【38】聖女様と救出劇(7)
第二階層の階段部屋で夕食後、一時間の仮眠を取った。
時間は夜の9時
「アイラ。どうだい?」
ガイの指摘に背中の椅子のわたしは答える
「魔物の反応はありません」
わたしのサーチの魔法範囲は半径5㎞の球体だけど、このダンジョンでは上下の階層の情報は分からない。
だからここからじゃ、第三階層にいる遭難者の生存確認も儘ならない。先程踏破した第一階層の情報も綺麗サッパリ消えてしまった
「良し!行くか!」
爺の号令一下、第二階層を突破すべく部屋を出た。
☆☆☆
ここは第三階層の一段下がった隠れ部屋的な半地下。
人がやっと入り込めるような隙間から、身を隠すべく潜り込めた。
入口に蓋をして出入り口を塞ぐ。
ここは座っても天井が頭に付く位に狭くて低い。
広さは十分だが、寒い。
皆で横になり身を寄せあって時が過ぎるのを待っている。
これはゴメス率いるパーティー。
リーダーの剣士のゴメスと同じく剣士のヴァラン。
副隊長で盾役のボーザに、治癒魔法士のパンナ。
最後に攻撃魔法士のホメルシードが命を互いに守りあって、ここに辿り着いた。
だが、全員満身創痍だ。
それは互いに庇い合った傷。
特に酷いのはリーダーのゴメス。
片腕は無く、両足も折れている。
片足は深く抉られ、このままでは一生まともに歩けないだろう。
皆で血路を開きノルンを脱出させ、その上でこの場所に皆を誘導し、最後は一人で戦い奮闘し全身を噛まれて息も絶え絶えの所をヴァランとボーザが何とか助けて、この穴に引き摺り込んだ。
直ぐにパンナが治療魔法で傷をふさいだが、あまりに多くの傷にどうしようもなく、酷い所を優先的に治療し今はどうにか命を繋いでいる。
けれどずっと意識不明だ。
パンナは魔力回復のポーションを使いきり、魔力が自然回復すると直ぐにゴメスの治療に当てている。
でも比較的軽症なパンナはともかく、皆裂傷や骨折等の重傷を負ったままだ。ポーションで取り敢えずは傷の表面は塞げたけど、痛みは消えない。
それでも治癒魔法は皆の同意の元、ゴメスの治療に全投資している。
あれからもう丸2日を過ぎて、更に日付を跨ぐような時刻になった。
もしノルンが生き延びて無事カムスに辿り着いても、本格的な救助隊がここまで辿り着くのは、どんなに早く見積もっても三日後だろう。
おそらくその頃にはゴメスはもう……。
魔物との戦闘により大半の物資は失われ、かろうじてホメルシードが生成した魔法の水で、喉を潤している。
灯りも失い、真っ暗の中、仲間の息遣いだけが聞こえる
「外が……ヤケに静かだな?」
副リーダーのボーザがポソッと呟く。
先程までグルルグルルと魔物の唸り声がしていたのに、今は静かだ。だからといって逃げ出せない。
治癒魔法士のパンナ以外はまともに歩ける者が居ないのだ。パンナは治癒魔法が使えるので、最優先で護られたから軽症で済んだ。でも今は全ての魔力を振り絞ってゴメスの治療に注いでいる。
パンナが抜ければ、それだけでゴメスも死ぬだろう。
だから誰一人としてここから抜け出せない。
例えパンナが逃げても、戦闘力は皆無だから魔物と遭遇したら為す術なく殺されるだけ。
それはパンナも十分承知で、一縷の望みをかけてただ時間が過ぎるのを待っている
「ノルンちゃん。無事だといいな……」
白い髪の22歳のパンナは祈るように言葉をこぼした。
本当は皆……生を諦めている。
きっと自分達が生存しようがしまいが、ノルンが報告したであろう魔物の大量発生の報告を受けたギルドは対応に追われ、救助隊を編成する余裕は無いだろう。
それに……きっと有志が救助隊を結成しても、周りが止めるに違いない。
偵察に赴けばこのダンジョンの有り様は伝わるし、誰も魔物溢れるダンジョンに突入する自殺行為はしないと思う。
つまりは生きるだけ生きて……後は死を待つだけだろう。
もしくは……死を覚悟してあの魔物群れに突っ込むか?
餓死寸前で苦しむくらいなら、最期の意地で戦うのも悪くない……。
誰ともなくそんな事を考えていた。
そして静かになってから……二時間ばかり経っただろうか?
「……わたし……ノルンちゃんの事を考えていたからかな?今ね。ノルンちゃんの声が聞こえたの……」
「奇遇だな……俺も聞こえた」
パンナの呟きに、ボーザがこたえる
「私も聞こえましたよ!今も聞こえます。
何だか……必死に叫んでいるようです……聞こえる筈も無いのに……変ですね」
魔法使いのホメルシードが苦笑している。
そしたらヴァランが笑って
「そいつはイカれてるぜ!
そしてどうやら、俺もイカれたみたいだ。
あいつの泣き声が聞こえるぜ……」
そして……パンナ
「何だか……ノルンちゃんの泣き顔まで思い浮かびます」
外で激しい足音と叫び声がして、ガササっと音がして天井にポッカリと穴が開いた。
そこから覗く涙にまみれた顔!
それはここにいる筈のない仲間の笑顔!
「みんな!みんな!みんな生きてるかも!」




