【42】聖女様と新たな家族(1)
わたし達はようやくカムスの街から、ローレンの南街へ向かったの。ギルドが特別に馬車と護衛を用意してくれた。
護衛はゴメスおじさんとその相棒でもある剣士のヴァランと副隊長のゴーザ。そして救助隊に参加した色男のターインさんの4人が引き受けてくれたの。
馬車にはわたしとお父さんのガイ。そして何故かリスの獣亜人のノルンさんが同乗している。
そして向かいの長椅子にガイ父さんとノルンさんが隣合って……というよりもノルンさん。ベッタリとガイにくっついてる。ガイの逞しい片腕に両腕を回して頬擦りしてる。
胸もしっかりと当たっていて、ガイ父さん。目でわたしに訴えかけている
「お父さん。あまり娘の前で浮気相手とイチャイチャしないでください」
「浮気じゃないよ!ノルン!本気の本気だから!」
「アイラ……からかわないで何とかしてくれ」
口で言っても少し冷たく突き放しても、めげずに熱く絡み付くノルンに根負けしたガイ。今はアマンダ母さんにどう言い訳するか思案していると思う。
ノルンさんは、どうやら本気でガイに惚れたらしくて、パーティーを脱退してガイのサポートに回るという。
小さいけど結構ムチムチして可愛い。
もうガイの2番目の奥さんになる気満々で、聞く耳も持たない。
道中元パーティーのリーダーだったゴメスおじさんに助けを求めても
「ノルンはこう見えてしっかりしている。
それにパーティーを辞めたのだから、俺の出る幕はないな。せいぜいアマンダさんに優しく撫でられることだな」
アマンダ母さんを怒らせるなってことね。
他人事のように楽しんでいるみたい。
そんなこんなで南街のギルドに到着!
ギルドマスターの爺は、カムスの街の違法賭博の余波で掛かりきりになり、しばらくは戻って来れないみたい。
だからここでガイはギルドからと、ゴメスおじさんのパーティーから結構な金額を受け取ったの。
父さんはゴメスおじさんに
「こんなに貰えねぇ。俺はアイラを運んだだけだからな」
「何を言っている。アイラちゃんの事は秘密だろう?
だからこの報酬の殆どはアイラちゃんの物だ。
返すなよ。これはいざという時、アイラちゃんの為に使ってくれ。お前達に命を助けられたんだ。
命がなけりゃこんな御礼も出来なかった。
金は半年もすれば貯まるけど、命は一つしかないからな。俺を家族に逢わせる機会をくれて有り難う」
そうゴメスは言って、辞退しようとする親友の好意を決して受け取らなかった。だからガイはアイラの為に貯蓄しようと決めた
そして……家路に向かった。
家族水入らずと行きたいところだけど、もちろんノルンさんが漏れなく付いてきた。
何度もいうけどノルンさん。わたしの実年齢と同じ16歳!見た目が随分と差がありますが……何か?
ノルンちゃんはわたしと殆ど身長が変わらないけど……小型のリスの獣亜人だからね……でもムチムチボディーで出るとこはしっかり出てる!
わたしはほら……12歳でも『小さいね~』なんて言われる始末でして……。
いよいよ修羅場が始まりますよ!
その前にガイ父さん。ノルンちゃんに
「客人扱いするから思わせ振りな態度を取らないでくれ」
なんて懇願していたけど
「任せて!わたしの愛は人任せにしないから!」
って答えてた。
絶対!通じていないと思う!
わたしは……傍観者に徹するわ!
そんなこんなで家の前。
呼び鈴を鳴らすと
「はーい!どなたかしら?」
なんてドアの向こうで懐かしい声がする
「あーっと。アマンダ。俺だ」
「ノルンもいるよ!」
──もうぐだぐだ。
ガチャっとドアが開き、笑顔のアマンダさんの顔が一瞬で氷付く。だってノルンちゃん。大きな胸を押し付けるように、ガイ父さんに抱き付いているのよ!
「あの……これには訳が……誤解だ」
「誤解も何も!あたしはガイさんに身も心も捧げるって誓ったの!もう!あたしはガイさんの僕よ!」
──もう!めちゃくちゃ!
アマンダさん。能面のような顔で
「ここでは何ですから。お入りになって下さい」
ガイ父さん。ベッタリとノルンさんを貼り付けて、身を縮めて屋内へ入る。
アマンダさん。わたしを見て素敵な笑顔に戻ったけど、ガイ父さんには早変わりで冷たい氷点下の眼差し。
それぞれが席に着くけど、どれ程引き剥がしに掛かってもノルンさん。
ガイ父さんの隣は譲らない
「で……説明して頂けるかしら?
もし……何ならわたし……今から荷物をまとめて出て行ってもよろしいですよ」
わたしの背中にもゾクゾクと悪寒が走る。
当事者のガイ父さん。死んだような顔をしている。
でもノルンさん。ニコニコと猫なら絶対ゴロゴロ喉を鳴らしているような、幸せな表情をしていたの!
──もう!どうなるのかしら!
目を離せないわ!