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百年の恋も冷めると言うもの

お暇なときに。

ゆるふわっふわ設定です。

追記:5/14 [日間] 異世界転生/転移〔恋愛〕ランキング2位 ありがとうございます。

お読み下さいました皆様に感謝申し上げます。

ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい

どうしよう、どうしたら、どうすればいいんだー!!!


私は気がついてしまった

この世界がWeb小説の中の世界

そして、私自身はヒロインでも悪役令嬢でもない名もないモブ令嬢4位の立ち位置ということに。


今日は第二王子殿下が目下絶賛溺愛している、ドロセア嬢を階段から突き落とすという、とても尋常じゃないミッションを上の方から指示され、モブ令嬢暫定4位の私がその不名誉な実行犯に指名された。


できるわけない、だって怪我させちゃうし。下手したら、彼女の命も危ない。

ましてや、彼女の周りにはエドワード王子殿下はじめ、宰相の息子マルクス様や騎士団長の息子リューク様がいつも取り巻いている。


私なぞ、近寄ることもままならない。

それなのに、どうやって階段から突き落とすというのだ!


実行指示をしてきた上に尋ねると、

「そんなことはご自分でお考え遊ばせ。このままでは、パトリシア様は殿下のエスコートもなく卒業パーティーへ一人で向かわねばならないのですよ。忌々しい男爵の妾腹令嬢が公爵令嬢の婚約者であるパトリシア様を押し退けて、殿下のエスコートを受けるなんて、前代未聞ですわ。なんとしても、パーティーに出れないように怪我をさせなさい!」


そんな無茶苦茶なオーダーを出す、ブラック上司、いやブラック令嬢(上)に言われるまま、ノープランで王子一行と一緒にいるドロセア嬢に近づいたは良いものの、動揺し過ぎて、彼女の背中を押す前に自分の右足が左足に引っ掛かり、躓いて階段へとダイブする所を、リューク様が手を引っ張って助けてくれたのは良いけれどその力が強すぎて階段の手摺に頭をひどくぶつけて気を失ってしまった。


気を失っているその時、私の頭の中では前世の日本で愛読していたWeb小説「ドロシーと10人の夫」という平民の母を持つ男爵令嬢が、王子始め次々にイケメンの夫に愛されていく恋愛遍歴を書いた小説の世界をハッキリと思い出していた。


題にあるように、ドロシーは10回結婚する。


結婚離婚、離別結婚、時に拐われ助け出され、記憶を失い助けられ結婚(重婚)など、とにかくありとあらゆる状況にも負けずイケメンと恋をし結婚する。


そういうファンタジーだ。

倫理観?ナニそれ美味しいの?

そんな話である、ファンタジーだから。


そして、初期の学園編で出会う運命の人(一人目)がエドワード第二王子である。

そう、私は今そのファンタジーの世界の住人なのだ、名前はない、とある子爵家の娘と書かれるモブだ!


ここは、貴族令息令嬢が社交練習場と交流をするために通う貴族学園。

貴族の子弟は15歳から三年間学園に通うことが義務つけられている。

そこへ、三年の半ばに跡継ぎの問題でダフ男爵家の妾腹の娘が編入してくるのだ。


よくあるテンプレの如く、淑女らしくないドロシーに周りの男子生徒が惹かれていき、それは王子までになる。


惹かれて行く王子の愛を邪魔するのが婚約者のパトリシア様。

長らく婚約者として過ごしていたのに、裏切られたと思った彼女はドロシーに数々の嫌がらせをし、それを理由に卒業パーティーで婚約破棄からの、お家断絶までの壮絶な転落を経験するのだ。


そして私の思考は、冒頭のヤバいヤバいへと戻るのである。


この際、なぜWeb小説の世界に私がいるのか、とか、前世の私はどうなったのか、とか、そういう時間を食うことは考えていられない、なんせ非常事態だ。


時間が無いのである。


明後日のパーティーで公爵令嬢のパトリシア様が断罪され、連座で自分も断罪されてしまう。

もちろん自分に指示を出したブラック令嬢も当然連座だ。


パトリシア様の公爵家は寄親、私の子爵家は寄子、ブラック令嬢の伯爵家も寄子、今回の件でハミルトン公爵家に連なる一族はみな落ちぶれてしまうのだ。


こうしては居られないと起き上がり医務室から出ると、もう他の生徒は帰った後だった。


えー、どのくらい寝ていたのか!

