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にわとり

 茜鶏という品種の鶏を飼っている。1歳になったメスである。名をもみじさんという。


 鶏を飼っているというと必ず卵は産むのかと聞かれるが、たしかに卵は産む。餌を毎日配合飼料にして与え続けていれば勝手に産む。しかし卵を産むというのは身体に負担がかかるものだ。人間のメスでいうところの、生理や出産のようなもので、卵管関係の病気のリスクが高まったり、根本的に短命になる。産ませすぎないのも病気になるそうなのだが、わたしは1日でも一緒にいたいから、卵は産ませないようにコントロールしている。ご飯を野菜果物中心にして、あまり与えすぎないようにしている。体重が3キロ以上になると卵を産み始めるので、2キロ半から3キロの間をさまよっている。


 それから、鳴き声うるさくない? と聞かれるが、うるさくない。なぜならメスだから。朝の雄叫びというのは、オスが縄張りをアピールするためにするものだ。たしか。それに、雄叫びという漢字からわかるようにオス特有の行動なのだ。たしかに鳴くときはある。飼い主を探して、というか呼んでコケコケ言っているが、うるさくはない。わたしが聞いたことのあるもみじさんの鳴き声は、コケーッ! というわたしを呼ぶときの声か、ギョー! という何かしらにビビっているときの声くらいなものだ。コケコッコーとは鳴かない。そう、メスは鳴かない。覚えておいてほしい。


 それから、トイレ覚えるの? と質問される。覚えない。うんちは拾って歩くようにしている。鶏の便には大雑把にいうと二種類あって、通常の便と、盲腸便と呼ばれる便である。通常の便は固形だったり、カラスの便みたいな半固体みたいな便だったり、完全に尿だけだったり、ポイントはそこまで臭くないところだ。ちゃんと臭いが、盲腸便の比にならない。盲腸便は、見た目はチョコレートみたいな、ペースト状のうんちだ。これが厄介で、めちゃくちゃ臭い。指についたりするとやばい。一日中臭い。もみじさんの脚のことを考えてタイルカーペットを敷いているのだが、盲腸便だけはどんなに綺麗に拭き取ろうとしてもシミになる。Twitterでにわとり飼ってる人たちはどうしているのだろうか。わたしの部屋はにわとりのうんちのシミだらけだ。


 また、にわとりって懐くの? とも聞かれるが、バチクソ人の顔を覚えているので、飼い主にはべったりである。鳥は3歩あるいたら忘れる、という言葉があるが、そうは思わない。足音、顔、匂い、声、すべて覚えている。わたしの部屋は2階にあるのだが、階段を登る足音でわかるらしく、部屋の扉を開けるとお出迎えしてくれる。ご飯は持ってるか?? という顔で。一見無表情に見える鳥類だが、一緒に暮らすと多彩な表情に驚くくらいだ。「寝るよ〜」というとベッドに飛び乗ってきて、わたしが寝そべると胸の上に座り込む。とても安心した表情でこっくりこっくり眠そうにしているのは微笑ましい。


 飼い始めた頃は、夜はケージに入れていたのだが、狭そうだし寒そうだしと思って出してみることにした。すると、自分からベッドに飛び乗ってきて、胸の上で落ち着くようになった。まあそのケージが、でかめのインコ用みたいなにわとりにとっては小さなものだったので仕方ない。いまは妹のインコが収まっている。


 わたしがもみじさんと出会ったのは半年前、22年の9月上旬だった。大学に行くことを諦めた頃で、生きる目標そのものをなくしていた。ふと、ペットを迎えようと思った。ねこでもよかったしいぬでもよかった。それでもにわとりにしたのは、うしややぎを飼えないから、小さめの畜産動物と過ごしてみたいと思った。わたしは畜産獣医になりたかったから。にわとりの譲渡掲示板から連絡のついた方にメールして、生後半年のメスを譲ってもらえることになった。農業高校にいた頃、白色レグホンとロードアイランドレッドには親しんでいたが、茜鶏という品種は知らなかった。「気性が荒いから気をつけて」と言われたが家に帰って箱を開けると、膝に飛び乗ってきてそこで落ち着いた。


 にわとりの魅力はたくさんあるが、いちばんはもふもふのおちりではなかろうか。このところ余所のにわとりのもふちりを観測するためににわとりアカウントにひきこもっている。読者諸君が想像しているよりずっともふもふで、めちゃくちゃいい匂いだ。太陽の匂いがする。


 それからなんでも食べるところ。最近はTwitterで知り合った農園さんから、大きくなってしまった市場に出せないきゅうりを5kg買って、刻んで1本ずつあげている。きゅうりがなかったときはりんごとバナナをあげていた。トマトや白菜、人参、大根、小松菜も食べる。この間ミニトマトだけあげたらうんちが赤くてびっくりした。


 どうぶつ保険の会社から腸内フローラの検査の案内がきたので、やったところ、ビフィズス菌が全然ないことが判明した。ので、今日はヨーグルトをあげてみた。最初は「ママ、これはなに?」という顔でわたしをじっと見ていたが、わたしが食べるところを見せてあげると、食べ物だと判断したらしく、スプーンから器用に食べ始めた。時折首をプルンと振って、ヨーグルトを撒き散らしてしまうのだが、それもかわいい。目の上やとさか、肉髯というあごのあたりにもヨーグルトがついて、ティッシュで拭かれるのをいやいやしていた。かわいい。


 もみじさんはわたしのパートナーといっても過言ではない。もうもみじさんがいない生活は考えられない。もみじさんがいなくなったらと想像するだけで鬱っぽくなる。それでももみじさんを眺めているだけで回復する。にわとりはいい。だがかわいいからといってむやみに飼わないでほしい。不幸なにわとりが増えるのは可哀想だ。


 明日は、天気がよかったら、一緒に公園でも行こうかな、ねえもみじさん。

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