雑用ばかりさせられていた魔剣士、パーティーを追放された翌日、パーティー全員毒死。追放ざまぁ? いいえ、容疑者はあなたです
原作:
雑用ばかりさせられてた魔剣士、パーティーを追放された翌日、パーティー全員毒死。追放ざまぁ? いいえ、容疑者はあなたです
初回投稿日:
2020年 12月20日 22時02分
原作pt数:
1302pt(2023年2月17日現在)
「セノン、悪いが君は今日付けでうちのパーティーを解雇だ」
——ついにこの日が来た。
勇者アルマスの台詞は、十分に予期していたとはいえ、いざ実際に口にされると、頭を金づちで殴られたような衝撃であった。
「解雇……どうして?」
僕——セノンが反射的に理由を訊いてしまったことは、後から考えると失策であった。
解雇という結論には異存はない以上、黙って家を出て行くべきだった。
しかし、理由を訊いてしまったがために、僕はさらなる屈辱を味わうことになってしまったのである。
悪口の集中砲火の口火を切ったのは、魔法使いのミリナだった。
「なぜ解雇かって? 理由は10個、いや、100個くらいあるわ。それを強いて1つにまとめて欲しいというなら、セノン、あんたが使えないからよ」
「……使えない?」
「ええ。そうよ。……っていうか、まさか、あんた、自分が『お荷物』だという自覚ないの?」
「……そりゃ、自覚はあるけど」
ミリナは、ほぼ毎日、僕のことを「お荷物」と呼んでいた。これだけ「お荷物」と言われ続ければ、自覚したくなくても自覚せざるをえない。
「お前が具体的にどう使えないのか、俺が説明してやるよ」
別に僕は具体的な説明など求めていないのだが、剣士ジャスティンは滔々と語り出した。
「まず、攻撃力が低い。防御力も低い。HPも低く、MPも低い。戦闘において、お前は何の取り柄もないんだ。うちのパーティーとしては、今後もお前を戦闘メンバーに使うことはないと判断したんだ」
この世界の「システム」では戦闘で一度に参加できるメンバーは4人までである。
パーティー内で5人中の5番手だった僕は、常にベンチ要員であった。そして、この世界では戦闘に参加していない限り経験値はもらえない仕組みとなっているので、僕と他のメンバーとの間のレベルの差はどんどん離れていき、いよいよ僕に出番が与えられることがなくなるという悪循環に陥っていたのだ。
「結局、お前が『魔剣士』なんていう中途半端な職業に付いてるから悪いんだ。下手の横好きで、打撃力も中途半端で魔法も中途半端。そもそもこのパーティーには魔法使いのミリヤと剣士の俺がいるんだから、魔剣士なんて要らないんだよ」
それは言い得て妙な部分があるが、だとすれば、そもそもなぜ最初の時点で僕を雇ったのか、3年前に自分を選んだアルマスの判断こそが責められるべきではないのか。
続いて、黒髪の美少女が口を開く。
「せめてセノンさんがイケメンで、目の保養になれば良かったのですが」
僧侶ライムは、冗談でなく、心底そのように思っているのである。
この子は見た目こそ清純派であるが、中身はただのイケメン好きのビッチだ。
「私、セノンさんには感謝してますよ。だって、セノンさんは誰もやりたがらない雑用をすべて引き受けてくれて、家のことは全部やってくれていましたから」
戦闘で少しも使ってもらえなかったため、肩身が狭く、やらざるをえなかった、というのが本当のところである。
「でも、だったら、最初から家政婦を雇えばいいんですよね。そちらの方が安く済みますし。それでもなおセノンさんを雇ってるメリットは何かなって考えたんですけど、何もないんですよね。もしもセノンさんがイケメンだったら、私はセノンさんのままでも良かったんですけど」
僕はこれ以上パーティーメンバーから馬鹿にされるのは耐えられなかった。
近々この日が来ることは想定していたため、必要な荷物はすでにまとめてある。
僕は一旦自室に戻り、荷物を担ぐと、再びメンバーのいる広間に戻ってきた。
「セノンさん、さようなら。戦闘では使えませんでしたが、セノンさんの作る料理は美味しかったです」
「転職してコックになればいいんじゃない?」
「さらに下手の横好きになりそうだな」
冷やかしを浴びながら、僕は立ち止まることなく、玄関まで進んだ。このドアを開けて外に出れば、もう二度とこの家に戻ってくることはない。
「おい、セノン」
靴を履き、ドアノブに手を掛けた僕に、最後に声を掛けたのは勇者アルマスだった。
