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錬金術はインチキじゃない!  作者: フオツグ


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1/11

ワンダー博士、転生す。

「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! ワンダー博士の錬金術(マジック)ショーが始まるよー!」


 道の往来で、白髭を蓄えた老人が色とりどりの風船を飛ばしながら声高に叫んでいる。

 老人は自称『ワンダー博士』。

 ワンダーはシルクハットを被り、タキシードをピシッと着こなし、ヒラヒラとマントをはためかせている。

 ほとんどの人間はワンダーに目もくれず、早足で通り過ぎた。

 仕事で忙しい現代人だ。

 他人にかまっている暇はないのだろう。

 ストリートパフォーマンスをして身銭を稼ぐ物珍しい現代人に、一人の少年が足を止めた。

 それを見たワンダーは大いに喜んだ。


「今回披露するのは人体切断マジック!」


 ワンダーは腕と足の付け根、首にリングを嵌める。


「それでは、奇跡までのカウントダウン! アン、ドゥ、トロワ! レッツ錬金術(イリュージョン!)


 リングを嵌めた部分から、胴体と四肢、頭が離れた。

 離れた部位は宙を舞い、くるくると楽しげに揺れている。


「それでは皆さん、ご唱和下さい! ワーオ、ワンダホー!」


 ワンダーは手のひらを口に当てて、驚くポーズをする。


「どう? びっくりした? びっくりしたでしょう?」


 ワンダーは期待に満ちた目を少年に向けた。


「でも、それって、錬金術でしょ?」


 少年は呆れたように言う。


「え……。錬金術だけど……凄くない?」

「錬金術なんだから、それくらい出来て当たり前でしょ。つまんないの」


 そう言って、たった一人の観客は去った。

 時代遅れのマジシャンだけがそこに取り残された。


 □


 ここは錬金術で栄えた国、アルケミア。

 ありとあらゆる物事が錬金術で解決し、全ての人間が錬金術を学ぶ。

 自称『ワンダー博士』も錬金術師の一人だった。


「ぐぬぬー! 錬金術(マジック)で誰も驚かない時代がくるなんて!」


 ワンダーは悔しさで歯噛みした。

 都の隅っこに建つ小さな研究所。

『ワンダー博士のワクワク研究所(ワンダーランド)』と看板が掲げられたそこは、ワンダーの住居も兼任している。


「錬金術を披露し過ぎましたね、ワンダー博士」


 バニーガール衣装の兎耳のバニバニが呟く。

 バニバニは錬金術で作られたガイノロイドだ。

 ワンダー曰く、『マジシャンの助手はバニーガールだと相場が決まっている』ため、ウサ耳がつけられた。


 錬金術がここまで発展したのは、ワンダーのおかげでもあった。

 ワンダーは昔から人を驚かせるのが大好きだった。

 人々を驚かせるために選んだ手段が、錬金術であった。

 昔は周りの人に「錬金術なんて底が知れている」と言われて馬鹿にされたが、錬金術の研究を止めることはなかった。

 ワンダーの錬金術(マジック)が話題を呼び、若者の関心を呼んで、錬金術師を目指す者が爆発的に増えたのだ。

 錬金術が発展し、アルケミアは『錬金術師の国』と呼ばれるようになった。

 錬金術が当たり前になった世界で、もっと

人々を驚かせるため、ワンダーは日夜錬金術の研究に励んでいるのである。


「ワンダー博士、兵器の作成依頼が国から来ていますよ。報酬もたんまり」

「駄目だ駄目だ! 錬金術は驚き(サプラーイズ)感動(エモーション)! 笑顔になるもの! 悲鳴と悲観は絶対駄目なんだ!」

「しかし、ワンダー博士はもうご高齢。限界があるのでは?」

「フフン。そうだろう? この歳になるまで封印していた、とっておきの錬金術(マジック)……披露するときがきたようだな」

「はあ……」


 パチン、とワンダーは指を鳴らす。


「その名も、若返りマジックだ! ヨボヨボの今にも死にそうな爺さんが、ピッチピッチの子供に若返る! みんな驚くぞう!」

「確かに、若返りは不老不死に通ずるもの……誰も成し遂げていない偉業です。ワンダー博士はそれが出来ると?」

「チ、チ、チ」


 ワンダーは人差し指を立て、左右に振る。


「若返りに見せると言うだけだよ。この錬金術(マジック)のタネはズバリ!」


 ワンダーはもう一度パチン、と指を鳴らし、バニバニを指差した。


「〝転生〟だ」


 転生。

 新しい体に生まれ変わることだ。

 ワンダーの言う〝転生〟は、自分に意識を新しい体に移すことだ。


「老いによる肉体の限界を感じていたことだしな。一丁、転生してみようと思ってたのだ!」

「転生……。まさか、ワンダー博士。人様の子供の体を奪うおつもりで?」

「そ、そんなことする訳なかろう! 転生する体は錬金してある! ほら、この通り!」


 そう言って、ワンダーは巨大な冷凍庫の中から子供の体を取り出した。

 その体は、どう考えても成長期前の少年だ。


「転生体にはその人物の願望が反映される……つまり、博士はショタコンですか」

「失礼な。子供は好きだが、ボクはショタコンでもロリコンでもない!」


 ワンダーは怒った。


「この体はボクが十歳の頃を再現したものだ。折角若返るなら、ここまで若返らないとな!」

「はあ。そうですか」


 バニバニは適当に返事をした。


「あとはボクの意識をこの体に移すだけ。意識移行にはニ年ばかり時間はかかるが、寝ていたら一瞬だろう」


 ワンダーは転生体を担ぎ上げ、地下にあるシェルターへと向かった。

 

「バニバニ! ボクは暫く地下のシェルターに籠る! 少しの間、キミに寂しい思いをさせるが、研究所のことをよろしく頼むぞ!」

「バニバニにお任せ下さい。お休みなさいませ、ワンダー博士」

「ああ! 二年後にまた会おう!」


 ワンダーはバニバニに別れを告げ、シェルターの扉を閉める。

 そして、厳重に鍵をかけた。

 転生術を行使している最中、ワンダーは何をしても目覚めることはない。

 つまり、身を守る術がなくなるのだ。

 このシェルターはワンダーが軍の依頼で錬金したもので、物理攻撃はほぼ効かない。

 兵器の錬金は断るが、人々の笑顔を守るためのものならいくらでも錬金した。

 シェルターの普及はそれほど進んでいないが、いつか全世帯の下に作られることだろう。


「転生体を生命維持装置に入れて……っと。ボクも生命維持装置に入らなければ」


 ワンダーは転生体を生命維持装置に繋げた。

 この生命維持装置もワンダーが錬金した代物だ。

 中に入り、魔力を注入し続ければ、生命を維持することが出来る。

 これを地熱エネルギーから魔力を発生させる発魔機に繋ぐことで、半永久的に生命を維持出来るのだ。

 ちなみに、この発魔機もワンダーが錬金したもので、国に技術提供してある。

 転生体とワンダーの入る生命維持装置には、意識転送のための細工がしてある。

 ワンダーは生命維持装置の中で横になり、蓋を閉める。


「一人で眠るのは少し寂しいな……。しかし、それはこれっきりだ! 早く始めよう……」


 転生開始のスイッチを押す。

 意識が沈んでいき、ワンダーは眠りにつく。

 次に目が覚めたときの、皆の驚愕した顔を想像しながら。

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