【7】聖女様の屋根裏部屋(7)
『で。わたしに何の用かな?』
きっと『清く正しく死んでくれ!』なんて、署名させて後腐れ無く楽に殺してくれるつもりかも?
でも一年早かったら殺せたかもしれないけど、残念ながらわたしは怪物になってしまった。ただの死ねない怪物だけどね。
肥え太った叔父様はお腹を揺らしながらわたしに言った
「お前が15歳に成ったら……分かっているな」
「…………」
わたし今は馬鹿を演じているから、無言で首を傾げてみる
「15歳に成ったらお前はこのアスタリス侯爵家を次ぐ資格を得る。だが……お前は病だから領地運営は無理だ。
だからお前の叔父。このダルイ・ダルソンが侯爵になるつもりだ。二週間後。立会人が来る。
その時、私に爵位を譲る署名をして貰う」
「…………」
──わたしは至って健康よ!
虚弱体質&栄養失調で成長が大分阻害されているけどね。それよりも貴方達の方が病気でお先真っ暗よ!
「初めはお前を殺そうと思った。だが、それは諦めた。
もしお前が大人しく署名するならば、この屋敷から出してやろう」
「…………」
あら本当?どういう風のふきまわしかしら?
ここで叔母のエフレアも、二重アゴをフルフル揺らしながら参戦する
「実はね。貴方に興味がある殿方が現れたの。
とても素敵な伯爵様よ。貴方のような出来損ないに3億エルを支払ってくれるというの。
本来は此方が持参金を持って行かなければならないのに、結婚式も必要ないのですって!どう?魅力的でしょ?」
──貴方達にはとっても魅力的な提案だって分かったわ!
でも伯爵なんて沢山いるし、一体全体こんな『出来損ない』に大金を支払ってくれる物好きは、何処のどなたなの?
「アルゼン伯爵という、とても紳士で素敵な殿方よ!
貴女。あの汚ならしい屋根裏部屋を出て贅沢が出来るわよ?」
──アルゼン伯爵?
誰だっけ?聞いたことがあるような無いような……。
── ?!? ──
そうだ思い出した!
何だか幼い見た目の少女が大好きで有名な、変態伯爵だ!
しかも身分が高貴であればある程燃えるという、真性変態!確か……もう還暦を越えていたような?
──おじいちゃんじゃない!
これはあれだ。わたしもうすぐ15歳なのに、栄養失調で見た目の成長が12歳で止まったままだから、エロじじいのお眼鏡に叶ったんだ!
こんなの死んでも嫌に決まっているじゃない!
「…………絶対…………死んでも…………嫌です…………」
馬鹿の演技を続けるよりも、エロじじいの破壊力が上でしたわ!つい……本音を盛らしてしまった
「貴様!此方が下手に出ていれば付け上がりよって!
もとより貴様に選択権は無い!お前が署名を済ませれば、問答無用で伯爵の元へ送り届けてやる!
育ててやった恩を無下にしおって!」
お陰さまで。
わたしは毒で。
スクスク育ちました。
めでたしめでたし……じゃないわよ!
わたしは思い切り睨んでやる!
バチン!!!
エフレア叔母さんに思い切り頬を叩かれた!
わたしの棒のように細い足では踏ん張れず、床に倒れ込んだ。
クスクスとメイド達が笑っている
「貴女には選択権があるとお思いですか?
本当呆れた!なんて強情な女かしら?
はぁ~。私たちの愛情を蔑ろにするなんて!
もう決定事項よ!前金も既に貰っているの!
貴女に選択権はありません!
もう下がりなさい!今日はご飯抜きですわ!」
ご飯抜きも何も……。もう夕方だし。朝ご飯パンを半分食べたし。猛毒スープも半分飲んだし。残りのパンと猛毒スープあげましょうか?
あまりに美味しくて、天国へ直行間違いなし!
そんな思考も何のその。
わたしはメイド二人に両腕を持たれて、引き摺られるように部屋を出されたわ。
途中食堂の脇を通った時に、美味しそうな匂いと共に視界に御馳走が入って、お腹が盛大に鳴ったのよ!
その音に驚いてこっちを見たのは、金髪白豚なシャノン。
食堂で今か今かと晩餐を待っていたのだ。
わたしと目が合うとニヤリと笑って立ち上がるやいなや、近くの鳥の丸焼きを皿ごとわたしに投げつけたの!
いつも物を投げているからコントロールは意外に良くて、見事わたしの頭に当たった。
皿が当たった額が割れ血が流れ出す。
朝日にコケコッコーと鳴く朝日鳥の丸焼きは、わたしの顔に命中し、お腹の中の詰め物が盛大に床にばら蒔かれた!
シャノンはニッコリ笑って
「あら?なんて様かしら?
貴女には床のゴミがお似合いよ!
誰かお土産に持たせてあげなさい!」
そう嘯くと満足気に椅子に座りながらシャノンは、わたしが悔しそうに涙を流して震えている姿を眺めて悦に入っていた。
本当は思いがけない御馳走が手に入って、嬉しくて天にも昇りそうな気持ちだったのはご愛敬……。
ホントに最高に美味しかった!
神様!有り難うございます!
生きてて良かった!