「勘違いしないでくれよ。少なくとも僕は、君のことを重宝してたんだ。たしかに戦闘ではアレだったけど、雑用と家事をやってくれたことには感謝していて、できればずっと君を雇っていたかった。君と過ごした3年間は、決して悪い時間じゃなかった」
でも、とアルマスは続ける。
「あの事件があった以上、君にこの家のことを任せることはできなくなってしまったんだ」
「……あの事件?」
「もちろん例の窃盗事件だよ。僕の大事な紋章が盗まれた、ね。セノン、最後に一度だけチャンスをあげる」
「チャンス?」
「そう。僕の質問にセノンが正直に答えてくれたら、解雇は撤回するよ」
僕には今さら解雇を撤回してもらいたいという気持ちはなかった。このパーティーに居続けても僕はこき使われ、ハラスメントを受け続けるだけだから。
僕が黙って立っていると、アルマスは、僕に対し、予想通りの質問をした。
「セノン、君が紋章を盗んだんだろ?」
この質問は、昨日からすでに99回、僕に投げかけられている。
そして、僕は99回同じ回答をしている。
100回目の今回も、僕は同じ回答をした。
「盗んでないよ」
アルマスが、愛想が尽きた、と言わんばかりの大きなため息をつく。
「分かった。早くこの家から出てけ。もう二度と戻ってくるな」
アルマスに言われなくとも、二度と戻って来ようなんて思わない。
こんな最悪なパーティー、こちらから願い下げである。
…………
「これは一体どういうことなんですか!? 僕に1から説明してください!!」
目の前の男が、私に対して啖呵を切る。
この男の名はセノン。見た目に清潔感があり、着ている服も大層立派なものであるが、大量殺人事件の容疑者である。
そして、私——グラナムは警察官であり、ここは取調室である。
そのため、「1から説明してください」は本来的には私の台詞である。
とはいえ、ここで喧嘩をしていては取調べはスムーズに進まないだろう。
私は支障のない範囲で、事件と、現在の捜査状況について説明することに決めた。
もっとも、その前に——
私は取調べ室の壁に掛けられた電話を使い、「悪魔」を呼んだ。
しばらくして取調室に来た悪魔を見て、セノンは明らかに体を硬直させた。
「……僕に何をする気ですか?」
「まさか拷問するわけではないから、安心してくれ。ここは警察だからな」
私は、悪魔に、自分の隣の席に座るように命じた。
悪魔は深々と頭を下げた後にゆっくりと椅子を引いた。
「彼の名前は、ジューク。出自は悪魔だが、人間には慣れていて、人間に害を与えることはない。たしかに見た目はおっかないし、無口なところもどこか不気味だがね」
私は、過去に何度も、ジュークと協力して捜査をしているが、ジュークが話しているところは一度も見たことがない。とはいえ、言葉を理解してないわけではない。それどころか、ジュークは、人間以上に「言葉の真意」までをも理解しているのである。
「セノン、悪魔の好物が何か知っているかい?」
「もしかして人の臓物ですか?」
「それもそうかもしれないが、実は悪魔は、人間の嘘が大好物なんだ。悪魔は、発言が真実なのか嘘なのかを確実に見分けることができる。そして、嘘を見つけた場合……」
「どうなるのですか? やはりその人ごと食ってしまうのですか?」
「いや、単に笑うだけだよ。ケタケタケタケタとね」
ジュークは無口な悪魔であるが、笑うときは大声で、大胆に笑う。私が最初にその様子を見たときは、ジュークのあまりの変わり身に驚いたものだ。
「要するに、『嘘発見器』ということですか」
「まあ、そういうことだ。だから、セノン、くれぐれも真実だけを話してくれ。隣でケタケタ笑われてしまうと、取調べに集中できないのでね」
セノンは、ジュークの顔をじっと見つめている。まるで鏡のように、ジュークも同じように見つめ返す。
「セノン、悪魔が同席しているとそんなに嫌か?」
ここで首を縦に振れば、それはセノンが犯行を自白したに等しいのだが、セノンは首を横に振った。
「いいえ、構いません。僕は真実しか話しませんから。というか、そもそも、僕は何を話せばいいのですか? まずはなぜ僕が逮捕されたのかについてそちらから説明してください」
被害者はすべてで4人。
アルマス、ジャスティン、ミリヤ、ライム。
職業はそれぞれ、勇者、剣士、魔法使い、僧侶。
彼らは4人ともいわゆる「最強勇者パーティー」のメンバーであった。パーティーランクは5年連続1位。実力も人気も兼ね備えたまさしく「最強」のパーティーだ。
しかも、このパーティーは、6年前に、大魔王ルシファーを殺し、この世界を平和に導いたという,比類なき実績まである。
