【8】聖女様の屋根裏部屋(8)
成人となる15歳の誕生日まで、あと三日となった。
きっとその日。
叔父家族はわたしの誕生日を盛大に祝ってくれるだろう!
──わたし抜きでね……。
だってその日はわたしがアスタリス侯爵に成る権利を持つし、その権利を取り上げて叔父が侯爵代理でわたしの後見人の地位から、間もなく侯爵に成れるだろうから!
署名は誕生日から更に三日後だけど、誤差の範囲ってことでしょうね。
ケーキのひとつでもくれたらいいのに……。
それに可笑しな事に、わたしはまだ毒入りスープを飲まされているの。変態伯爵に売り払われるのに、毒で死んだらどうするつもりだろう?
前金も貰っているのにね。
これ以上、成体に成長しないように少女体型を維持させるつもりかしら?
まあ。不死身のわたしは死ねないけどさ
「あいつら。みんな死ねばいいのに」
思わず本音を洩らしてしまった。
でも誰も聞いて居ないから、良いよね。
そうそう!今日ね。新しい魔法を覚えたんだ。
浄化の魔法。
部屋があんまり臭すぎるし、今日の水は雑巾を絞った痕跡があり過ぎて飲みたくない。
それで『綺麗に浄化できたらいいのに』なんて想像したら、頭に新しい呪文が浮かんだ。
それで早速唱えてみたの
「ピュアラ!」
するとどうだろう……部屋全体がポワーと微発光した。
クンクンクンクン
匂いを嗅いでもしない。
この空気の流れの悪い部屋の淀んだ感じが、綺麗サッパリ無くなった!
それに水!
雑巾のせいで濁っていたのに、清水のように清らか!
コップで掬って飲んでみたの
「美味しい!」
びっくりするくらい美味しいの!
喉から身体中に染み渡る感じ!
「あー生き返る!」
わたしはベッドに仰向けになる。
ベッドのシーツは垢で汚れているけど、匂いは全然しないの!今夜はゆっくり眠れそう!
でも起きたばっかりだけど、まだこのシーツで寝てみたい!仮眠する前に半分ご飯を食べよう!
パンを半分食べてスープを一口
──ん?
なんか違和感が凄い……。
何だろう?
もう一口……
──あれ?
これってもしかして……。
だって……自動治癒魔法[キュリオネ]が発動していない。
ということは……
──毒も消えてる!
唱える前にふたくち飲んだから、猛毒だったのは間違いないもの!これは凄いわ!
致死量の猛毒すら浄化出来るなんて!
なんて!なんて!なんて!
「何で!今頃!覚えんのよ!」
もっと前にこの魔法を開発していたら、こんなにも日々戦々恐々として毒に怯えて生きなくても良かったのに!
ちょっと脱力してしまった。
でもね。毒なしスープ美味しいよ。
美味しいけど何か物足りないの。
あの猛毒を含んだ時、舌に感じるビリビリとした痺れ!
あれが意外に良いアクセントになっていたのかも?
でもまあ。いいかな?
明日は半分猛毒入り食べて、寝る前の夕食は浄化バージョンにしようかしら?
もうそろそろ猛毒スープともサヨナラだろうしね……。
☆
そしてこの日はいつになく深い眠りに落ちた
☆
真夜中。物音がした。
何だか廊下に人の気配がする。
それも息を殺した人の気配が……。
『もしかして……嫁入り前に襲われるかも?』
男の使用人か誰かが、わたしを目当てに来たのかもしれない?
…………いや。それはわたし。自分を買いかぶり過ぎだ。
襲うならもっと可愛い年頃のメイドは何人もおる。わたしなんて少女趣味の変態以外、眼中に入らないだろう。
でも真下に人の気配がする。
ガタン
物音がして怖くて思わず毛布を被る
「やっぱりそうだ。俺の勘に間違いなかった。
天井に隠し部屋がある筈だ」
声が聞こえて直ぐに
ガタ!ガタ!
音がして床が浮いた!
梯子が掛けられたのだ。
梯子の先っぽが天窓から伸びる月明かりにボーッと光っている。
天井と床の多機能蓋がギーっと開き、頭が覗く
──誰か来た!
わたしはベッドの端、壁際に貼り付いて毛布を被ったまま空気に成る。
ギシ。ギシ。ギシ。ギシ。
梯子を昇る音だろう。
バタン
蓋が倒れたの?
ギーシ。ギーシ。
誰かが完全に屋根裏部屋に侵入した。
直ぐ近くから人の息遣いが聞こえる。
もしかしてわたし?……ううん……やっぱり
──狙われているかも!?