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カーセックスモノ

作者: 雉白書屋

 深夜。目にした者が慄くほどに揺れ動く車。

 だが、走行中というわけではない。運転手である彼は今、運転席にて――


「ああ! いい、ああ! うぅ!」


『いいわ、ええ、あなた、すごくいいわ!』


「はっ、はっ、いいだ、ろ? はぁ、うぅ!」


『ええ、いいわよ! もっと、もっと私を揺らしてぇ!』


「あ、あぁ! こう、だろ! ああ、あああ!」


 カーセックス。その狭い車内という密閉空間は性的興奮を掻き立て、また誰かに見られるかもしれないというそのスリルもひとしおに――


「あのーもしもし?」


「あ、あ、え、お、お巡りさん……」


「こんなところで困りますねぇ……」


「いや、その、あの」


「ここの管理者から通報があったんです。不審な車があると。なにされているんですか? ……おひとりで」


「いや、ひとりというか、その……」


 車に自動運転機能が義務付けられた世の中。AI搭載の自動車は時に意図せず、その美しい声で搭乗者を誘惑する。

 欲に駆られた男がその車相手に性欲を発散させることも稀ではない。非公式ではあるが、それ用の後付けパーツも充実している。


「車内には他に誰かいないように見えるんですが……逃がしたかどこかへ隠れて――」


『あら、失礼ね。ここにいるじゃない。私たち、夫婦よ。ねえ、あなた。ほら、ボサッとしてないで免許証でも出したらどうなのよ』


「あ、ああ。はい、これをどうぞ」


「ああ、これはどうも。そうですか、ご夫婦でしたか……ご夫婦……」


 多様性の社会。権利権利と声に押され、結婚相手は異性だけでなく同性、さらに人間に留まらず動物、アンドロイド、あらゆるものへ、そう幅広く、車でさえも。


「しかしですね、野外での性行為は公然わいせつ罪に、それに盗撮など自分たちが被害に遭うかもしれないんですよ」


「すみません……」

『ごめんなさい……』


「まあ、わかっていただけたのならいいんです。それじゃ、お気をつけてお帰りください。あ、くれぐれも運転中はお控えくださいね」


「は、はい、では失礼します! ……ふぅ」


『危なかったわね。でも免許証を見せるだけに済んでよかった』


「ああ、君のお陰だよ。多分、言われる前に見せたのが良かったな」


『ふふふっ、あなたったらアタフタしちゃって』


「うっ、からかわないでくれよ……」


『ほんと、可愛い。私の持ち主とは違う、そこがいいのよねぇ……』


 その利便性ゆえか昔から不倫カップルがカーセックスに興じることはままあること……。

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