表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術はインチキじゃない!  作者: フオツグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/11

ワンダー博士、真実を知る。

「あ、あれです! 私達の住む村!」


 少女が身を乗り出して、前方を指差した。

 ワンダーは前方に目を向ける。


「村……」


 木造の平家が立ち並んでいる。

 一面には畑。

 手動で組み上げる井戸も見える。

──まるで、石器時代の生活だ……。


「凄いわ!」


 少女が目を輝かせながら叫ぶ。


「あそこからここまで、一瞬で着いた! 行くときは三日もかかったのに! 貴方は天才ね!」


 少女の浮かれた様子に、ワンダーは気分を良くした。


「そうだろう、そうだろう! ボクの錬金術(マジック)をお楽しみ頂けたようで、何よりだよ、レディ!」


 ワンダーは少女に笑いかけ、直ぐに前に向き直る。


「さて。二人のおうちは何処だい?」

「あっちです!」


 少女は森の方を指差した。

 村の外れ、森の奥にポツンと平家が建っている。

 そこが二人の家らしい。

 ワンダーはハンドルで上手に車を操り、家の前に魔動車を着陸させる。


「さ、到着だ! レディエンジェントルマン!」


 車のドアが開き、ワンダーは降りるように促す。

 二人は恐る恐る、地面に足をつけた。


「凄かったわ……。夢を見ているみたい……」


 少女は自身の頬に手を当てる。

 少女の頬は、気分が高揚しているせいか、ほんのりと赤い。

 ワンダーは家を見上げて言った。


「ここが二人のおうちかい? 随分と不便なところに住んでいるんだね。村から離れた場所にある」


 その言葉を聞いて、笑顔だった少女と老人の二人は、一瞬にして表情を暗くさせた。


「少し事情がありましてな……。ささ、錬金術師様、どうぞ中へ。何かお礼をさせて下さい。何もありませんがのう……」


 □


 ワンダーは家に招かれ、椅子に座るように促された。

 椅子に座ると、ワンダーとバニバニの前に紅茶が出される。


「自己紹介がまだでしたな。ワシの名前はオーディンですじゃ。こちらは孫娘の……」

「シーアです。助けて頂いてありがとうざいました、錬金術師様!」


 シーアは勢いよく頭を下げる。

 ワンダーは人差し指で頬をぽりぽりとかいた。


「そのお……『錬金術師様』という呼び方はやめてくれないか。少しくすぐったくてね」

「では、何とお呼びすれば?」

「それは勿論!『稀代の錬金術師(マジシャン)ワンダー博士』と!」

「はい。『稀代の錬金術師(マジシャン)ワンダー博士』様」


 オーディンは真顔で言った。


「ほ、ほんの冗談だ。『ワンダー博士』と呼んでくれ」

「はあ……。貴方様がそうおっしゃるなら」


 オーディンは不思議そうに首を傾げ、頷いた。


「ワンダー博士様、あのままあの場所で立ち往生していたら、ワシらは毒に蝕まれ、死んでいたと思いますじゃ……。出会えた幸運に感謝じゃのう」

「ボク達としても幸運だったよ。目覚めたばかりで、右も左もわからない状況だったから。なあ、バニバニ」


 ワンダーは笑顔でバニバニに問う。

 バニバニは頷いた。


「それで……アルケミアが千年前に滅びたというのは、一体どういうことなんだ?」

「大昔の話じゃ……。アルケミアという錬金術で栄えた国がありましてのう。その国は戦争により、滅亡したのですじゃ」


 千年程前、アルケミアは突如、爆撃に遭った。

 独占していた錬金術の技術を奪うべく、結託した国々によって。

 錬金術で生み出された、未知なる毒。

 それを載せたミサイルが数十回、都に落とされた。

 アルケミアは一瞬にして、毒が蔓延する地獄と化した。


「アルケミアが……滅亡……」


 ワンダーは信じられなかった。

 あの大きな国が、戦争で滅亡してしまうなんて。

──しかし、あの光景を見てしまったら……

 シェルターから出た瞬間のことを思い出す。

 人も、ものも、建物も……全てが崩壊していた。


「他国もアルケミアほどではないが、錬金術が発展していたはず。錬金術がインチキと呼ばれるほどまで、衰退するとは思えない」

「ええ、そうですな。ワシはアルケミアがただで滅亡した訳ではないと考えとります。他国へ反撃したに違いない……勿論、錬金術で」


 アルケミアは錬金術で生み出したミサイルで、敵国は一瞬にして消失したのではないか、とオーディンは考えているようだ。

 実際、国があったと見られる地域は、抉られたようなクレーターが出来ているという。

 アルケミアのように、千年も毒に曝されることはなかったが、全てが無になった。


「……恐ろしい」


 ワンダーは身震いする。

 全てを無に帰すミサイルも、それを生み出した挙句、敵国に投下したアルケミアも。

 錬金術をそんなことに使うなんて、信じられなかった。


「アルケミアと並ぶ準錬金国家は錬金術諸共、消失。錬金術の痕跡が残っているとしたら、アルケミアにだけ……。しかし、そのアルケミアは未知なる毒に汚染され、人間が立ち入ることは不可能」