4人は一つ屋根の下で共同生活をしていた。
第1発見者は、レオナという名前の家政婦だった。彼女は住み込みではなく、単発で仕事を受注しており、アルマスのパーティーから仕事を受けたのは初めてであった。つまり、レオナにとっては、パーティーとの初対面が、死体との対面だったのである。
もっとも、パーティーの家には鍵が掛かっており、レオナが家に入れたわけではなかった。
いくらチャイムを鳴らしても反応がないことを不審に思ったレオナが、窓から部屋の中身を覗いたところ、凄惨な光景を目撃したのである。
レオナの通報によって臨場した警察官は、これが「事件」であると直ちに断定した。すなわち、これは魔物のせいではなく、人間の仕業である、と。
部屋は荒らされてはいたものの、パーティーが戦闘した形跡はなかったのだ。そして、死体には一切外傷はなかった。
4人の死因は毒死であった。
死ぬ直前、4人は、共同生活をしていた家で、テーブルを囲み、朝食兼昼食を食べていた。まさかそれが最後の食事となるとは知らずに。
調査の結果、料理の中から、人間の致死量を超える猛毒が検出された。4人ともほぼ即死だったものと思われる。4人はいずれも食事には1口か2口程度しか口を付けておらず、テーブルを囲むようにして倒れていたのだ。
客観的な状況を考えても、動機の面を考えても、捜査線上に浮かび上がる犯人候補は、ただ1人しかいなかった。
セノンである。
セノンは、アルマスのパーティーに所属していた。
しかし、昨夜、パーティーから追放されていたのである。
そして、集めた情報によると、セノンはパーティー内でかなり不遇を味わっていたらしい。
戦闘では全く使ってもらえず、他方で、セノンは、パーティーが生活していく上での家事雑務のすべてをさせられていたのだ。掃除、洗濯、料理、ゴミ出しなどなど。セノンは魔剣士であったが、パーティーでの実質上の役割は家政夫だったのである。
その上で、セノンは、パーティー内で盗みの罪を被せられ、追放されるに至ったのだ。
セノンには、被害者4人に復讐をするだけの十分過ぎる動機があるのである。
そして、客観的な状況の方に目を遣れば、事件は密室で起こっていた。家の外鍵がかかっていたのだ。
被害者4人を毒殺し、外に逃げることができる者がいるとすれば、それは家の鍵を所有している者ということになろう。
前日までパーティーメンバーであったセノンが明らかに怪しい。
そこで、セノンに対して逮捕状が出されたわけであるが、セノンの居場所はすぐに見つかった。
セノンは、新しいパーティーとの出会いを求めて、ギルドに出向いていたのである。
ギルドを訪れた3人の警察官によって、セノンはあっけなく身柄確保されたのだ。
「——というのが、君が逮捕された経緯だよ、セノン。今度は君が説明する番だ。知ってることは全部話してくれ」
私は説明している最中、ずっとセノンの顔色を窺っていた。
パーティーメンバー4人が何者かに毒殺されたことを話したとき、セノンは唖然とした表情を見せた。それが演技なのかどうかを見分けるのは、私の仕事である。ジュークは言葉の嘘しか見抜けないから。
「グラナムさん、僕のことを信じてください」
「もちろん、信じるよ。だから、まず君にはハッキリ宣言してほしいんだ。『僕は4人を殺していません』と」
「僕は4人を殺していません」
………………。
しばらく待ってみたが、ジュークがケタケタと笑い出すことはなかった。
ということは、犯人はセノンではないということか。私の取り調べへの意欲は一気に下がる。
「たとえば、4人全員は殺してないものの、パーティーのうち誰かを殺したということはないか?」
「いいえ。誰1人として殺してません」
やはりジュークは黙ったままだ。
「君は、君を追放したパーティーメンバーを恨んでいなかったのか?」
「もちろん。恨んでましたよ」
「君は相当雑用をやらされていたと聞いたが」
「そうなんです。3年前に新メンバーとしてパーティーに迎えられて以来、僕の役割はもっぱら雑用でした。おかげで家事全般はとても上手になりました。自分で言うのも難ですが、料理の腕はプロ並みだと思います。とりわけ魚料理が得意で、世界中から珍しい魚を取り寄せて、僕にしか作れない料理を振る舞っていました」
「君は本来は魔剣士のはずだ。それにもかかわらず、掃除や料理ばかりやらされてて悔しくなかったのか?」
