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キャラメルポップコーン

 近所にできた大型ホームセンターで、何気なく買ったキャラメルポップコーン。輸入菓子で、ラベルは英語だった。読めないわけではないがどこの会社のものだかは忘れてしまった。なんとかヘッジと書いてあった。


 わたしは、ポップコーンはしょっぱいものだと決めつけていた。映画館では塩味。スーパーで買うときはバター醤油味。昔からそう決まっていた。キティちゃんのポップコーンでさえ、塩味を迷うことなく選んでいた。わたしにとってのポップコーンは甘いものではなかった。


 しかし先日、お菓子買おうよ、と妹たちに誘われて、件のホームセンターで輸入菓子を見ていた。ビーフジャーキーの大袋を手に取り、これでいいかと思っていたら、それが目に入った。小さいバケツに入っているような、キャラメルポップコーン。キャラメルソースがかかって乾燥していたそれは黄金色に光って可愛らしかった。甘いものに飢えていたのか、単純にキャラメルポップコーンに惹かれたのかは、もうよく覚えていないが、とにかくそれを手に取った。


 家に帰り、キャラメルポップコーンが待っていると思うと、謎の全能感があった。少し前に『生ハム原木と同居したときの全能感』がツイッター上で話題になっていたが、それに近しいものは少し感じた。


 そこである仮説が浮上する。わたしは無意識にキャラメルポップコーンを避けていたのではないかと。


 スターバックスでコーヒーを頼むとき、いつもキャラメルマキアートにしてしまう。甘いものに飢えているとき、キャラメル系のお菓子を食べる。こう来たら映画館に行ったときだってキャラメルポップコーンで在るべきだったのに、どうして。


 理由はこうだと思う。わたしには、キャラメルポップコーンが可愛すぎるから。読者諸君の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいることだろう。わたしはずっと、自分は女の子のくせに可愛くないと思っていた。男の子になりたいわけではないけれど、スカートを履くのも、髪を伸ばすのも、キティちゃんが好きだってことでさえ、恥ずかしいと思っていた。要は自分の顔が気に食わないという思春期ならではのやつなのだけれど、それは自分にとって重大なものだった。学校で同級生にどんな印象を抱かせるかは人生そのものにかかるものだったからだ。だからわたしは、ズボンを履いて、髪の毛は短く、掃除の時間にはほうきで男子をひっぱたくようなやんちゃというか、女子にとってのナイトになろうと思っていた。女子にはモテた。だが女子からのモテを狙ってのことではないので、それもちょっと違うなあと思いながら日々を過ごしていた。


 女子にとってのナイト、騎士が、キャラメルポップコーンを選んでいたら、印象が違うものになってしまう。タキシード仮面がキャラメルポップコーンを食べるか? いや、原作で食べてたらアレなのだがわたしにはそのイメージがわかない。キャラメルポップコーンを食べたいという気持ちにすらならなかった。心はナイトだったからだ。


 いつからか大人になって、別に誰かの騎士であることに重要性を見出さなくなっていた。わたしはわたし。女でも男でもない、わたしを生きれば良いのだと悟ってから、なにを好もうといいではないかと思えるようになった。だからおおっぴらに、サンリオキャラクターが、キティちゃんがすきですと言えるし、不二家のペコちゃんの枕で寝ているし、枕元にはぬいぐるみがいっぱいだし、スカートも履くようになった。


 思うに、キャラメルマキアートは、心が大人になってからスターバックスに行くようになったから、抵抗なく頼めたのだろう。子どもの頃なら、キャラメルマキアートなんて女子っぽいものは嫌で絶対に飲まなかったと思う。甘いものが欲しいときにキャラメル系のお菓子を食べられるのも、仕事をし始めて疲れたときに、女子っぽいとか言ってられない状況で、ほんとうに食べたいものをと思ったから食べられるのだ。


 映画館では子どもの頃しかポップコーンを頼んでいない。それがたぶんキャラメルポップコーンとの隔絶を助長していた。いまは映画館の近くに行くと、ポップコーンのキャラメルの匂いでお腹が空く。ショッピングモールでいいなあと思いながら通り過ぎている。


 そして話は戻るが、わたしのキャラメルポップコーンデビューはとても良いものになった。少しベタベタするポップコーンを摘み上げて、口に入れると、もう次が欲しくなる。10回も噛まないうちに次のを口に入れてしまうので、だんだん口の中がいっぱいになってくる。

「お姉ちゃん、焦らなくても誰も取らないよ」

妹が言う。わたしは焦っていたのか。意識してゆっくり食べるようにしているがそれでもハイペースに口に入れてしまう。ゆっくり、ゆっくり、美味しい。わたしはこんなに美味しいものを無意識に避けていたのだなと、少し悔しくなった。


 途中で慌てて蓋をした。底が見えそうで怖かった。こんなバケツポップコーンを買っておいて一回で終わりになるのはもったいない。意識的に蓋をしないとちょいちょい食べてしまってすぐ終わるに違いない。そう思った。


 はたしてポップコーンはすぐに終わった。予想通り、なにかと台所を通るたびにちょいちょい食べてしまって、全然もたなかった。反省。


 じゃあ大型ホームセンターにまた行けば良いではないかと思うだろう。わたしもそう思うが、生憎お金がない。100均にキャラメルポップコーンが売っていることは知っていたので、近所の100均にジェネリックを求めて探しに行った。


 結果は、残念。最寄りの100均にはなかった。明日もキャラメルポップコーンに飢える日がくる。

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