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錬金術はインチキじゃない!  作者: フオツグ


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10/11

ワンダー博士、悪人を退治する。

「裏切り者が……!」


 マヤカスが歯噛みし、そう吐き捨てる。

 マヤカスが人だかりの一番後ろにいる男に向かって叫んだ。


「やれ!」


 男は頷き、ナイフの刃を抜いた。

 そして、その刃を、アマリとリリスの母親の首に突き立てた。


「きゃあああああ!」


 悲鳴が上がる。

 ワンダー達はその悲鳴で事件に気づいた。

 アマリとリリスの母親が首から血を流し、その場に倒れていた。


「ママ!」


 ステージ上で、アマリとリリスが顔を真っ青にさせた。


「バニバニ! 犯人を捕縛してくれ! ボクはレディの治療にあたる!」

「御意」


 バニバニは地面を強く蹴り、高く跳躍する。

 人だかりの上を飛び、母親の近くで着地する。


「ばっ、化け物っ……!」

「化け物ではありません。ガイノロイドです」


 犯人がバニバニに背を向けて走り出した。


「バニバニから逃げられるとでも?」


 バニバニはもう一度地面を蹴り、犯人に飛びかかった。


「ひっ……ひいーっ!」


 ワンダーはというと、大急ぎで大釜に入った【万能ポーション】をカップに掬っていた。

 なるべく中身をこぼさないように、手でカップに蓋をしながら、双子の母に駆け寄った。

 ワンダーは双子の母にまだ息があることを確認する。


「……まだ息はあるな。レディ、【万能ポーション】だ。失礼する」


 ワンダーは傷口に【万能ポーション】をかけた。

 すると、首の傷が、みるみるうちに塞がっていく。


「奇跡だ……」


 それを見ていた村人の誰かが呟く。


「深い傷が一瞬で消えたぞ!」

「これって現実なの!?」

「私、夢でも見ているのかしら……?」


 村人達は口々に目の前で起きたことが理解出来ず、「信じられない」と口にした。


「マヤカス様の起こした奇跡とは何だったんだ……?」

「こんな奇跡に比べたら、マヤカス様の奇跡なんてマヤカシではないか」

「ワンダーとかいう奴が、本物の錬金術師だろう」

「じゃあ、今までの我々が信じていたマヤカス様は……」


 一部の村人がマヤカスに疑惑を向ける。

 アマリは意を決して言う。


「……私、マヤカスに脅されたんです。『錬金術対決で絶対に立つな。約束を守れなかったら、ママを殺す』って」


 続いてアマリの双子の妹・リリスが言う。


「私達が賊に襲われたってのも嘘! 私を歩けなくしたのは、そこのマヤカスなの!」

「なっ……!」

「インチキなのは、そっちの方!」


 アマリとリリスはびしり、とマヤカスを指差した。

 マヤカスは顔を真っ赤にして、ぷるぷると震える。


「き、貴様らァ……!」


 マヤカスがアマリとリリスに掴みかかろうと、手を伸ばす。

 間に、シーア含む村人達が立ちはだかった。

 村人達は非難の目をマヤカスに向ける。


「なんだ、その目は! 貴様らには、良い夢見せてやっただろう!」


 マヤカスは村人達を指差した。


「俺を信じると決めたのも、貢ぎ物を渡したのも、悪事に手を染めたのも! 貴様らの責任だ! 騙される方が悪いんだ!」

「何言ってるのよ! 騙す方が悪いに決まってるじゃない!」


 マヤカスは鬼の形相でシーアを睨みつける。


「うるさい! うるさいうるさい! 貴様ら馬鹿は、この俺に『はいはい』言って、従ってりゃあ良いんだよ!」


 マヤカスはバッと片手を広げる。


「そこを退け! 馬鹿共が!」

「逃げられると思ってるの?」


 シーア含む村人達がマヤカスを囲む。


「田舎の連帯、舐めないでよね!」


 皆が憤怒の表情を浮かべていた。


「──さあさ、喝采を!」


 ワンダーが空気を破るように、明るい調子で叫んだ。

 村人達は驚いて、ワンダーを見る。


「ここにいるのは、稀代の大嘘つき。そして?」


 ワンダーはバニバニに目を向ける。


「ワンダー博士、実行犯を捕縛しました」

「ナイスタイミングだ、バニバニ! ……そして、大嘘つきの狂信者だ。バニバニ、彼らを井戸の中に落とすんだ」

「御意」


 バニバニは二人を井戸に投げ入れた。

 どぼん、どぼん、と井戸に二人の人間が落ちた音がした。

 マヤカスが井戸の自ら顔を上げる。


「ぷはあっ! な、何をする!?」

「これから皆さんには【人体消失マジック】をお見せしよう……」

「人体……消失?」


 マヤカス含む悪人二人は顔を青くさせる。


「嘘だ……。そ、そんなの、出来る訳ない……!」

「簡単だぞう? 万病に効く薬を作るより、体を跡形もなく消す方が、な」


 ワンダーはニッコリと笑う。

 マヤカスにはその笑顔が恐ろしく見えた。


「ひっ……」


 マヤカスと狂信者がサッと顔を青くさせた。

 ワンダーは二人を見下ろし、バッと両手を広げた。


「さあ、皆さん、奇跡までのカウントダウン! アン……」

「やめろ……」

「ドゥ……」

「やめてくれえ!」

「トロワ!」


 パチン。

 ワンダーが手を叩くと、マヤカス達の命乞いをする声は全く聞こえなくなった。


「マヤカス……?」


 村人達が恐る恐る井戸を覗き込んだ。

 井戸の底には誰もいない。

 ただ、井戸の水だけがそこにあった。

 村人達は青ざめる。

 本当に、人間が消失したのだ、と。


「さあ、皆さんご唱和下さい──」


 ワンダーは高笑いする。


「ワーオ、ワンダホー!」

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