目にも鮮やかなオレンジ色が。
「あ、今年も咲いてる」
春から夏にかけて、道端に咲く…オレンジ色の花。
キレイな花壇に、道端の土に、寂れた家の庭先に…、鮮やかなオレンジ色があらわれる、この季節。
くすんだ住宅街の中でひときわ目を惹く、この花の名前は『ナガミヒナゲシ』という。
わりと、かわいい花だと思う。
色が華やかだし、はなびらも丸くて大きい。
だがしかし、この花は…あまり喜ばしい花では、ない。
地域によっては危険外来植物とされて、駆除対象になっていたりする。
中学生だった頃、かわいい花だと…きれいな花だと思って、絵に描いたことがある。
先生に見せたところ、よく描けているねと褒められた後…この花は抜かないといけない草なんだよと教えられたのだ。
―――そのうち日本はオレンジ色だらけになるよ
―――日本古来の花はどんどん減っていくだろうね
美術部の顧問だった生物の先生が、苦い顔をしながら教えてくれたことを覚えている。
のんきな私は、オレンジ色でいっぱいになったらさぞかしキレイだろうなあと思ったのだ。
抜いてもいい花なんだと思い込んで、たくさん引っこ抜いて、花束を作って。
喜んで持ち帰って、祖母にしこたま怒られて。
……オレンジ色の花は、幼いころから身近な植物だった。
オレンジ色の花びらをむしって、花吹雪ごっこをした事もある。
花の根元を割って、虫の卵みたいだと気持ち悪がったこともある。
オレンジ色の花が咲き誇るのを夢見て…植木鉢に種をまいたことも、あった。
だが、一週間たっても、一ヶ月経っても、翌年になっても、芽を出すことはなかった。
なぜ芽を出さなかったのかは、分からない。
水をやり過ぎて種が流れたのか、土が悪かったのか、薬でも撒かれていたのか。
真相は不明だが……、花が芽を出す場所を選んでいる可能性だって…、ありそうだ。
ずいぶん時は流れたけれど、未だに日本は…オレンジ色だらけにはなっていない。
どちらかと言えば…、原っぱが無くなったり、舗装がされたり、除草剤が撒かれるようになったことで…いくぶん少なくなったような印象すら、ある。
……毎年、今の時期になると、オレンジ色の花を探してしまう。
群生しているのを見るたびに、ココで誰かが種をぶちまけたのかなと思う。
一本だけ生えているのを見るたびに、ココに来年大量に咲くのかなと思う。
花壇の中に紛れ込んでいるのを見るたびに、駆除ができなかったんだなと思う。
…おそらく、来年も、同じ事ようなことを思うはずだ。
……きっと、この先何年も、同じようなことを思うに違いない。
ナガミヒナゲシによる進攻がいかほどのものなのか、私にはわからない。
けれど、私にわかる事が…一つだけ、ある。
子供の頃に思い描いた…オレンジ色一色の世界には、たぶん出会う事は、ない。