甲斐があったよ!」
「そうでしょう」
マヤカスは満足そうに頷いた。
「それで? 《《錬金術はいつ披露してくれるんだい?》》」
「……は?」
「今のは錬金術じゃないだろう。ただのパントマイムだ」
しん、と辺りが静まり返る。
しかし、直ぐに怒号が響き渡った。
「マヤカス様を馬鹿にする気か! 愚か者!」
ワンダーは戸惑った。
「え? え? 褒めたつもりだったんだけど……」
「ワンダー博士!」
シーアが腕を引っ張る。
シーアの顔を見て、マヤカスは呆れた顔をした。
「ああ……反錬金術主義の人だったか。なら、あの発言も頷ける」
「ボクは錬金術を否定するつもりはないぞう。なんたって、ボクも錬金術師だからねっ!」
えへん、とワンダーは胸を張った。
「……へえ。君も」
マヤカスはほくそ笑む。
「では、何故、反錬金術主義の人間といるんだい?」
「シーア嬢もオーディン殿も錬金術を否定したい訳じゃないぞう。錬金術の本質を知らないから、ちょっと猜疑的になっているだけさ! ボクが錬金術師だと認めてくれてたしね!」
「……ほお。貴方のことは」
マヤカスは不敵に笑う。
「少年、錬金術に自信があるなら、錬金術で対決をしないか?」
「錬金術で対決?」
「ええ。同じ条件で、同じ錬金術を皆の前で見せるんです。どちらが本物の錬金術師か、はっきりさせましょう」
「良いね。面白そうだ!」
ワンダーは二つ返事で了承した。
「ワンダー博士!」
シーアは名前を呼んでワンダーを咎める。
「対決の内容は後日伝えます。それまで、絶対に逃げないでね」
ワンダーは大きく頷いた。
「勿論! キミの錬金術が見れる日を楽しみにしてるよ!」




