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錬金術はインチキじゃない!  作者: フオツグ


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5/11

ワンダー博士、弟子を取る?

「ふう! 美味しかった! ご馳走様!」


 ワンダーは空になった皿を前に、手を合わせた。

 シーアが出してくれたのは温かいクリームシチューだった。

 千年前のアルケミアでの食事は専ら栄養補助食品だった。

 味は美味しく感じられるように加工されており、必要な栄養はそれで全て補える。

 完璧な食品だと大人気だった。

 ただワンダーは、少し物悲しさを感じていた。


「やはり、手料理はボクのお腹も心も満たしてくれる……」

「あはは。ワンダー博士のお口に合ったようで何よりです」


 シーアは皿を片付けながら、ワンダーに向かって微笑む。


「こんなに美味しい料理をありがとう、シーア嬢! キミには錬金術師の素質があるね!」

「え。ほ、本当ですか!?」


 がちゃん、とシーアは思わず、音を立てて皿を置いてしまった。


「ああ! 料理は錬金術のようなものだからね! 材料を混ぜたり、焼いたり、煮たりして、全く違うものを作り出すのだから!」


 わっはっは、とワンダーは大きな声で笑った。

 シーアは俯きがちになりながら、皿を洗い出した。


「……私、錬金術師に憧れているんです」

「ほう! それは良い! 錬金術師になって、シーア嬢は何を生み出したいんだい?」

「……古代アルケミアには【万能ポーション】ってのがあったんですよね。何でも治す、神の妙薬が。アルケミアでは普通に流通してたみたいだって、お爺ちゃんから聞きました」