「それはとても悔しかったですよ。ただ、それ以上に悔しかったのは、奴ら……すみません。死んでしまった人のことを『奴ら』なんて呼ぶのは良くないですね。僕が何より悔しかったのは、彼らは僕の家事を全く評価してくれなかったことなんです」
「どういう意味だ?」
「彼らは、たしかに戦闘面では優秀かもしれませんが、生活能力はゼロなんです。自分のことすら自分でできない人間のクズの集まりなんです……あ、すみません。また口が悪くなってしまいましたね。ただ、彼らの自活力は赤ちゃん並みで、僕が全て面倒を見てたんです」
たしかに、パーティーは、セノンを追放した翌日に、早速家政婦を呼んでいるのである。それは、自分たちで家事を行うことができなかった何よりの証左である。
「それにもかかわらず、彼らは僕の些細なミスや至らなかったところを突いて、常に僕の家事に難癖を付けてきました。これってハラスメントじゃないんですか?」
「……おそらく、ハラスメントに当たるだろうな」
「彼らにとって、僕は家政夫兼サンドバッグだったんです。僕を虐めることが彼らの何よりの楽しみだったんです」
「それはヒドイ話だな。とすると、やはり、君には、アルマスたちに復讐をする確固たる動機がある気がするんだがどうなんだ?」
この間もジュークはずっと黙ったままであった。ということは、セノンがパーティーからヒドイ仕打ちを受けていたこともすべて真実だということである。
「僕を追放したことを後悔させてやる、とは思っていました。しかし、まさか毒を盛って殺そうなどとは考えてはいませんよ。そうでなく、新しい仲間とパーティーを組んで、そこで活躍することによって見返そうと思ってました」
つまり、セノンは「追放ざまぁ」をしたかったということだ。「追放ざまぁ」はこの世界ではトレンドであるし、とても爽快である。セノンも「追放ざまぁ」を目指して、実際にギルドに足を運んでいたということなのだ。
「そういえば、君は窃盗の濡れ衣も被せられてたらしいな」
「ええ。そうなんです」
「実際には、君は何も盗んでないんだよね?」
「もちろんです」
ここでもジュークは笑わなかったから、こちらもまた冤罪ということらしい。
「パーティーからは、何を盗んだと疑われてたんだ?」
「これがあまり上手く説明できないんですけど、『勇者の紋章』と言われているものでして……」
「勇者の紋章? なんだそれは?」
「名前だけ聞くとイカツイんですけど、見た目は、ドドメ色した缶バッジみたいな感じで、とてもチャチいんです。正直、ガラクタにしか見えなかったです」
「一体それは何に使うものなんだ?」
「さあ、そこに関してはアルマスから説明を受けていなかったので、よく分かりませんでした。アルマスは『大事な物』とは言ってましたけど、実際は家に適当にほっぽらかしたままでしたし」
よく分からない話であったが、セノンにいくら説明を求めても仕方ないだろう。
「とにかく、セノン、君はその勇者の紋章がどこにあるか知らないということなんだね?」
これまでスムーズに受け答えをしていたセノンが、突然黙った。
「セノン、どうしたんだ?」
「いいえ、別に。何もありません」
そうは言ったものの、セノンの目は泳いでいる。怪しい。
「セノン、もう一度訊く。君は勇者の紋章がどこにあるか知らないんだね?」
「……知りません」
先ほどの反応からすれば、このセノンの「知りません」というのは嘘に違いない、と私は確信した。
——しかし、ジュークが笑い出すことはなかった。
ジュークは、真顔で、じっとセノンの顔を見つめたままなのである。
このことは、セノンが本当に勇者の紋章の場所を知らないということを意味する。
「一切知らないということか?」
「多分、家の中にあるとは思います。あんなガラクタ、誰も外に持ち出すわけありませんし」
勇者の紋章がガラクタだとすれば、たしかに誰も盗むことはないのだろう。
取り調べによって、セノンが今回の事件に関与していないことがほぼ明らかになった。本来であれば、セノンを即日釈放するところであるが、事件があまりにも大き過ぎる。
念のため、明日までは身柄を確保しておき、明日の朝、もう一度取り調べをすることにしよう。
真犯人は一体誰なのだろうか。
現段階では全く見当がつかない。
私が、今日の取り調べを終えることを告げると、セノンは、ホッとした表情を見せた。
「グラナムさん、あまりお役に立てず申し訳ありません」
「いや、むしろ君を犯人と疑って悪かったな。明日中にはおそらく君は釈放されるだろう」
「グラナムさん、一つ質問してもいいですか?」
「なんだ?」
