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まるまった靴下は私じゃない

作者: さとう あか
掲載日:2023/03/11

「靴下をまるまったまま出さないで」


 高校に入ってからお母さんにそう言われることが増えた。

 私は靴下を丸まって出していない。


 だしていないといっても「あんたの靴下だ」といってお母さんは譲らなかった。


 丸まったまま出してないのに。そう思っても気づいていないだけで丸まったまま出していたのかもしれない。もっとちゃんと確認して靴下を洗濯に出そう。そうやって気にかけていた時だった。


「靴下をまるまったまま出さないでって、いってるでしょ!」


 今回ははっきりと確信を持って言える。私は靴下をまるまったまま出していない。


「私、靴下をまるまったまま出してないよ」


 母につられて大きな声になってしまった。だが、私はちゃんと自分の靴下が丸まっていないことを確認している。私はちゃんとやっている。しかし、お母さんはそう思っていないようだった。


「なんでそんな嘘つくの!」


 といって丸まった靴下を投げつけてきた。


「あんたをそんな嘘つきに育てた覚えはない!!」


 大きな音を立ててわざとらしく怒っているアピールをしてお母さんは部屋を出ていった。

 お母さんが私に投げつけてきた丸まった靴下はお父さんの靴下だった。




 私が靴下が丸まっている、と注意されるようになったのは高校に入ってからだった。中学校は靴下が白の指定で、高校の時は靴下は紺色の指定だった。そして、サラリーマンのお父さんはスーツで通勤している。その時履くのは紺色の靴下だ。


 いや、女子高生とサラリーマンが履く靴下の違いはわかるよね?私とお父さんは靴のサイズだって違うし、メーカーだって違う。


 と、思って何度か指摘してもお母さんは認識を改めることはなかった。お母さんの間違いを指摘して怒られるよりも自分が我慢している方が何倍も楽だと気づいてからはお母さんの言葉になんの訂正も指摘もしないようになった。


 訂正も指摘もしなくなってとても楽になった。楽になったが自分の中のもやもやが晴れることはなかった。

 靴下を丸めて洗濯に出していると思われている。そんなちっちゃいことで私は実家にいることがひどく億劫になった。だがこれを実感したのは就職で家を出てからだった。母に何か言われないかと神経を使っていた自覚はあったがここまで疲れていたのかと自分でも驚くほどの解放感だった。

 いつも靴下が丸まっていないかを確認している。洗濯物でもっと先に確認することがあるだろうと思うのに。私は真っ先に靴下を確認している。


 ああ、呪いのようだな。なんて思った。


 なぜ母はああも私に靴下が丸まっている、といったのだろうかと考えた。家を出て数年経って考えてみるとなんとなくわかるような気がすることがある。


 母は、内弁慶なところがあった。家族には大きいことを言うが、いざ外に出るとそんな態度はとれず口ばかりで終わる。そんな母が大きく出られる人間が私だったのだろう。


 専業主婦の母は、大黒柱の父には強く言えなかった。そして進学校に進学し頭の回転が早く、口がうまい兄にはいつも言いくるめられる。


 私は強い言葉で言い返さないし、兄ほど口も上手くない。母にしてみれは私は口で、言葉でどうにかすることができる存在だった。つまり、ストレス発散の捌け口に使えるような人間だったのだ。


 靴下でもなくともよかったのだと思う。


 父にも兄にも思ったことを言えなかった母は私に言うことで日頃に溜まっていたものを吐き出していたのだろう。


 二人にはいい妻、いい母親の顔をしていたかったのだろう。そして、私にはいい顔をしなくてもいいと思った、いや私になら許されると思ったのだろう。二人は許してくれないが私なら許してくれる。

 どうしてそう思ったのかはわからない。でも私は自分がしていないことで叱られて、怒られて、責められて、許せるような人間じゃない。


「今度のゴールデンウィークは帰ってこないの?」


「仕事が入って帰れないの」


 お盆と正月には帰っているんだからゴールデンウィークに帰らなくてもいいじゃないか。なんて思ったが面倒なので口には出さないでいた。


読んでいただきありがとうございます!

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