【81】聖女様の初めて(3)
わたしが布団を被ってすすり泣いていると、隣が重く沈んだ
「ラフィーネ。どうした?眠れないのか?」
わたしは布団の中で首を振った
「不安だったら、ぼくが眠れるまで傍に付いていてあげるよ?」
そういうことじゃなくて……
「あっあの!」
わたしは布団を跳ね上げ、ベッドの上にちょこんと正座した
「ハッキリと……仰って下さい……。
こんなの……哀し過ぎます」
「ぼくとの結婚が嫌だったの?」
嫌じゃないですよ!
こんなに格好良くて素敵な王子様みたいな……王子様だったわ!
そんな人と結婚出きるなんて……夢のようなこと……。
夢かもしれないけど……。
でも今のはわたしのセリフ
──わたしとの結婚はホントは嫌だったの?
わたしが目覚める以前のラフィーネを大切にしていたから、仕方なくわたしを娶ってくれたの?
結婚式の後に言ってくれた『愛してる』って言葉は、嘘だったの?
やっぱり……
「わたしが元のラフィーネさんには遠く及ばないのは知っています。とても純心で天使のようなお方だったのでしょう?」
聞いてますよ。
とても大切に慈しんでいらしたと……。
それがこんな人格に成ってしまって……。
きっと結婚式から今までの間に幻滅されたに違いないと思う……。
それに……
「こんな貧相で棒切れみたいな体……。
抱きたくない気持ちも分かります。
それなら。はじめからそう言っていただければ、良かったのに……。
初夜なのに……放って置かれて……。
いくら女性らしからぬ身体だって言っても……。
わたしだって女の子なのです!」
わたしは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら訴えた!
はじめから身体のぬくもりも共有し合えない関係を、これからもずっと続けていくなんて耐えられない。
そんなのならば、結婚なんかしないで一人で夜を過ごした方がずっとまし!二人なのに、一人ぼっちよりもずっと寂しくて哀しい日を迎えるなんて……
オルフェルはそんなわたしを見て、ビックリしたような表情で固まって……
「ああ……そういうことか」
オルフェルは髪を掻きあげた。その仕草が妙に色気があり心がざわついた
「ラフィーネ。ごめん。そういうつもりじゃ無かった。
本当に悪かった。ごめん……」
オルフェルは急に慌てて、わたしを優しくハグして背中をさすって落ち着かせる
「ラフィーネ。あのね。ぼくは……」
そうして話をしてくれた。
つまりはわたしは前の人格のラフィーネを誤解していて、天使のように純心で天真爛漫な子供のようなあどけなさも合わせ持った、非の打ち所のない素敵な女性像を描いていた。
けれど実際は、まさに一桁の子供のようで言動も小さな子供。少女を事件に巻き込んだ責任も感じ、保護すると決めたみたい。ただ保護する過程で[愛おしさ]を感じて、ラフィーネを生涯守ると誓い、あらゆる難関を排除し結婚に至ったのだと言う。
そしてそんな子供のようなラフィーネと結婚後も、夫婦の夜の営みをするつもりは無かったらしい。
それが突然わたしという人格が解放された。
戸惑ったのはオルフェルも同じだったようで、結婚はしたもののどのように接していいのか迷っていたみたい。それで一度二人で話合おうとしたけど思いの他忙しく、気が付いたら夜も更けたので、疲れただろうから一人でゆっくり眠って貰おうとわたしを気遣ったみたい
「では……わたしを嫌いで、一人にしたのではないの……ですか?」
「もちろん。ぼくはラフィーネが好きだったし、今の君も変わらず好きだ。でも君は今日ぼくと会ったばかりだろう?それでいきなりラフィーネを抱くのも何だか気が引けてね」
わたしも結構身構えていたから、その気持ちも分かる。
オルフェル様は優しくて紳士な方だと思うけど、わたしにはまだまだ未知の領域が多すぎる。何よりもわたしをどう思っているのかも、良く知らない
「あの……。わたし……。
結婚式でこの人格が生まれて、そのあとオルフェルと一緒に国王陛下とお会いしたり、披露宴でご挨拶したり致しました。その最中にだんだんとわたしに嫌気がさしたのでは、ないのですか?」
「そんなことは全然ない!むしろ一緒の時を重ねるにつれ、ラフィーネの事を気になり、もっと知りたいと思った。そして……君と夫婦に成れてぼくは幸せを噛み締めていた……」
何だか……心の凝りが取れていく。
誰かに求められるって……凄く嬉しいこと……。
「あ……ありがとうございます」
それから……。
わたしとオルフェルはお互いの気持ちを語り合った。
そしてしばらくはもっとお互いを知りたいと思った。
美味しい物を一緒に食べたり、同じ空間で過ごしたり、そんな日々を過ごしていきたいと思った。
オルフェルこんな提案してくれた
「ぼくとラフィーネはもう夫婦だけど、恋人の楽しい時間をすっ飛ばしてしまった。だから……今日からぼくとしばらくは恋人のように過ごさないか?
そしてお互いをもっと知って、気持ちを確かめ合う時間が欲しい。
夫婦の時間はそれからでも遅くないと思う。
どうかな?」
わたしはその提案を受け入れた。
期間は一月。
隣のフリーデン王国へ、フリーデン王国第三王子アーサー殿下の侯爵就任を祝う式典があるから、新婚旅行さながら出席する話になったの。
その頃に丁度、一月が経つみたい
それまでは……お預け……。
──何をお預けかって?
それは……秘密です。
だって……。
言葉にするのは……恥ずかしいから……。