「毒の入っていた料理についてなんですけど、それが何だったか教えて欲しいんです。普段料理を作っていた僕がいなくなって、彼らは一体何を食べていたのでしょうか?」
素直に取り調べに応じてくれたお礼として、私は、セノンの質問に応じたかったのだが、生憎、毒が入っていた料理が何かについては、情報を持っていなかった。
そこで、明日の朝までに確認することをセノンと約束し、その日の取り調べを終えたのであった。
…………
翌朝の取り調べには、ジュークは同席させなかった。
昨日の取り調べで、すでにセノンが犯人でないことが証明されたから、ということもあるし、そもそも今日はジュークが非番だったからというのもある。
しかし、それ以上に大きかったのは、今朝までにあった捜査の進展だ。
「グラナムさん、アルマスたちが食べた料理が何か分かりましたか?」
「ああ、分かったよ。それどころか、事件の真相まですべて分かったんだ」
「本当ですか!!??」
「ああ」
セノンが気にしていた料理の正体こそが、今回の事件の真相を握る最大の鍵だったのである。
「今回の事件は、そもそも『事件』じゃなかったんだ」
「『事件』じゃない? じゃあ、何なんですか?」
「食中毒だよ」
料理を食べたことによる食中毒、それが今回の「事件」の真相だったのだ。
「アルマスたちが食べた料理は、魚料理だった。魚を煮た料理だ」
「料理名は?」
「それが、料理名の付くようなそんな立派な料理ではなかったんだ。単に魚を丸ごと塩と醤油で煮ただけ、というか……」
「彼ららしいですね。彼らに料理なんかする能力はないですから」
まさしくそのとおりなのである。
そして、その「能力不足」こそが今回の惨劇を引き起こしたのだ。
「そして、問題なのが、その魚なんだが、フーグーだったんだ」
「……ああ、なるほど」
セノンは合点したようだ。
「フーグーの臓器には、猛毒の成分が入ってますからね。ちゃんと臓器を取り除いてよく洗ってから調理しないと、食中毒になります。ましてや、丸ごと煮て鍋にするなんて論外です。そんなもの口にしたら確実に死にますよ」
「詳しいですね」
「ええ、もちろん。フーグー料理は僕の得意料理ですから」
「恥ずかしながら、私は、フーグーという魚を食べたことないんだ。それはポピュラーな魚なのか?」
「いいえ」
セノンは大きく首を振る。
「おそらく、この国の人はほとんど食べたことがないと思います。一部の島国でしか食べられてない珍しい魚です。味は絶品なのですが、先ほど話した毒の関係で、調理が困難なので、あまり広まってません。ちなみに、フーグーが常用されている大抵の国では、フーグーの調理のためには特殊な免許が必要なんですよ」
なるほど。それほど珍しい魚であるがゆえに、捜査機関は、食中毒の可能性に気付くのに遅れたのか。
あ、そういえば、とセノンは口を開く。
「パーティーは皆、フーグーが大好物で、毎日食べたがってました。僕はかなり頻繁にパーティーにフーグー料理を振る舞っていたので、定期的に外国からフーグーを取り寄せていたんです。僕が追放されたときにも、冷凍庫にはフーグーが何匹か入っていました。彼らは、不用意にも、そのフーグーを、猛毒の内臓を取り出すことなく食べてしまったわけですね」
「そういうことか。これで謎は全て解けたな。まさにこれは『追放ざまぁ』だったわけだな」
「どういう意味ですか?」
「つまり、パーティーが死んだのは、セノン、君を追放したせいだったんだよ。今までは君が丁寧にフーグーを調理していたから、パーティーが食中毒になることはなかった。しかし、君が追放されたから、パーティー内にフーグーの毒を取り除くことができる人がいなくなってしまい、パーティーは毒に侵されたんだ。まさに『追放ざまぁ』じゃないか」
「たしかにそうですね。全く意図してませんでしたが」
真相が分かってしまった今、私の中では、故人に対して同情する気持ちは少しも湧かなかった。むしろ、なんて気味の良い「事件」なのだろうかと思う。
「アルマスたちは、もっとも追放してしてはいけない大事な人を追放してしまったんだよ」
…………
留置施設から釈放された僕——セノンは、借りていたホテルの部屋に戻り、一眠りすると、ギルドへと向かった。
そのギルドは、僕が警察によって逮捕された場所であったため、ギルドの職員がセノンの顔を見てどのような反応をするかは心配だったが、すでに今回の「事件」の真相はギルドにも伝わっていたようで、むしろ僕は英雄視された。
「今まで最強勇者パーティーを影で支えてたのはセノンさんだったんですね!!」