「ああ。錬金術師ならば錬金出来て当たり前の薬だ。脳と心臓が動いていれば、どんな大怪我でも治る」

「やっぱり、存在してたんだ……」


 シーアはか細い声でそう呟いた。


「ワンダー博士! お願いします! 私に、【万能ポーション】の作り方を教えて下さい!」


 シーアはワンダーに詰め寄る。


「その薬を作って、色んな人助けたいんです。……ママやパパみたいな人を、助けたい」

「気分を悪くしたらすまない。……お母様とお父様は今?」


 シーアとオーディンは表情を暗くさせた。


「……二年前に亡くなりました。盗賊に襲われて」

「盗賊……」


 シーアは力無く笑う。


「ここらへんではよくあることなんです。パパとママは大怪我を負って、そのまま……」


 シーアは目を潤ませる。

 涙を振り払うように、頭をブンブンと振った。


「【万能ポーション】が作れたなら、パパとママを救えたはず……。私もワンダー博士みたいな、凄い錬金術師になりたいです……」


 ワンダーは腕を組み、「うーん」と唸った。

 シーアの望みは、両親みたいな人を救いたい。

──ではなく、両親を〝救いたかった〟だろう。ボクには叶える術がない……。今ボクがすべきことは……。


「ボクが凄い錬金術師なのはこの目のおかげだ」


 ワンダーは金色の瞳の目元に指を当てた。


「……そういえば、ワンダー博士って、左右で目の色が違いますね」

「こっちの金色の瞳は義眼なのだ。と言っても、ちゃんと視力はあるぞう。視神経は繋げてあるからな」


 ふふん、とワンダーは胸を張った。


「これは、《天秤の眼》と言って、ものの価値が一目でわかる目だ。これを錬金するのには苦労したが」

「え。その目も錬金したんですか!?」

「まあね!」


 ワンダーは天井を向くくらい胸を張った。


「錬金術には、生み出すものと同等の対価が必要だ。そのために、素材を煮たり焼いたりして、価値を調整する」

「煮たり焼いたりすると価値が変わるんですか?」

「不思議なことに、それで価値が上がったり、下がったりするんだな。料理だって、一手間加えると美味しくなったりするだろう?」

「そういった工程を吹っ飛ばして錬金するから、ワンダー博士は稀代の錬金術師なのです」


 今度はバニバニが胸を張った。


「この《天秤の眼》を嵌めるために、《《目を抉ったときは》》とんでもない激痛だったが、その分、大きなリターンがあったよ!」

「えっ……。め、目を抉……?」


 シーアの口端がひくりと引き攣る。


「ボクの錬金術(マジック)は簡単に見えたかもしれない。しかし、ボクみたいな錬金術師(マジシャン)に目指したいなら、生半可な覚悟ではいけないぞう」


 シーアは押し黙った。


「存分に悩むと良い、若者よ」


 ワンダーは優しく微笑んだ。


「……でも、悩んでなんていられない。私が、本物の錬金術師にならなきゃ!」

「……シーア嬢?」

「今、私達の村には錬金術師がいるんです。名前はマヤカス」

「ほう! 錬金術は衰退したと聞いたから、錬金術師もいないものだと思っていたが」

「マヤカスの錬金術はインチキです。絶対に。だから、私が錬金術師になって、村のみんなを助けるの……」


 ワンダーは腕を組んだ。

──……どうやら、シーア嬢の真の願いは、両親を救いたかったことではなく、マヤカス氏への敵対心のようだな……。


「明日、マヤカスは村のみんなに錬金術を披露します。マヤカスの錬金術がインチキかどうか、見て貰ったらわかると思います」

「ふぅむ。見てわかるかどうかはちょっと自信がないが……。まあ、今の錬金術がどのようになっているのか興味がある!」


 シーアは頷いた。


「さて」


 オーディンが口を開いた。


「ワンダー博士様。日も落ちてきたことですし、今日は泊まって行かれてはどうですかな?」

「良いのかい!?」

「勿論ですじゃ。ワンダー博士様は命の恩人ですからのう」

「ありがとう! では、お言葉に甘えて、一泊させて貰おう!」

「一泊と言わず、何泊でも!」

「いやあ、それは流石に悪いよ……」


 ワンダーは笑いながら、頬をぽりぽりとかいた。


「古代アルケミアについての話を色々と聞きたいのですじゃ。ですから、暫く泊まっていって欲しくてのう……」

「む……。そういうことなら、暫くお世話になろうかな」


 その返答に、オーディンはニッコリと微笑んだ。

 

「では、まず手始めに……ボクが初めてアルケミアで大流行を生み出した、【四次元袋(アイテムポケット)】のマジックについて話そう!」

「ワンダー博士、オーディン様はアルケミアの生活について聞きたいのですよ」


 バニバニは口を挟む。


「ホホーッ! あの、建物をしまって運んでいたと噂の【四次元袋(アイテムポケット)】ですかな!?」


 オーディンは鼻息を荒くした。


「ああ! 錬金した【四次元袋(アイテムポケット)】を口の中に入れて、トランプとか国旗とかダララララって出すマジックをするのだ!」

「なんで口からトランプと国旗を出すんですかの?」

「それは……何でだ?」

「わかっていないのにやってたんですか?」

「みんな驚くからやってた……」


 ワンダーの言葉はだんだんと小声になっていった。


「晩年は『口からものを出すなんて汚い』と言われて、だんだん披露しなくなりましたね」


 バニバニが呆れたように言う。


「うむむ……。時代の流れが良い方向に向くとは限らない……」


 ワンダーは苦い顔をする。


「……ワンダー博士って、なんかちょっと……ズレてる? 古代アルケミアではこれが普通なのかな?」


 シーアが困ったように笑いながら、小首を傾げた。

 その問いに、バニバニは答える。


「いえ、アルケミアでも『変人』と専らの噂でした」

「ああ、やっぱりそうなんですね……」


 ワンダーは「ふふん」と胸を張る。


「天才と変人は紙一重なのだ」

「真の天才は変人っぷりを隠すのも上手いんですよ」

「じゃあ、次はボクが一世を風靡した【人体消失マジック】の話を──」


 そう言ったところで、ワンダーはテーブルの上に頭を打ちつけた。


「わ、ワンダー博士!?」


 シーアとオーディンは顔を青くさせた。


「まさか、アルケミアでの毒が……!」

「……いえ」


 バニバニは冷静に言う。


「眠ってるだけです」


 ワンダーは口端から涎を垂らしながら、だらしない顔で寝息を立てていた。

 シーアもオーディンもほっと胸を撫で下ろした。


「使ってないベッドがあります。バニバニ様、ご案内しますじゃ」

「お願いします」


 バニバニはワンダーを抱き上げる。

 バニバニの腕の中で、ワンダーは穏やかな表情で笑っていた。

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