と頭を抱える時間も勿体ない。


非常識極まりないが、とにかく時間がないのだ。

ハミルトン公爵家へと、先触れも出さず下位貴族の私が決死の突撃をするのだった。


私は公爵家の応接間で、土下座をして待っていた。

記憶を思い出した私には、《日本の伝統 土下座》で、この急な来訪という非礼とこれからの奇々怪々な話を許してもらうべく望む所存。


「・・・マーガレット様、ナニをなさってるのかしら?」

侍女を引き連れたパトリシア様が、淑女の手本と言われているパトリシア様が困惑の声で聞く。


「パトリシア様、これは東方の国での最上級の謝罪を表す《土下座》というものです。この度の非礼をお詫び申し上げます。」


「それは、ナニを指すのかしら?」


「先触れもない急な来訪と、今から聞いていただく奇々怪々な話について、です。」


「なるほど。では、それを了承しますから、どうぞ席へついて下さい。いつも控えめで慎重なあなたがこうして()()()()()までして話さなければならないことがあるのでしょう?どうぞ、お席へお座り下さいな。」


そういうパトリシア様の言葉に甘えて、公爵家の応接室のソファへと腰をかけ、そして、私は話した。


全てを。


Web小説ということの説明は難しいので、物語と変更したが、自分が前世で東方の島国で生活していて、その時に読んでいた話だという、簡単には()()()()()()()()を話した。


「なるほど。だから、東方の謝罪スタイルの土下座をしてみせたのですのね?」

全ての話が終わるまで、決して口を開かなかったパトリシア様が始めに言ったのが土下座のことだった。


「あ、まあ、そうです。最上級の謝罪スタイルですから。」

私も否定するのもおかしいので、話を合わせる。


「で、先程の話ですけど、わたくしドロセア様に嫌がらせなどしておりませんけど、どういうことかしら?」


「それは、寄子の伯爵令嬢から指示が来まして、パトリシア様のためにということで、ドロセア様の教科書を破いたり、荷物を池へ捨てたりと色々されていたことだと思いますが。階段から突き落とすことはわたくしが失敗してしまって出来なかったのですが。」


「まあ、今日のあなたが転んだのはそういうこと!そうそう、頭は大丈夫なの!?ひどくぶつけて居たでしょ?わたくしはそのことを話しに立ち寄ったのかと思ったのよ。」

そう言うと、パトリシア様は私の前髪を持ち上げて、青く痣になって膨らんだたん瘤をみた。


「まあ、こんなに腫れてしまって。すぐに冷やしなさい、持ってきて。」

そういうと、後ろに控えている侍女に指示を出した。


「ありがとうございます。でも、こんなのは大したことではありません。卒業パーティーまで時間が無いのですもの、何とかしないと。」

焦ってそういう私に、パトリシア様は不思議そうな顔を向けて、


「まあ、どうして?」

と、言った。


「だって、断罪されて、ハミルトン公爵家とそれに連なる全ての家門が落ちぶれてしまうのです。」

格上の令嬢に言い返すなどマナー違反この上無いが、非常事態である。許して欲しい。


「それなんですけど、おかしな話なのよ。前提として、わたくしは嫌がらせの指示などしていないわ。きっとメアリー様辺りが気を使ってくれたのでしょうけど、なぜドロセア様に嫌がらせをするのか、理解できないわ。」

なんで?なんで?と目で問うパトリシア様に、


「それはエドワード殿下のご寵愛がドロセア様に移ったからだと、仰ってましたが。」

本人に言うのも気まずいが、そう告げた。


「それが、可笑しいのよ。別にわたくし、エドワード様の寵愛など元から無いわ。

それに欲しいとも思ったことも無いし。

だって、わたくしの祖母は元王女で、父と国王陛下は従兄弟、エドワード様とは又従兄妹でしょ?

婿入り先に丁度良いから決められただけ。

政略結婚にもならないわ、我が家のメリットがなにも無いもの。

自身で公爵位を賜ればいいのだけれど、お勉強嫌いな遊び人のエドワード様では領民が可哀想だと言うことで押し付けられただけの、お荷物だわ。

ドロセア様は嫡女なのだから、ちょっと格は落ちるけれどエドワード様が婿入りして男爵家を継がれたら良いのではないかしら?って父ともよく話しているのよ。」


え?お荷物?


