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錬金術はインチキじゃない!  作者: フオツグ


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3/11

ワンダー博士、第一村人を発見する。

 暫く、バニバニに手を引かれるまま、道を進んだ。

 その最中、何度か瓦礫に足を取られて転びそうになった。

 ふと、バニバニが足を止めた。


「どうした、バニバニ。何かあったのか?」


 ワンダーは不思議に思い、バニバニに尋ねた。


「ワンダー博士、生体反応があります」

「えっ」


 ワンダーはパッと目を開けた。

 バニバニの目線の先、老人と子供が立ち止まっていた。


「お、人間(オーディエンス)だー!」


 ワンダーは目を輝かせ、その二人の人間に近づいた。

 二人の横にあるものを見て、ワンダーはぴたりと足を止める。

 二つの車輪の上に乗っている荷車だ。

 荷車には、二本の平行な棒が伸びている。

 あれは(ながえ)だろう。

 轅の前端に(くびき)を渡して、馬か牛に荷車を引かせていたに違いない。


「あれは……もしや馬車!? 絶滅したはずじゃ……」

「絶滅危惧種扱いしないで下さい。地方ではまだまだ現役だと聞きますよ」


 どうやら、一般的な二輪乗用馬車のようだ。

 よくよく見ると、馬車の車輪が一つなくなっている。

 馬車だと言うのに、車体を引っ張る馬も見当たらない。

 あの馬車の持ち主は、毒地帯の中で立ち往生してしまっているようだ。

 馬車の横で、布マスクをつけた老人と少女が、なくなった車輪を探している様子だった。


「……ははーん? わかったぞ」

「彼らは馬車が動かなくて困っているようですね」

「ボクが言おうとしたのに……」


 ワンダーは唇を尖らせる。


「まあ、良い。馬車を動かせば、あの二人は『あっ』と驚くに違いない!」

「恩を売って、相乗りさせて貰って、毒地帯を抜け出すという思考を先にして下さい」

「そんなものは二の次だ! バニバニ! 周囲を探索して何か錬金術(マジック)対価(タネ)になりそうなものを見つけるのだ!」

「はい。ワンダー博士」


 バニバニはやれやれ、と首を振りながらも了承した。


 □


「馬も逃げ、車輪も壊れ……ワシの悪運もここまで、か。すまんのう、孫よ……。こんなところまで付き合わせてしもうて……」


 老人は掠れた声で言う。

 少女は老人を睨みつける。


「お爺ちゃん、諦めちゃ駄目! 今ならまだ間に合うかもしれないでしょ! 歩いて村に戻りましょう!」

「おぬしだけで行くんじゃ。ワシはもう歳じゃ。足手纏いになってしまうじゃろう」

「嫌よ! 絶対嫌! お爺ちゃんを見捨てて、行ける訳ないじゃない!」

「頼む。おぬしまで失ったら、ワシは……」

「──ハーッハッハッハッ!」


 突如、場違いな高笑いが、辺りに響き渡った。


「誰!?」


 少女が周囲をキョロキョロと見回して叫ぶ。


「誰かと聞かれたら答えてあげるのが我が信条……」

「常識では?」


 バニバニが口を挟む。


「しっ! こほん……我が名は稀代の錬金術師、ワンダー博士!」


 突然現れた奇妙奇天烈な格好の少年と女性に、少女と老人は狼狽えた様子を見せる。


「錬金術師……? インチキの?」


 少女は訝しげにワンダーを見る。


「錬金術はインチキではない! 見ておれ! バニバニ! ミュージックスタート!」

「御意」

『ちゃららららら〜ん』


 バニバニのボディからマジックお決まりの音楽が流れ出す。


「な、何? この変な音……」


 ワンダーは語り出す。


「ここに、壊れた一台の馬車が立ち往生しています。これを動かすには、新しい車輪。そして、馬車を引く馬が必要です」

「そりゃそうよ」

「しかし、ここは森の中……車輪も馬も用意出来そうにない! なんてことだ!」

