【33】聖女様と救出劇(2)
ノルンのいきなりの宣言にみんなも驚いている。
シャナはガイを胡散臭そうにみて
「あんた。奥さん命の堅物だと思っていたけど、隅に置けないわね。見直したわ!
確かに欠損も治せる貴重なポーションを提供したからには、それだけの価値はあるわね。
もっとも、わたしの見立てではそのガキ一匹よりも、[幻のポーション]の方が遥かに値打ちがあると思うわ!癒し系最高ヒーレアでさえ、身体欠損までは回復出来ないわ。でもそのポーションは失われた体さえ治すとなると……。
もしそれが事実なら、そのポーションは一千万エルの価値が有るもの!手足の欠損を治せるのならば、1千万エルでも安いかも知れないわ!」
──一千万エル!
わたしの[キュール]一発がそんなに価値があるの?
それよりもガイ。わたしに目で訴えている。
ここで助けてあげないとね
「確かに父さんは堅物ですが、さっき、裸のノルンさんに抱きついていました。ノルンさんもその身を『好きにして!』と了承してました。
後でお母さんに殺されると思います」
「アイラ!てめぇ!裏切ったな!」
──てへへ
ちょっぴり舌を出す。からかい甲斐のある男よ。
現在進行形で腕に美少女を絡ませている時点で浮気確定なのだよ。
大人しく殺されるが良いぞ!
「ガハハハハ!」
コレはノーフィス。わたしの頭をまたポンポンして
「おもしれぇなあ。アイラ嬢は!
緊張もほぐれたところだし、本題に入る。
ガイ。惚気は帰ってからにしな。それと蒸し返すなよ」
反論しようと口を開き掛けたガイに釘を刺す。
ノルンさんはガイにベッタリくっついて、離れない。
ノーフィスさんはまた、わたしの頭をポンってして
「今回の救出作戦の要はアイラ嬢だ」
「おじさん。アイラでいいよ。
みんなもアイラって呼んで。その方がこの作戦の仲間って感じがするから……」
皆は了承してくれた
「ではお言葉に甘えて……アイラじょ……いや、アイラの能力に全てが掛かっている。ノルンの言葉を疑ってる訳ではないが、もし魔物の大量発生が本当ならコレは救出どころではない。
だが、このアイラの[魔払い人]の能力が効果があるのなら、それに賭けて一点突破で救出が出来る希望が出てきた。つまり我々はアイラの能力を信じ、魔物に遭遇することなく目的を果たさなければならない」
そしてノーフィスは皆を見回し
「道中。もしアイラの能力が機能不全で複数の魔物に遭遇したら、ノルンには悪いがその時点で救出は諦める。
全力で逃げるしかないからな。
だがそうでない限りはアイラを信じて突き進むつもりだ。だから!この救出劇はいわばアイラを守る戦いでもある。
しかし。アイラの歩調に合わせて現場に向かったのでは、時間が掛かりすぎるし、魔物に遭遇しても逃げ切れないだろう。
そこでガイの出番って訳だ」
なぜお父さんの出番なんだろう?
「アイラ。父さんの職業って分かるよな?」
「冒険者……だよね?」
ガイは頷く
「そうだ。冒険者だ。だけどな。
いい加減、この歳で第一線で戦うのはちとしんどくてな、この頃は若手の指導がてら荷物抱えて冒険に付き合っている。その荷物持ちが俺の目下の仕事っつう訳だ!だから今はその仕事の本領発揮っつう事で」
そしてわたしを見て
「お前を運ぶ。ポーターとしてな!」
──は?意味分からない
「どういうこと?」
「こういう事だ!」
そして部屋から消えて直ぐに戻ってきた。何かを背負っている。ニヤリと悪戯っ子のように笑うと後ろを振り向いた
「それっ…………っって椅子?」
荷物のザックの上半分が椅子になっていた。つまり……
「そこに座るの?」
「ああ。その通りだ。良く分かったな!」
そりゃバカでも分かりますよ
「アイラはこの椅子の上で、王様のようにふんぞり反っていれば良いんだ!そして魔物に遭遇したら、この父さんが全速力で逃げてやろう!どうだ?安心しただろう?」
そりゃ……自分のか弱い足で行くよりはマシかと思うけど、てっきりロバとかなんかに乗せられて行くのかと思っていた。馬は結構危ないっていうし……。
でも誰かに同乗して馬に跨がったらいけるかも?
「じゃ。早速座ってみろ!」
「いま?」
「当たり前だろ。もう出発するからな!」
「せめて……ギルドから外に出てからにしない?」
「嫌だ」
ガイがすねる
「それじゃ!みんながお前の勇姿を見れないだろう!」
「誰が見んの!恥ずかしいわ!」
大男の大きな背中にちっこいわたし荷物の上に座っている。それはとてつもなく恥ずかしい
「逆だ。アイラよ」
これはノーフィス。
「お前さんが旅立つ姿は人には見せられんからな。
その椅子の上で固まって貰って、その上から布で覆い隠すつもりだ。アイラは極秘事項だからな。人目には晒されん」
──ふう。助かった……
チラリとガイを見ると、してやったりと下品な顔で笑顔を浮かべている。さっきノルンさんのことでからかったから、その仕返しされたんだ!
──くっそ!悔しいわ!
でも……羞恥プレイ回避できて、それはそれで素直に嬉しい……