「だいたい、本当に排除したいのなら、そんな教科書を捨てるのではなくて男爵家を無くせば良いのでは?」


パトリシア様はなんとも無い様子で、いとも簡単に言った。


「家を潰す、と、いうことですか。」


「そうよ、あ、物の例えよ。実際はエドワード様の婿入り先が無くなってしまうから潰さないわよ。」

フフフと小さく可愛らしく笑って、パトリシア様が答えた。


そうか、公爵家の力ってそう言うものだものなー


私は遠い目をして、目の前の西洋人形のような美しい顔をみた。


「まだ不思議なことがあるわ、なぜ嫌がらせをしたとして、私が断罪されて公爵家とそれに連なる家門まで落ちぶれてしまうの?王子とはいえ、未成人の第二王子にそんな力は無いわ。そこが大切だと思うの、よく思い出してみて。」


え?そう言えばそうだ。

ここは王国とはいえ、法律もあり司法もある。

どうしてだっけ?


「だいたい『ドロシーと10人の夫』という位だからエドワード様の後に9人の夫が居るのでしょ?エドワード様は離縁されるの?死別?次の夫は誰なの?」


パトリシア様が楽しそうに聞いてくる。

ちょっと待ってくださいね、今思い出します。


「あれ?えっとエドワード様は死別ですね。死因ははっきりしません。あと二番目の夫は宰相の息子のマルクス様でした。ちなみに、三番目の夫は西国のスルタンの側近で、四番目の夫は奴隷商の商人、五番目の夫は騎士団長に成り上がっているリューク様です。囚われたドロシーを果敢に助け出すのです。」


「なるほど、そう言うことなのね。分かりやすいわ。ちなみに最後の夫は誰なの?」

パトリシア様がワクワクした様子で質問してくる。


「生まれ育った下町の幼馴染みの男が、ボロボロになったドロシーを保護して愛を囁くのです。ずっとお前が好きだった、って。それで愛は地位や名誉ではなくてこんな身近な所にあったんだ、遠回りしてしまってゴメンねって抱きついて、ハッピーエンドです。」

私がそういうと、


「まあ、そうなのね。では最初からソコと結ばれれば問題無いわね。でもそうしたらエドワード様の婿入り先が無くなってしまうわね、困ったわ。フフフ、まあそれはこちらで考えましょう。マーガレット様、本当に貴重なお話をありがとう。とても有意義でしたわ。」