と、若い女性職員は顔を紅潮させていた。
「いや、そんなことはないです。僕はただの雑用ですから」と謙遜しながらも、僕は決して悪い気はしなかった。
その女性職員は、
「どのギルドもセノンさんを欲しがってます!! まさに引く手数多ですね!!」
とも言っていた。
再就職の心配は一切なさそうだ。
もっとも、数年前までは大魔王ルシファーがいたため、世界の情勢は不安定であり、勇者パーティーの仕事がたくさんあったが、数年前に大魔王ルシファーが殺され、世界に平和が訪れた現在では、勇者パーティー自体がほとんど需要のない仕事である。
不本意ながら培った家事のスキルを活かし、のんびりスローライフを過ごすのも悪くはないかな、とも思う。
ちなみに、大魔王ルシファーを殺した勇者こそがアルマスであり、パーティーに入る前は、僕だってアルマスに憧れていた。
実際にパーティーに入り、アルマスや他のメンバーの人柄を知ったときの僕のショックは計り知れなかった。
——すべては僕の計算通りであった。
グラナムは、パーティーの毒死は「事件」ではない、と言っていたものの、実際は「事件」だったのである。僕には、4人に対し、明確な殺意があった。
魚料理を研究していた僕は、一部の島国で食べられている「フーグー」という魚の存在を知り、この魚を使ってアルマスたちを「死なせる」ことを企てた。今から半年以上前の話である。
僕は、フーグーを大量に取り寄せ注文し、フーグーの調理方法を研究した。どの程度の厚さで切り、どの程度火を通し、どの調味料を合わせればフーグーの美味しさが際立つのか試行錯誤を繰り返した。
その結果、僕はフーグー料理を極めるに至り、パーティーをフーグー料理の虜にした。
パーティー全員の口癖が、「フーグーが食べたい」となり、僕はほぼ毎日彼らにフーグー料理を提供した。
こうして、パーティーの家に常時フーグーがあってもオカシくない状況を作り出し、なおかつ、自分がいなくなった場合、パーティーが真っ先にフーグーを口にするように「仕組んだ」のである。
パーティーの「がさつさ」を考えれば、彼らがフーグーをほぼ調理しないまま、そのまま食べることも計算通りである。そうすれば、フーグーの毒は容易に致死量を超える。
そういえば、グラナムは、パーティーの家は何者かに荒らされていた、と言っていた気がする。
それはおそらく、荒らされたのではなく、荒らしたのだ。あのだらしのないパーティーは1日にして部屋を散らかすことが得意中の得意であった。
さて、この「殺人計画」を成功させる上で必要不可欠なことがもう1つあった。
それは、僕が、パーティーから追放されることである。
アルマスたちは僕を冷遇していたが、僕が家政夫としては優秀だったことと、僕がサンドバッグとしてもなぶり心地が良かったことから、決して僕を追放しようとしなかった。
これにはかなり頭を悩ませた。
自分から出て行ったのでは、そのタイミングで冷凍庫にフーグーが残っていることが意図的なものと見られかねない。そして何より、再就職活動のときの印象も悪くなりかねない。アルマスたちが酷い奴らであることを世間に知らしめ、「ざまぁ」な状況を作ることこそが、僕の株を上げるためには重要なのだ。
そこで、僕は、勇者の紋章を「しまう」ことを思いついた。
アルマスは生来のだらしなさから、「大事な物」と言いつつも、いつも勇者の紋章をどこかにほっぽらかしていた。
それを見るたびに僕はイライラし、アルマスに、勇者の紋章をどこか決まった場所にしまっておくようにお願いしたが、聞く耳を持たなかった。
そのことに頭を悩ませている最中、僕は、勇者の紋章を勝手にしまい、その場所をアルマスたちに秘す、ということを思いついたのである。
僕が勇者の紋章をしまった場所は、家の戸棚の引き出しにある、小物入れの中である。
もしアルマスたちがこの家の物の定位置がどこであるかをしっかりと把握していれば、すぐに見つけられたはずだ。
しかし、そのことを彼らに期待するのは虚しく、アルマスたちは、「勇者の紋章が盗まれた!!」と騒ぎ出し、家で留守番をする機会が多かった僕を犯人扱いした。
そして、僕が勇者の紋章の置き場所をずっと黙っていたところ、アルマスたちはついに僕を追放した。
すべて僕の計算通りの展開であった。
そして、追放された翌日、僕が願った通り、アルマスたちは毒を抜かずにフーグーを調理し、毒死した。
これによって、僕が警察に逮捕されてしまうことも想定の範囲内であった。