「ちょっと! 馬鹿にしてるの!?」

「しかし、心配はいらない……」


 バッとワンダーはマントを翻す。


「ここに、稀代の錬金術師(マジシャン)ワンダー博士がいるのだから! ……バニバニ!」

「はい」


 ワンダーに呼ばれたバニバニは、大きな荷物を持って来る。

 それを見た少女と老人は「ひっ」と短い悲鳴を上げた。


「そ、それって……」

「そこらへんに落ちていた不発弾さ!」

「危ないじゃないの!」

「心配ご無用! 爆発はしないようにしている!」

「そういう話をしてるんじゃないの!」


 少女は甲高い声で叫ぶ。

 ワンダーとバニバニは馬車に向かっていく。

 ワンダーは馬車に左手を、不発弾に右手を添える。


「さあ! レディエンジェントルマン! 奇跡のカウントダウン! アン、ドゥ……トロワ!」


 ワンダーはとびっきりの笑顔で言った。


「レッツ、錬金術発動(イリュージョン)!」


 ぶわり、と不発弾が光に変わり、馬車を包み込んだ。

 みるみる内に、馬車のシルエットが変わっていき、馬車を包んでいた光が霧散する。

 馬車はピカピカの鉄の塊に変わっていた。

【魔動車】と呼ばれている、魔力で浮遊する車だ。


「……へ?」


 少女と老人はぽかん、と大口を開けて、【魔動車】を見つめている。

 ワンダーはその顔を見て、満足そうに笑った。


「それでは皆さんご唱和下さい……。ワーオ! ワンダホー!」


 ワンダーとバニバニは口に手を当てて、驚くポーズを取る。

 少しの間、静寂が辺りを包む。


「ちょ、ちょっと何これ!? 馬車をどこにやったの!?」


 声を上げたのは少女だった。


「お、おや、【魔動車】を知らない? かなり普及していたずなんだが……。まあ、心配はいらない! これも立派な車だぞう」

「車輪がないじゃないの!」


 ビシリ、と少女が車体の下を指差した。


「これの何処が車だって言うのよ!」

「乗ってみたまえ! ほらほら!」


 ワンダーは少女の背中を押し、車に乗るように促す。


「ちょっと! 押さないでよ! インチキ野郎! 馬車を返してよ!」

「良いから良いから!」


 ワンダーは少女を車の中に押し込んだ。


「バニバニはそこのジェントルのエスコートを頼む!」

「御意。ジェントル、どうぞこちらです」


 バニバニは老人を後部座席に案内した。

 老人は困惑しながらもバニバニに従った。

 運転席にワンダー、助手席に少女、後部座席にはバニバニと老人が座る。


「よし。皆シートベルトは締めたかな?」

「何よ、〝しーとべると〟? って」

「これだよ! ……うん。ちゃんと締まってるね! 空路交通法に違反すると、ボクのゴールド免許がブルーになるからね!」


 ワンダーは後部座席の方を見る。


「後ろはどう?」

「後部座席はオーケーです」


 バニバニと老人がシートベルトをしている確認すると、ワンダーは頷いて、前方を見た。


「よおし。じゃあ、行くぞう。レッツ……発進(ゴー)!」


 ふわりと車体が浮いた。

 少女は地面がどんどん離れて行くのを見て、目を丸くした。


「はえ……! う、嘘。私達、浮いてる〜!?」

「わっはっはっは! 良い反応だなあ!」


 ワンダーは気分が良くなり、車を宙返りさせた。


「本物じゃ……。本物の錬金術師様じゃあぁぁぁ……!」


 老人は感極まって涙を流した。


「【空飛ぶ車】……千年前に滅んだ錬金国家アルケミアに存在したと言われておる……幻の錬金物……!」

「嘘……。じゃあ、彼は本当の……錬金術師……!?」


 少女は目を見開いて、ワンダーの横顔を見た。


「ちょ、ちょっと待て、ジェントル……」


 ワンダーは慌てて話し出す。


「アルケミアが……〝千年前〟に滅んだ、だって!?」

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