【47】聖女様と新たな家族(6)
いきなりこのボンボン君の案内を頼まれたわたしは、任務を遂行すべく、ずっしりとした硬貨の詰まった袋をカバンにしまった。
わたしは右手を出して
「わたしはアイラ。ただの街娘。今日だけの付き合いだろうけど、案内するわ」
「俺様……えっと……ボクはアーサー。えっと……街の……何だっけ?商人?……の息子だと思う。
案内を頼む」
だと思うって……それから俺様からいきなりボクにグレードダウンした。
きっと俺様なんて使い慣れていないのかな。
わたしは右手を出しっぱなし。
気付いたアーサーも右手を出して握手した
「よろしくねアーサー」
「よろしく……アイラおじょ……」
「アイラでいいわ」
「よろしくアイラ」
「案内するに当たっていくつか良いかしら?」
「なんだよ?」
「わたし達。今だけは平等なお友達ってことで、上から目線で命令したり、ぞんざいに扱わないと約束してくれる?」
「ああ。約束する。お前は友達。命令しないよ」
「それと……」
「まだあるのか?」
「まあ。大した事ないわ。
貴方にとってわたしはレディには程遠いかもしれないけど、女の子は見た目を馬鹿にされたりするのは凄く嫌なの。もしわたしを馬鹿にしたらその時点で案内は御仕舞い。わたしは嫌な物は嫌!嫌いな物は嫌いってハッキリと貫く主義だから、礼儀は守って頂戴」
「さっきは悪かった。みんなボクが声を掛けると走って逃げちゃって、イライラしていたんだ。
つい当たってしまった。許してくれ」
──あら?意外と素直
それにやっぱり貴族ね。どことなく気品が溢れている。
たぶんこのアーサーを避けたと云うよりも、フード被った護衛が怖くて逃げたと思うの。
それは……黙っていよう。
わたしは一旦手を離すと、こんどは左手で右手を掴んだ。
アーサーはビクッと驚いて
「な……なに?」
「はぐれないように手を繋ぎましょう!
ここは人通りも多いし、結構迷子に成りやすいの。
あなたには護衛が付いているから大丈夫だと思うけど、わたしも案内するからにはキチンと役目を果たしたいの」
「ああ……。そういうことなら……」
何だか顔が赤いけど……まあ。いいかな?気にしなくて。
どうせ今だけの付き合いだし。
わたしはアーサーを引っ張って露店に繰り出した。
護衛のお姉さんにはお母さんのいるお店を知らせて、そこに伝言を頼んだ。ここにいきなりアマンダ母さんが現れたら興醒めしちゃうだろうからね。
護衛のお姉さんが、わたしも後でお母さんのいるお店に送ってくれるって!
そういうことで、資金も確保したことだし!
楽しまなきゃ損だわ!
先ずは喉が渇いたようなので、果汁水を選ぶ。
ひとくち飲んだアーサー。目を丸くして
「なんだこれ!凄く旨い!」
「でしょ!」
貴族邸ではマナー講座の一環で、紅茶ばかり出ていたから、わたしも初めて飲んだ時には驚いた覚えがあるの
「これはね。果物の果汁なの。季節によって果汁水にする果物が違うから、味も変わっていくの。
それも含めて楽しむのよ」
「へぇー」
「それとね。こういう生物は人通りの多いところで頼むのよ。どんどん売れるから新鮮な物が多いの。
売れないところは、下手すると腐っちゃったりするから、気を付けないと」
「アイラは物識りだね」
「受け売りよ。お母さんが教えてくれたの」
お母さん……っていう単語に少し顔が曇ったような気がしたけど、ここは触れない方が良さそう
「お腹空いたでしょ!次はあなたの落とした肉串に特攻よ!」
わたしはアーサーをグイグイ引っ張っていく。
まあ。わたし……実年齢17歳だし、良く考えるとアーサーはまだ子供だし、お姉さんがしっかりとリードしないといけないわ!
「うわ!これも旨い!家で出されるステーキも旨いけど、この肉串のソースがちょっとピリッといい感じだ」
「それはソースじゃなくてタレって言うの。
お店によって味が違うから、それが個性になっているわ!お肉にもランクがあって、安いのは赤身だけと、反対に脂身だけとか味気ないけど、高いのは赤身と脂身のバランスが最高なの!あなたの家のステーキには敵わないかもしれないけど、これはこれでイケてるでしょ!高いヤツよコレ!」
「イケ……てる?」
「イケてるは庶民の言葉で『いい感じ』のこと。
時々気に入った女性にも使ったりするのよ」
「そうか……イケてる……か」
アーサーは暫く思案していた。
そしてお互い肉串を平らげると、アーサーはわたしの両手を握った
──えっ?なになに?なんなの?
アーサーはコホンと咳払いすると
「アイラ。今日は凄く楽しい!君のお陰だ!
君は最高にイケてるよ!」
そしてハグをしてくれた。
わたしは年甲斐も無く、ドキドキしてしまった。
何故か顔が真っ赤になった。