もっとも、警察はすぐに「真相」に辿り着くはずだと確信していた。
僕はアルマスたちに追放されて以降、念のため、わざとバーやらホテルのロビーやら、監視カメラのある場所に居続け、アリバイを作り続けていたし、いくら鈍感な警察といえども、僕がフーグーについて指摘しさえすれば、食中毒が発生したことに気付かないはずはなかった。
一点、想定外だったのは、ジュークが取り調べに同席したことであった。
「嘘発見器」のような役割をする悪魔が警察に協力しているなんて、僕はこのときまで全く知らなかった。
しかし、僕はアルマスたちに毒を盛って「殺した」わけではないし、勇者の紋章も「盗んだ」わけではなかったため、ジュークに一度も笑われることなく、取り調べを切り抜けることができた。
そういえば、1つだけ未だに心に引っ掛かっていることがある。
僕は取り調べのとき、1つだけ明確な嘘をついたのだ。
グラナムから、「君は勇者の紋章がどこにあるか知らないんだね?」と質問された僕は、「知らない」と回答したが、あれは真っ赤な嘘である。
僕は、勇者の紋章を盗んではいないが、しまってはいたため、それが引き出しの小物入れの中にあることを知っていた。
だから、僕は、てっきりジュークがケタケタと笑い出すものと思っていた。
しかし、ジュークは、黙ったままだったのである。
あれには救われたが、一体どういうことだったのだろうか。実は悪魔が嘘を嗅ぎ分ける能力など大したことないということだろうか。
——まあ、そんなことはどうでもよい。
僕は、ギルドに示されたパーティー名簿を見ながら、新たな人生の船出に胸を膨らませた。
…………
「おお、ジューク、久しぶりだな。最近見なかったが、何をしていたんだ」
そこは魔界の最深部。
現在における魔界のトップであるアスタロトが座る玉座の目の前で、私——ジュークは跪いていた。
「すみません。人間界の方に野暮用がありまして」
「人間界? まさか、ジューク、お前は人間界で暮らしてたのか?」
「ええ」
「無事だったか?」
アスタロトが心配するのはよく分かる。
大魔王ルシファーが封印されて以降、人間界は、悪魔にとっては大変危険な場所となってしまっていたのである。
「なんとか」
「……たしかにお前は人間に取り込むのが上手そうだもんな」
「お褒めいただきありがとうございます」
ジュークは跪いたまま、深々とアスタロトにお辞儀をした。
「アスタロト様、今日、私は朗報を持ってきました」
「朗報? なんだ?」
「人間界でアルマスのパーティーが壊滅したのです」
「本当か!?」
「本当です」
アルマスが率いる勇者パーティーは、人間界で最強であり、悪魔にとっては恐るべき存在であった。
そして何より、6年前に大魔王ルシファーを倒し、封印してしまった者がアルマスなのである。
ゆえに、アルマスのパーティーが壊滅したというのは、魔界全体が待ちに待ったニュースなのである。
「誰だ!? 一体誰がアルマスたちを殺したんだ!!??」
「それは分かりません」
私が同席した取り調べでは、犯人の最有力候補であるセノンが事情聴取を受けていたが、セノンは犯人ではなかった。
真犯人が誰であるのかは、おそらく現在もなお警察が捜査中なのだと思う。
——もっとも、アルマスたちを殺したのが誰かということは、魔物にとってはどうでも良いことである。
肝心なのは——
「アスタロト様、私は、人間からとても重要な話を聞いてしまったのです」
「なんだ?」
「ルシファー様の封印先です」
「本当か!!??」
大魔王ルシファーは、6年前にアルマスたちによって封印されてしまった。
それにより、魔界と人間界の力関係は逆転し、魔界が人間界に影響力を及ぼすことはほぼできなくなった。
魔界には冬の時代が訪れ、ルシファーの跡を継いだアスタロトも、いわば魔界に引き篭もるだけの状態となっていた。
魔界が待ち望んでいたのは、ルシファーの復活だった。
そのためにルシファーが一体どこに封印されているのかを明らかにすることこそ、魔界の至上命題だったのである。
「ルシファーはどこに封印されているんだ!? 一体どこに!?」
「アルマスたちが住んでいた家にある『勇者の紋章』の中に封印されています」
私が取り調べに同席したとき、セノンは「勇者の紋章」について色々と話していた。
セノン曰く、勇者の紋章はガラクタにしか見えなかったものの、アルマスはそれをとても大事にしていたのだと言う。
人間界において、ルシファーが実は生きていて、単に封印されているだけだと知っている人間はほとんどいない。
