【49】聖女様と領主様(1)
8月。夏休み。赤ちゃんが生まれた。
もちろんノルンの子供。
男の子だった。
耳がお母さんとそっくり!
しっぽもあるし、獣亜人の特徴が良く出ていた。
目もクリクリしていて凄く可愛いの。
まだ目は見えていないらしいわ。
名前はルイ君に決まった。
わたしはお姉ちゃんになった。
生まれて暫くして、お父さんはまた冒険者の街カムスへ単身赴任となった。ギルドからの依頼で新人を指導する正式な教官になったのだ。
だから今は臨時ギルド職員な感じで、一攫千金は狙えないけど安定した職業になったの。爺ことギルドマスターのノーフィスの配慮ね。コネとも言うわ。
ノルンが安心して子育てが出来るようにらしい。ガイもつべこべ云わずに素直に職を受けていたわ。
今は毎日アマンダとノルンの二人の母さんが、一生懸命ルイ君を育てている。夜泣きも凄いけど、騒音に聞こえないから不思議。
9月で新学年になり、わたしは毎日律儀に学校へ通った。
あの救出騒ぎから何故かいつもジャンが待ち構えていて、仕方ないから一緒に登校してる。もちろんシェリーちゃんとソフィアちゃんも合流して四人で登校してるの。
ジャンはわたし達女子三人の後から、一人で付いてくる感じ。
わたしは何だか気分的に、あの日に貰った蝶の髪飾りを付けてみた。お洒落に敏感なシェリーちゃんが食いついてきた
「アイラちゃん。その髪飾り凄く素敵!
どうしたの?高かったんじゃない?」
「えっと……。覚えてる?以前案内した男の子の話」
「うん。覚えているよ。
アイラちゃんの初恋の相手でしょ!」
──ちょっ!違うわよ!
誰があんなガキと!
そりゃ。ちょっとは格好良かったけど、貴族と庶民は相容れないから……無理なのよ
「初恋なんかじゃないってば!
わたしは歳上が好みなの」
「はいはい。そう言うことにしとくね」
シェリーちゃんが一人で納得している。
夢見る少女は止まらない
「その男の子が御礼にってくれたの。いつもは大事にしまっていたけど、何かこの青いワンピースに似合うと思って。どうかな?」
「うん!凄くピッタリだと思う!ねぇ!ソフィちゃんもそう思うでしょ?」
「うん!わたしもいいなぁ~って思ってた!」
「何だよそんなの!」
いきなりジャンが水を差してきた
「別にそんなの!俺だって」
これはあれだ。嫉妬しているんだ。
この頃ジャンはわたしへの好意を隠さない。
いつも「アイラを守る!」を口実に登下校にくっついてくるけど、本当はわたしの傍に居たいと思っているんじゃないかな?
だってわたしが他の男の子とお話すると、それだけで不機嫌になるから、わたしの自惚れではないと思うの。
でもわたし……同年代はちょっとアレで年上好みだから、正直ジャンのそんなところもガキ臭くて、あまり好みではないわ。
だからジャンがとやかく言っても、わたしには響かない
「ジャン。わたしはその男の子に関係なく、この髪飾りが大好きなの。いちいち反応しないでくれる?
ちょっとウザいよ」
「ごめん……」
しゅんと項垂れて、それっきり黙ってしまった
「何だか可哀想。アイラ。ジャン君には冷たいよね」
これはジャンを未だに好きなソフィちゃん。ジャンもわたしじゃなくソフィちゃんを好きなら、相思相愛で上手く収まるのにね
「わたしはそういうのに、いちいちおもねったりしないの。わたしはわたしだもの。
わたしが好きな物は好きな時に身に付けたいの」
「アイラちゃんて、体が小さいのに、凄く大人だな~って感じる時あるよね」
「ソフィアもそう思うの?わたしもそうなんだ。
それにしてもアイラちゃん。
どうして何時も丸眼鏡しているの?
もう少しお洒落な眼鏡もあると思うんだ」
まあね。わたしの実年齢はあなた達よりも4歳も上だけど今はお洒落に敏感な思春期真っ盛りの13歳設定だからね、そう思うのも無理はないよね。
それに眼鏡はわたしの出自を隠す為だから、お洒落でない方が良いのです!
「そういえば!御領主様が代わったって話知っている?」
シェリーちゃんが、いかにも重要な風に聞いてきた
「えっ?そうなの?知らない!」
ほんとは知っているけど、ここは乗ってあげよう
「それでね!前の侯爵のお嬢様。行方不明なんだって!」
それ。わたしの事ね
「へぇー。そうなんだー。お嬢様って幾つくらいなの?」
「ママが言うには17歳なんだって……。
でも……これは噂だけど……お嬢様!殺されちゃったんだって!
しかも……毒殺らしいよ!」
まあ。当たらずとも遠からずだね。
噂は真実をカスっているわね。
歳をわざわざ聞いたのは、わたしとは無関係であると強調したいから。
誰もこの小柄な13の女の子が、実は17歳の侯爵令嬢だって連想できないでしょう?
それにしてもわたしがその話を初めて聞いたのは、サラさんの務めているカフェ。
わたしがレイア時代の専属メイドだった女の子。
これは数日前の出来事ね。
わたしがカフェに久し振りに顔を出した時、いきなりまた、わたしの顔を見て泣き出したの!
よくよく理由を聞いてみたら、侯爵令嬢のレイアお嬢様が『毒殺されていたらしい』とまことしやかな噂が流れたから、そのレイアと顔立ちが似ているわたしを見て感極まったみたい。
いきなりわたしが死んだニュースを聞かされて、わたしは思わずニンマリしてしまった。
だってこれでわたし!
──自由ですもの!




