【45】聖女様と新たな家族(4)
今は5月。
ノルンさんが家に来てからこの一年とちょっと、色々なことが起きた。
先ずはノルンさん。今はノルン母さんと人前では呼んでいるけど、二人きりの時には互いに呼び捨てだからノルンにするね。
ノルンは父さんが単身赴任中の三ヶ月間。本当に良く頑張ったの。料理も洗濯も後片付けもみっちり仕込まれて、今は人並み……とはまだ行かないけど、見違えるように上達したの。
以前は野菜の皮を剥くだけで、野菜の大きさが半分以下になっていたけど、今は綺麗に剥けるようになったわ。
味付けは……まだ美味しいとは程遠いけど、人が何とか食べられるまでにはなったのよ!
他には洗濯や後片付け。とても苦手で不器用だったけど、お互い根気よく続けてアマンダ母さんはとても助かっていたみたい。
そしてノルンが来てから3ヶ月がすぎ、ギルドの二階ホールを借りて、仲間だけの簡単な結婚式パーティーをしたの。みんなとても喜んでくれて、ガイは「上手くやったなこのロクデナシ」なんてみんなにバチバチ叩かれて手荒な祝福をされていた。
ノルンさんはアマンダ母さん特製のウェディングドレスを着て、それはそれは綺麗だった。
結婚まで3ヶ月も掛けたのは、ウェディングドレスをノルンに着せてあげたかったのもあるの。毎日夜にコツコツと縫製して、手作りしていたの。
みんなが祝ってくれた、とても素敵な結婚式だった。
こうしてノルンは正式に家族の一員になったの。
でもわたしが聖女であることはノルンには秘密。
[幻のポーション]のくだりも、もちろん秘密。それが結婚の切っ掛けだからね。秘密にしないとね!
そしてノルンは南街とカムスを行ったり来たりで、ガイのサポートとも兼ねて冒険者もしていた。ちゃんと料理や洗濯、後片付けも出来るようになっていて、冒険者仲間からは
「あのズボラとガサツで有名なノルンちゃんが……」
なんて驚かれていたみたい。
それでノルンは
「全てアマンダのお陰です!わたしはアマンダの忠実な僕です」
端で聞いたら誤解されそうな発言をしていた。
ちょっと冒険者の皆様は語彙力に難がある方が多いから、ノルンの言いたいことは分かってくれたらしく、アマンダさんの株もとても上がったみたい。
そしてわたしが来て丸二年が過ぎ13歳の誕生日パーティーも無事行われたの。
わたしは一つ歳を重ねて順調に見た目はまだ小さいけど、なんとか13歳に見て貰えるかな?
髪は少し伸ばして三つ編みの御下げにしているの。丸眼鏡は相変わらず。
ただ時々お友達の女の子から
「アイラちゃん。何だか綺麗になったね」
なんて褒められることが多くなった。
胸も絶壁から少しは女性らしく成長したよ。
ようやくこの胸にも栄養が届くようになったかな?
念願だよ……せめて人並みに成長しますように。
誕生会はね。
前は親友のシェリーちゃんとソフィちゃんの二人だけを招いた、慎ましやかなパーティーだったけど、今回はお友達の数を増やしてお庭でパーティーしたの。
わたしの二人のお母さんが腕に縒りをかけて、料理を沢山作ってくれた!
ジャンとも仲直りしたよ。まだちょっと苦手なままだけど、それでも悪戯や悪口を云わなくなって成長した。
ただねわたしに
「お前が父さんを助けてくれた。だからこんどはオレの番だ。オレが一生をかけてお前を守ってやる」
ちょいと誤解されそうな決意をされた時には、流石に引いた
「重いから……。気持ちだけ受け取って置くから」
そう軽く辞退したけど、本人は至って本気みたいで、体を鍛えたり忙しくしていた。
誕生会には男のお友達も呼んで……何気にシェリーの好きな男の子も混ぜておいた……楽しく終えました。
そして今……5月ね。
「ウェ!ウェ!ウェェェ!気持ち悪い」
家の中で吐き気を催しているのは、ノルン。
これはツワリ。
そうです!ノルン!無事妊娠したの!
今は妊娠七ヶ月目。8月には赤ちゃんが生まれるみたい!
これでわたしはお姉ちゃんになるのね!
☆☆
そんなある日。わたしはローレンの中心街、通称[中街]へアマンダ母さんと共に馬車で用足しに行ったの。
アマンダ母さんの刺繍の腕が認められて、中街の綺麗な高級服の店から依頼でドレス生地に刺繍を施して、それを卸しに行くの。
だからわたしも付いて行ったわ。
ノルンは家でお留守番。妊婦を一人にはしていないよ。
久し振りに冒険者の仲間を呼んで女子会を開いてる。
ジャンのお母さん……元のパーティーリーダーゴメスおじさんの奥さんも手伝いに来てくれて、ノルンは凄く楽しみにしていたわ。
わたしは中街でお母さんがお店に行っている間、中街の露店街を見歩いているの。
中街にはお母さんが依頼を受けた高級店が軒を揃える[中央通り]と一般庶民が買い物をする広場がある[裏通り]があって、その広場の露店目当てにわたしは足を伸ばしているの。
露店には美味しい食べ物も揃っていて、肉串とか、お菓子を貰ったお小遣いで買って食べるの。
そしてわたしが一人で満喫していると
「おい!そこのお前!」
いきなり呼び止められたのよ!