なぜなら、ルシファーを封印した張本人であるアルマスが、世間に対して、「ルシファーは殺した」と説明していたからである。
その理由は私にはよく分からないが、善意に解釈すれば、世間を不安にさせないためであり、悪意に解釈すれば、単にカッコつけるためなのだろう。
普通、同じパーティーのメンバーにくらいであれば真実を共有すべき気もするが、セノンのパーティー内の地位を考えれば共有されていない可能性が高い。
私は、取調室で「勇者の紋章」についての話を聞き、それがルシファーの封印先であることをすぐに察した。
そうでなければ、アルマスが「がらくた」をそこまで大事にし、それを盗んだことを理由にして「有能な雑用」を解雇する必要はないからである。
「勇者の紋章」の中には間違いなくルシファーが封印されている。
私が何より知りたかったのは、「勇者の紋章」がどこにあるか、である。
ただ、同時に、先に警察にその場所を知られるわけにはいかなかった。
警察によって「勇者の紋章」が押収されてしまった場合、今の人間界と魔界の力関係を考えれば、魔物がそれを取り返すことはできないだろう。
ゆえに、私は、セノンが「勇者の紋章」の所在を知らない、と答えたことは嘘だと見抜いたとき、笑うのを我慢した。
ここで笑ってしまえば、グラナムはセノンが「勇者の紋章」の在り処を知っているものとして厳しく取り調べ、警察が魔物よりも「勇者の紋章」を発見してしまうに違いなかったからである。
私が笑わなかったため、グラナムはそれ以上セノンに対して追及をしなかった。
そして、これは魔物にとっては何よりの幸運だったのだが、セノンは、取り調べの席で、私に対して貴重な情報を流してくれた。
セノンは「勇者の紋章」の在り処について、こう話したのである。
「多分、家の中にあるとは思います」
と。
これはグラナムからすれば、セノンが単なる推測を述べたものにしか聞こえなかったはずだが、私には違う聞こえ方をしていた。
なぜなら、私は、セノンが「勇者の紋章」の在り処を知らないと答えたことが嘘であり、セノンが本当は「勇者の紋章」の在り処を認識していることを知っていたからである。
「多分、家の中にあるとは思います」というセノンの言葉には嘘の香りは一切しなかった。
ということは、つまり、「勇者の紋章」は家の中にあるということだ。
魔界に報告すべき情報としてはこれで十分だった。
取り調べが終わるやいなや、私は魔界に帰り、今こうしてアスタロトと謁見しているのである。
「ジューク、でかしたぞ。大手柄だ。これから魔界の勢力を総動員し、人間界のアルマスの家へと乗り込む。すでにアルマスのパーティーは亡きものとなっているから、攻略は容易だろう。魔物を邪魔するものは、もういない」
「楽勝ですね。私も協力します」
「そして、封印が解かれ、大魔王ルシファーが復活すれば、こっちのものだ。ついに魔物が人間に対して、仕返しをするときが来たのだ。人間界は再び闇に包まれ、魔物にひれ伏すことになる。」
「楽しみです」
「感謝しなきゃな」
「誰にですか?」
「もちろん、アルマスたちを殺してくれた誰かにだよ。そいつにどんな目的があったかは知らないが、そいつは、人間界からすれば、もっとも殺してはいけない大事な人を殺してしまったんだ」
(了)
執筆秘話:
このサイトに出会わなければ書くことのなかった作品だと思います。この頃は、なろうのトレンドが「異世界転生」から「追放ざまぁ」に移り変わった時であり、「異世界転生」と違い、「追放ざまぁ」はミステリーにしやすいなと思い、作品化したものです。ジャンル「ハイファンタジー」にアップしたこともあり、PV数、pt数はそれなりにいきました。
ただ、この作品に対しての作者の気持ちはアンヴィヴァレントです。
毒の仕込み方については、ハッキリ言って、東野圭吾の某ガリレオ作品をパクりました。もちろん、東野圭吾は、フーグーは使っていませんが苦笑、原理は同じかなと思います。
何がパクリで何がパクリじゃないのかという基準は曖昧ですが、今回については僕自身にパクったという認識があります。ただ、その東野作品が好き過ぎたのと、「追放ざまぁ」とあまりにも相性が良かったので、使うのを我慢できませんでした。
他方、それだけでお腹いっぱいになれるタイトルを付けられたこと、悪魔に「嘘発見器」をさせたこと、多重どんでん返しを入れられたことには満足しています。我ながら良い閃きだったのではないかなと思います。