パトリシア様の笑顔が今日一番の美しさであった。



「パトリシア、パトリシア・ハミルトン!お前の横暴な態度にはほとほと愛想が尽きた。今日この時を以て、お前との婚約を破棄する!」


ビシッと指を差してエドワード殿下が卒業パーティーの会場でドロセア様を腕にぶら下げながら、大きな声で叫ぶ。


しかし、パトリシア様は出てこない。返事もない。


「どこに隠れている、パトリシア!この期に及んで卑怯だぞ、前に出てこい。」

また叫ぶが、パトリシア様は見当たらない。


そう、パトリシア様は卒業式も卒業パーティーも欠席しているのだ。


「なぜ断罪?(笑)されるとわかっていて、不愉快な場に行かねばならないの?」

そう言って優雅に微笑んでいたパトリシア様の笑顔が脳裏に浮かびます。


周りの誰もパトリシア様が欠席していることをエドワード殿下に教えない。

まあ下位貴族から王族へと話しかけるなんて礼儀知らずだし、そんな人は居ない。

貴族学園は社交の練習の場なのだ。


「そこまでだ、エドワード。一同を捕らえよ。」

そこへ王太子殿下が騎士団を率いて乱入してきた。


「あ、兄上!なんだ、離せ。なんですか、これは!止めろ、不敬だぞ!」

騒ぐエドワード殿下に向かって王太子殿下が、


「エドワード、お前に捕縛命令が出ている。お前と、側近、そしてその腕の女だ。」

というと、王子と側近二人とドロセア様が捕まえられた。


「な、なんです!?それは。何を言っているんですか。」

「いいから静かにしろ!騒がせてすまぬな。皆のもの、パーティーを続けよ。」


王太子は四人と騎士団を連れて颯爽と帰っていった。



パーティーが盛り上がりに欠けたものの無事に終わると、公爵家の馬車が待っていた。


「お嬢様がお待ちです。どうぞ、お乗りください。」

深々と頭を下げて迎えてくれる、パトリシア様付きの侍女に促されその馬車に乗ると、公爵家へと連れていかれた。


「マーガレット様、お待ちしておりましたわ。」

そこには楽しそうな顔をしたパトリシア様がお茶会の用意をして待っていてくれた。


「どういうことでしょうか?」

恐る恐る聞くと、


「ええ、この前のあなたのお話の続きをしたくって、待ってたのよ。」

パトリシア様がそう答えた。


ドロセア様の父親の男爵は西国のスパイだった。

スパイに知らないうちに仕立てあげられたという方が正確か。

マルクス様の父親の宰相は王国の西側の領地を治めている侯爵だが、その土地は広大なだけであまり優良な資源があるわけではなく、しかも西国からの侵略に備えなければいけないので金がかかる。

だからいつも金が無い。

そんな宰相の悩みに付け込んで、西国が声をかけてきたのだそうだ。


「あのハミルトン公爵家の土地を奪えばいい。そして王族を倒してお前が統治したらどうだ」

と。西国が支援しようと。


そのやり取りをする伝令係にドロセア様の父が図らずも任命されてしまった。

元々は商人として西国と行き来があったから。そして、男爵の妻が西国人だったから。

王族と公爵家、寄子の貴族を離反させるのにハニートラップを仕掛けるよう宰相に指示され、忘れていた妾腹の娘ドロシーを養女にして貴族学園へと入れた。本妻の子だと、西国との付き合いがバレるかもしれないからと。


ドロセア様はとにかく王子と仲良くなるようにと言われて、学園に入れられたので、言いつけ通りに振る舞った。そのサポートはもちろんマルクス様が宰相の指示通りに抜かりなく行い、あっという間にエドワード殿下はドロセア様に夢中になった!


そして、パトリシア様の悪事を大々的に発表して婚約破棄をし、公爵家の力を削ぎ、その最中に西国と宰相家でクーデターを起こす手筈だった。


ちなみに、エドワード殿下の飲み物に毒を入れて毒殺し、ドロセア様を自分のモノにすることまでが、マルクス様の考えだったようだ。


しかし、あの記憶を思い出した日に聞いた話からパトリシア様は西国と宰相が黒幕と予想し、この48時間でその企てを暴いたという。


公爵家の諜報力、半端無い。


「これも全て、マーガレット様が我が家にやって来てくれて、お話ししてくださったからですわ。感謝しております、そうそう、あなたや周りの下位貴族の令嬢にツマラナイ嫌がらせをさせていたメアリー様は、マルクス様の婚約者でしたでしょ?彼女自身がマルクス様の心変わりに傷ついてあんなことをさせていたのですって。」


「まあ、そうだったのですか。でもなぜそれをパトリシア様が。」


「だって、宰相と連なる者はみな聞き取りをしなくてはならないでしょ?クーデター側かもしれませんもの。我が家門からも出てくるのかと、身構えておりましたけれど、可愛い焼きもちでしたわ。ま、わたくしの名前を無断使用したのは問題ですから、彼女はあの日から神の花嫁になったのですけれど。」


ホホホと可憐な笑い声でパトリシア様が笑う。


ヒィイイー


神の花嫁って修道院に入れられたのね、あの日に!あの後に!公爵家怖い。


「エドワード様はどうなるのですか?」


「残念ながら、ドロセア様の男爵家はお取り潰しでしょ?ドロセア様は別に西国と繋がってなかったのですけれど。ですので、平民として二人でやっていけば良いのでは?と、思ったのですが、ドロセア様、今はドロシーさんね、彼女は幼馴染みと平民として一緒になりたいのだそうで。エドワード様は振られてしまったのですわ。しかも、こんな簡単にハニートラップに遭う者に王籍に居られても混乱のもとでしょ?不妊処置をされて出されてしまったのですよ。我が家は子供が授からないと困りますからね、王家有責で婚約破棄となりましたの。」


