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錬金術はインチキじゃない!  作者: フオツグ


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2/11

ワンダー博士、目覚める。

 生命維持装置の蓋が開く音で、ワンダーは目を覚ました。


「……ふー。やっと終わったか。長い夢を見ているようだったぞう」


 ワンダーは体を起こす。

 ぐぐ、と腕を上げて、背伸びをする。

 ぎちぎち、とおよそ人の体から出てはいけない音が出た。

 ワンダーはゆっくりと床に足をつけた。

 ビリビリと足が痺れる感覚がする。


「さあて、結果はどうなったか……」


 フラフラとした足取りで、ワンダーはシェルターに備え付けられていた鏡まで歩いた。

 ワンダーは鏡の中を覗き込む。

 そこに映ったのは若々しい少年。

 水色と黄色のくりくりとした大きな瞳。

 パーマがかかっているようなくるくると真っ白の髪。


「おお……!」


 ワンダーは目を輝かせた。


「大成功だ!」


 ワンダーは喜んでぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 しかし、直ぐに息が上がり、床に座り込んだ。


「はあはあ……。新しい体に慣れていないのに、はしゃぎ過ぎてしまったな……」


 しかし、直ぐに立ち上がった。


「早くみんなの驚く顔が見たいぞう! バニバニ! 早速出かける準備を──」


 鍵を開け、ワンダーはシェルターから飛び出した。

 一番に目に入ったのは研究所の中ではなく、灰色の空であった。


「──……へ?」


 ワンダーは呆然と立ち尽くした。

 ワンダーの住んでいた研究所はなくなっていた。

 それどころか、錬金術で発展していた街すらない。


「ど、ど、ど、どういうことだ!? 研究所が……否! 街が! 丸ごとない!」


 混乱で、ワンダーの目に涙が溢れ出る。


「ワンダー、博士」


 名前を呼ばれて、ハッと横を向く。


「ば、バニバニ!?」


 シェルターの入り口の横で、バニバニが横たわっていた。

 足は捥げ、肌色の塗装は剥がれ落ちている。


「どうしたんだ! こんなにボロボロになって……!」

「申し訳、ありませ。家を守る、という、言いつけ、守れませんでした」

「そんなことはどうでも良い! 一体、何があったんだ!?」

「ワンダー博士が、シェルターに篭ってから、戦争が、起こりました」

「戦……争……!? なんて、愚かな……」


 ワンダーは苦虫を噛み潰したような顔をする。

──戦争は嫌いだ。一瞬で、人々から笑顔を奪う。


「街は、爆撃され、毒に、汚染されました。それ以来、人の姿、は、見えなく、なりました」

「人が住めなくなるほどの……汚染……」


 こうしている間にも、ワンダーの体は毒に蝕まれているのだろう。

 ワンダーは自分の口に手を当てた。

──確かに、少し息苦しいような……。


「ワンダー、博士。早く、街から、出て下さい。毒に、侵される前に」

「バニバニ……」

「貴方の、錬金術、ならば、きっと、生き、られ、ます。だから、早く」


 ワンダーは項垂れるように頷いた。


「……わかった」


 ワンダーはシェルターの扉に手を添えた。


「ワンダー、博士、一体、何を」

錬金術(マジック)には対価(タネ)が必要だ。このシェルターを対価にキミを直す」

「バニバニの、ことは、良いの、です。シェルターを、他のことに、使って、下さい」

「ええい、うるさいうるさい! 黙っておれ! 助手のいない錬金術師(マジシャン)など、羽をもがれたペガサスに同じ! 奇跡のカウントダウン! アン、ドゥ、トロワ!」


 ワンダーは唾を飛ばしながら叫ぶ。


「──レッツ、錬金術発動(イリュージョン)!」


 シェルターが消え、光となり、その光がバニバニに覆い被さる。

 光が霧散すると、バニバニの故障は全てなかったことになっていた。

 バニバニは手のひらを見つめる。


「バニバニ、ボクにはキミを置いて街を出ることなんて出来ない」

「ワンダー博士、貴方は大馬鹿です」

「大馬鹿だとう!?」

「バニバニなんて直さずに、酸素マスクを錬金すれば良かったのです」


 そう言われて、ワンダーは目を伏せた。


「バニバニがいなくなったら、ボクは一人ぼっちになってしまう」


 ワンダーはべそべそと泣いた。


「ボクを一人にしないでくれ……」


 バニバニはワンダーの頭に手を伸ばした。

 ワンダーの髪の毛を指で梳く。


「ワンダー博士は泣き虫ですね」


 □


 暫くの間、ワンダーは泣き叫んでいた。

 泣く声が小さくなったのを確認して、バニバニが言った。


「早く、この毒地帯から脱出しましょう。博士の身体が持ちません」

「グスッ。そうだな……。車があれば早いんだけど」

「博士の愛車『タマ』は吹き飛びましたよ」

「うっ。『タマ』……大事にしてたのに……」


 ワンダーの愛車『タマ』は魔力で動く、空を飛ぶ車のことだ。

 錬金国家アルケミアでは一般的な代物であり、頻繁に空を飛び回っていた。


「何か、錬金術(マジック)対価(タネ)になりそうなものを探す他ないな」

「その前にガスマスクを錬金しましょう。蔓延している毒が人体にどのような影響を与えるかわかりません。なるべく、吸い込まない方が良いでしょう」

「そうだな。……おっ?」


 ワンダーの目についたのは、横転している小型のロボットだ。


「敵国の偵察機か? 動けなくなっているな」


 ワンダーは偵察機に触れようとしゃがみ込む。


「見捨てられたんだな。可哀想に」


 ここは毒が蔓延している。

 毒地帯で横転した偵察機など、余程高価な部品を使っていなければ、回収されることはない。


「よし、決めた! キミはガスマスクに生まれ変わって、ボク達と一緒に、この街から出るのだ!」


 ワンダーは偵察機に手を添える。


「レッツ、錬金術(イリュージョン)!」


 偵察機は光に包まれ、ガスマスクに作り変わる。

 ワンダーはガスマスクを顔に装着する。


「これで安心して歩けるな!」

「毒地帯を抜けたら、解毒剤を錬金して下さい。体にどんな影響が出るかわかりません」

「わかってるさ! ……それにしても、亡骸一つないとは」


 ワンダーは周囲を見渡す。

 一帯は倒壊した建物しかない。

 爆撃によって、人は肉片一つ残さず殺されたのだろうか。


「皆が無事、逃げ仰せたと願いたいが……」


──しかし、それはあまりにも希望的観測だろう……。

 ワンダーとバニバニは、毒地帯を抜けるために足を進める。


「ひえっ……」


 地面に広がる、真っ黒い跡に、ワンダーは悲鳴を上げる。


「血液の跡だ……。なんて恐ろしい……。バニバニ、ボクは目を瞑ってるから、手を引いて導いてくれ……」


 この様子だと、何処に亡骸が転がっていてもおかしくはない。


「死体が残ってるとは思えませんが。それに、死体は動き出したりしませんよ」

「死んでるから怖いんだッ! ……街を抜けたら合図してくれ」


 ワンダーの言葉がどんどん小さくなる。

 ぐ、とバニバニの手を強く握った。


「ビビリなのは転生しても変わりませんね」

「当たり前だ。死とは悲鳴と悲観の象徴。ボクが最も嫌いなものだ」

「そうでしたね」


 バニバニはワンダーの手を引いた。


「足元に気をつけて下さい、ワンダー博士」

「……ああ」

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