【92】聖女様の秘密(1)
【青い水晶宮】の王子妃の寝室に、ラフィーネは寝かされていた。パレードで失神してからまだ目覚めてはいない。
オルフェルはしばらく見守っていたが、パレードでの騒動の事後処理の為に部屋を離れた。
今オルフェルは国王夫妻と面会していた。
国王夫妻は王国騎士団に守られて、騎士団にも損害なく離脱し無事水晶宮へたどり着いた。
そして事後処理の指示を終えたオルフェルと、此度のパレードの出来事について話をしていた
「オルフェル。魔物に襲われて多くの民が傷つくのを見た。被害はどうだったのだ?」
「実は……死者は一人だけでした。
しかも傷を負った者は皆無でした」
「そんな訳があるか!
我はあの牛の化物の大角に、刺されている者も見た。
撥ね飛ばされ踏まれた者もいた。血だらけになって動けぬ者もこの目にした。
それでも負傷者が皆無だと?我が目が節穴とでも思うておるのか!」
「いえ……仰有る通りです。わたしも目の前で宙を舞う騎士も見ており、腕や足の骨を折った者も騎士団に大勢いた筈です。ですが……皆全快しました」
「全快?……」
国王は呆ける
「あの奇跡の光が原因か?
あれは……あの魔法は多分あれだと思うが……そのような効果など無かった筈……」
「父上!あの魔法を知っているのですか?」
「ああ……似たようなものを見たことがある。
まだ王太子だった頃、義母の聖女様の護衛で騎士団と瘴気を払いに行ったことがある。だが途中で魔物が大量発生し追い詰められた。
その時に聖女様が発動された魔法が……」
「今回の魔法だったのですか?」
「ああ。神々しい光が聖女の体から立ち上ぼり天空で広がり渦を成し半球体で辺りを包み込んだ。その範囲内にいた魔物は悉く消え去り、瘴気も消滅した。
その魔法は[聖域]と言っていた。だが規模は今回の方が遥かに大きいし、何より死傷者もそのままだった。まさか……領都を包み込む大きさで負傷者まで治すとは……驚いている」
「聖域か……」
オルフェルは考え込む
「父上……実は……負傷者だけではありません」
「まさか……死者も生き返ったとは言わないよね?」
王妃が口を挟む
「そのまさかです。確かに魔物やパニックに巻き込まれて『殺された』とか『死んだ』者が生き返った報告が多数寄せられています」
「だがさっき……死者が一人と……その者は生き返らなかったのですか?」
「いえ。その者は兵士で聖域発動後に負傷者を探しに領都へ散った者の一人でした。首を絞められ何者かに殺されたようです」
「殺された?兵士が?……物騒だな」
国王は何か知らないが嫌な予感に襲われた。
それから話はいつしかラフィーネの容態に移った
「まだ目覚めないの?」
「はい義母上。未だに……ただ容態は安定しといて、わたしが襲われると思ったショックが大きかったと思われます」
「わたくしはね。何故かあの子が気になるの。それは貴方の想い人とか平民で珍しいとか、そういう理由では無くて根本的に……そうね……決してあの子を傷付けちゃいけないような……守ってあげなければならないような……そんな気持ち。不思議よね。何の血の繋がりもメリットも無いのに……凄く大切に思っているわ」
「奇遇だな。それは我も同じ気持ちだ」
国王は大仰に頷き続けた
「初めて会った時から、お前が何故ラフィーネに惹かれ本妻にまで迎えたか分かった気がした。もし我もあの子に初めに出会っていたら、妻と迄はいかなくても何かしら理由を付けて手元に置いていただろう。そんな不思議な魅力がある」
三人はラフィーネに想いを巡らせた。
王妃は
「ラフィーネっていうあの子。ただの平民では無いわね?身のこなしが洗練されているわ。もちろん年相応に至らないところも多いけど、平民の身分を隠して舞踏会へ出席させたら誰も貴族と信じて疑わないでしょう。
本当に平民なの?わたし達に何か隠していない?ハッキリ言うわ!あの子が根っからの平民なんてあり得ない。品が良すぎるもの。
あの子はきっと貴族の教育を受けているわ……いいえ生まれた時は貴族だった筈……一定の年齢迄貴族として育った……そして……」
「没落して平民落ちでもしたか?だが両親は隣国の平民、それも冒険者だそうだな?実子ではなく亡くなった妹の子供だとか?」
国王がオルフェルに聞く。
オルフェルは考え込み
「実は……色々調べていく過程でひとつ可笑しな事が有るのです。確かに実の母親と呼ばれる養父の妹には娘がおりました。しかし3歳の時に流行り病で死んでおります。
その後に子を成した形跡はありません。極最近仕入れた情報ですので、陛下に送った手紙には記しておりませんが……」
「では……あのラフィーネが平民である確証もないのね?そして貴族である可能性も出てきた……のよね?」
王妃は思案顔。そして……
「記憶喪失は本当なの?あの子は絶対何かを隠しているわ。でもそれなら……真眼……魔法の真眼には元貴族で有ることも見える筈……なのに……見えない……隠されている……?!……」
王妃は何かを思いつき、顔をあげた
「あの子が……ラフィーネが[聖女]なのではなくて?」