「では、殿下は、もうエドワードさんでしょうか。彼は」

「平民として王家の領地で細々働きながら暮らしていくのでしょうね。でも生きているだけラッキーですわ。マーガレット様のお話だと、この後すぐに殺されてしまうところだったのですものね、良かったですわ。結局宰相の家門はお取り潰しでしたけれど、騎士団長は今回のクーデターに加わってなかったですわ。」


「そうなんですか!じゃあリューク様は?」


「そのまま、あなたの婚約者ですわ。」


パトリシア様が侍女に目配せをすると、ドアが開いてリューク様が入ってきた。


「マーガレット、パトリシア嬢から今回の話を聞いた。お前の記憶の話も。でも、俺は別にドロセア嬢のことをなんとも思ってないんだ!」

そう言うと、私の前に膝をつき手を取った。


「だって、物語では西国に囚われたドロシーを助けに行って愛を告げるのよ!」

「それは騎士団長になってからだろう!俺はまだ騎士団にも入ってない。しかもドロセア嬢は囚われてない。だいたい、王子の思い人に懸想するなんておかしいだろう?マルクスの気が知れない。俺は今まで一度もドロセア嬢を好きになったことなんか無いんだ!」

リューク様が眉を下げて、情けない顔で言う。


「あんなに四六時中一緒にいたくせに!私との約束だってずっと反故にしてたくせに。」

私は決して甘い顔を見せずに、横を向いて言い返す。


「すまない。でも王子の側近なんだ、一緒にいないと不味いだろう。」

リューク様は、更に情けない顔をして小さい声で言い訳をする。


「休みの日も放課後もずっと放置していたじゃない!そんな人、百年の恋だって冷めるわよー!」


「それはそうね。ではリューク様初めのお話通りお引き取り下さいな。寄親として、また友人として、今回の功労者であるマーガレット様へは我がハミルトン家がきちんとしたお相手をお探ししますわ。なんせクーデターを未遂で防いだんですもの、なんなら王太子妃にだって推挙出来ますわ。あら、それが良いかしら?我が家へと養女にしてから、嫁ぐのですもの、わたくしと姉妹になるのね、嬉しいわ。」


パトリシア様がナニか不穏なことを口ずさんでいる。



「とととと、とんでもございません。私など下位貴族、礼儀作法も儘ならないのに、お、お、王太子妃など、冗談でも恐れ多い。」


私は心の底から拒否である。

記憶を取り戻した今、下位貴族とはいえ貴族ってだけでも大変なのに、高位貴族、ましてや王太子妃など!何を仰います、パトリシア様。

身体中の毛穴から冷たい汗が噴き出し、ブルブルと震えが来る。


「ぱ、パトリシア嬢。初めの約束では、マーガレットが私を許さない場合は潔く身を引くと言いましたが、さすがに王太子妃など冗談は止めてください。こんなに震えて。ま、マーガレットはまだ俺の婚約者だ。誰にも渡す気はない。」

リューク様が私の肩を抱いて、パトリシア様にはっきりと言い切った。


「それで良いの?マーガレット様。」

パトリシア様が綺麗な弧を描いた笑顔を向けて私に問う。


「は、はい。お気遣い頂いたのに申し訳ありません。私もリューク様の処へと嫁ぎたいと思います。」


私はパトリシア様の目をまっすぐに見てしっかりと答えたのだった。


あの階段の手摺に頭をぶつけた私を医務室まで運んでくれたのは、リューク様だった。

気がつくまで付いていてくれた彼を放って、自分の家の馬車で公爵家へと向かった私を不審に思った彼は、翌日パトリシア様にそのことを聞きに訪ねた。


ちょうど西国と宰相家の繋がりを掴んだところの公爵家が、騎士団長とその嫡男に取り調べをかけようとしたその時に本人がやって来たのである。


取り調べで無実が証明された彼に、パトリシア様は婚約者への扱いが不適切であると告げ、もし私が拒否したなら速やかに婚約を解消するようにと言ったそうだ。


「マーガレット、すまない。百年の恋も冷めてしまったと思うが、どうかもう一度チャンスをくれ。」


「そうね。次は冷めないようにずっと温めていてね。」


《完》

お読みくださいましてありがとうございます。

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