 オーディンはため息をついた。


「今やアルケミアも錬金術も夢物語……。錬金術師を騙る詐欺師が跋扈する時代になってしもうた」

「それで、インチキだと……」

「はい……。ですが、今日、確信しましたぞ。錬金術は存在したのだと!」


 オーディンは興奮して立ち上がる。


「アルケミアは確かにそこにあったのだと!」


 鼻息を荒くして、拳を天に突き上げた。

 ワンダーは興奮するオーディンを見て困惑を隠せない。


「み、ミスター・オーディン? 一体どうしたのだ?」

「ふふ」


 シーアは笑う。


「お爺ちゃんは考古学者でね。古代アルケミア文明について調べていたの。今も、アルケミアを知るために、アルケミアの土地に足を運んでいるんですよ」

「ははあ、なるほど。だから、毒が蔓延しているのにも関わらず、アルケミアの周辺にいたのか」

「アルケミアはロマン! 錬金術もロマンじゃー!」


 オーディンは喜び、叫ぶ。


「もう! 落ち着いて、お爺ちゃん!」


 シーアは呆れたように笑った。


「それにしても、千年も経っていたのか……。確かに、二年の間でここまで衰退するとは思ってなかったが……」


 ワンダーはちらり、とバニバニを見た。

 バニバニは首を横に振る。


「空は灰色の雲に覆われていましたから、バニバニは太陽が昇った回数を数えられませんでした」

「バニバニには時間感覚がないからな……。仕方ない」

「しかし、ワンダー博士が目覚めるのは二年後のはずでは」

「他国では錬金術妨害波の研究も進められていた。ミサイルに搭載されていた妨害波が、ボクの転生術に影響を及ぼし、術の行使が大幅に遅れたのやも……」


 ワンダーは頭を抱える。


「しかし、千年……千年も経っていたなんて!」


 シーアはワンダーの気持ちを察して、悲しそうな顔をする。


「ワンダー博士……。千年前に残してきた家族もいただろうに……」

「ボクは天涯孤独の身だから家族の心配はない」


 ワンダーはけろっとした顔で言う。


「ご、ごめんなさい。無神経なこと言って」


 シーアは慌てて謝った。


「良いんだ。ボクも言ってなかったし」

「会って間もない人に言うことじゃないですよ」

「むむ。そういうものか」


 唐突に、シーアはドン、と胸を叩いた。


「ワンダー博士! 私達に出来ることがあれば、何でも言って下さい! 命を救って頂いたお礼に!」

「お礼なんて、そんなの良いよ。キミたちの驚く顔が見られたからそれで十分さ!」


 きゅるるるる。

 そのとき、ワンダーの腹から音がした。

 ワンダーの腹部に注目が集まり、家の中がしん、と静まり返った。

 ワンダーは頬を指で掻いた。


「……と、言いたいところだが、この通り。お腹が減っていて……。何か食べ物をくれないか? 実は、目覚めてから、何も口にしていなくて……」


 腹が空っぽだったことを思い出すと、ワンダーの体から、どんどん力が抜けていった。


「お腹が減って……もう……動けそうもない……」

「直ぐに用意します!」


 シーアは大急ぎでキッチンへち向かう。


「ワンダー博士、嫌いな食べ物はありますか?」

「ボクは何でも食べるぞう」

「バニバニ様は?」

「バニバニに食事は必要ないぞ。ガイノロイドだからな」

「がいのろいど?」

「機械の人間です」


 バニバニが答える。

 シーアは手を動かしながら、目を輝かせた。


「つまり、人造人間ってこと!?」

「正確には違います。人造人間は元人間ですが、バニバニは一から百まで全て機械です」

「全て機械なの!? 何処からどう見ても人間なのに!? 凄いわ! これも錬金術なの!?」

「勿論! ボクが錬金したんだ!」


 ワンダーはえへん、と胸を張った。


「バニバニは七十年来の相棒でね。人間らしさを学習し、大分冗談を言えるようになって……」

「七十っ……ちょっと待って。ワンダー博士っておいくつ……?」

「わはははは! 年なんて数えるもんじゃないぞう!」


 ワンダーはそう笑って誤魔化した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