【39】聖女様と救出劇(8)
パンナは放心していた。
事態が良く呑み込めない。
仲間のノルンが助けに来て、事前に打ち合わせていた秘密の避難所に現れた。
そして助け出されて、丸眼鏡の可愛い女の子がすごく苦いポーションを飲ませてくれた。
そしたらあっという間に身体の傷が治り、それどころか体力まで回復した。全快とはいわないけど、体力の七割は戻った感じだ。普通のヒールやポーションは傷は治せるけど、失った血や体力までは戻らない。
それでも軽症のパンナが治るのは分かる。
でも重症のみんなの傷も骨折も……それどころか古傷も全て完治した。
少女はゴメスにすがり付き泣き喚くノルンを、ガイに一言言って引き剥がした。
少女はポーションを口に含むと、顔をしかめて……きっと苦くてだと思う……そして……ゴメスに口付けをした。
ゴメスはピクっと一瞬痙攣すると全身が激しく輝いて目を開いた。
でも……おかしい……。
だって……ゴメスは……助け出された時に……もう……息をしていなかったから。
だから……ノルンが抱きついて泣いていた筈なのに……。
今……ゴメスはゆっくりと目を開けて、不思議そうに少女の顔を見ている
「アイラ……ちゃん?これは……夢?……だよな」
「夢ではないですよ。ゴメスおじさん。
ジャンのお陰でおじさんは助かりました。
だから……帰ったらジャンを一杯褒めて、抱き締めて上げて下さい」
アイラと呼ばれた少女は、涙に顔をクシャクシャにして微笑んだ。
すごくすごく美しく……神々しく見えた……
「聖女……様……」
わたしも知らず知らずに涙を流していた。
涙が止めどなく流れて止まらなかった……。
☆☆☆
「はぁー良かった助かって……」
アイラは深い溜め息を付いた。
助け出された時にはゴメスおじさんは息をしていなかった。身体が硬直して、もう誰が見てもダメだって分かった。
片腕は無いし、アチコチ噛み傷だらけだし、片足のふくらはぎは食い千切られて無残な有り様だった。
それでも必死に治療した跡は窺えた。
他の人も酷い状態だった。
だからみんなに[キュール]を掛けてあげた。
白い髪の綺麗なお姉さんのパンナさんは軽症だったけど、キュールくらい朝飯前だし、1日三千回以上唱えられる計算だし、そもそもそんなに唱えるの面倒だし……それはいいか。ともかくみんなに[幻のポーション]飲ませてキュールで治療したの。
その間に蘇生魔法[ホーリーザレク]をどうやって、みんなにバレずに唱えようか必死に考えていたわ。
でも決心した。
ゴメスおじさんの命にわたしの秘密なんて、天秤に掛けるまでも無い。助ける以外の選択肢は存在しないのだから。
ジャンは今も嫌いだけど、ゴメスおじさんは大好きだ。
いつも優しくしてくれたし、お菓子も毎回持って会いに来てくれたし、何よりガイ父さんの無二の親友だから、半身みたいなものだから、絶対助ける!
助ける選択肢があるのに、選ばないなんてあり得ない。
それにもう……ジャンの悲しむ顔も見たくない。
わたしは覚悟を決めて、クソ苦いポーションを口に含んで……口付けついでに[ホーリーザレク]を無詠唱で発動させた
──初キッスだけどこれはノーカン
そんな場違いな思考をしていたけど、生きかえったゴメスおじさんを見て泣けたよ。
ホント……心の底から嬉しかった。
人の役に……誰かの力に成れたのも堪らなく嬉しかった。
そして……こんな法外な力を授かったけど、どうしようもなく有り難いと思ったの。
あの屋根裏部屋で死んだような生を送っていたけど、きっと無駄じゃ無かった。
あの時は生きたくて必死に毒に対抗して魔力の練度をあげた。ネズミのチューベエの命を救う為に蘇生魔法が使えるようになった。自分の命を救う為にも絶対必要な魔法だった。
それがガイの親友で、わたしの嫌いな友達の父親の命を救う事になった。
わたしが生きてきた全てが今日というこの日に繋がっていた。
わたしが口移しという方法でポーションの苦い水をゴメスおじさんに飲ます振りをして、蘇生魔法を発動させて命が助かった。
ゴメスおじさんの片腕も再生して、食い破られていた脹ら脛も元へ戻ったし、魔物に噛まれた傷も古傷も全て完治しちゃったよ!
みんな喜んでくれているから、バレては居ないと思うけど……きっと大丈夫だよね?