【27】聖女様と冒険者(3)
「魔払い人って何ですかぁあ?」
場違いな間抜け声で疑問を投げ掛けたのは、猫の亜人で秘書のリンさん。ここで所長のセイバスが当たり前のように説明を始める
「魔払い人とは文字通り魔を払う人のことです。
稀に治療魔法士や神官など、神から直接力を借りられる聖なる力[神聖力]がズバ抜けて強い者がいます。神聖力は魔力とはまた違うものです。
その神聖力が強い者の中にこれまた極稀に、そこに居るだけで魔物が逃げ出す者がいるのですよ。
その貴重な存在が[魔払い人]と呼ばれます」
「つまりはぁ。アイラちゃんはその貴重な珍しい能力を持っているってことですか?」
「そういうことになりますね。それが事実ならば……の話ですが」
リンの質問に答えながら、セイバスは疑いの眼差しを向ける。その時、ポンッと手を閃いたように拳を合わせるノーフィス
「そういや。お嬢さんがあの南街へ来たのはいつ頃だ」
「一年とちょっとだな」
これはガイ。ノーフィスはフムと顎に手を置き
「ここ一年。南街の魔物の被害が皆無だった。それが関係するのか?」
「だからと言って、信用するのは危険です。このアイラさんが[魔払い人]である証明ができていませんから、狂言に振り回されて痛い目に合っても遅いのです」
セイバスは信じていない。それだけ[魔払い人]は貴重な存在である。それもいきなり都合良く平民の中に紛れ込んでいるなんてあり得ない。
ここでアイラ
「証明すれば良いのですね。それなら、うってつけの存在がここにはいますね。この施設の地下に魔物が四体います。その様子を見て来てくれませんか?」
「何故それを?」
セイバスは驚く
「魔物は研究の為に捕まえて地下施設に捕らえているのは確かです。四体も合っています。けれど悪用を避けて秘密にしていたのですが?」
「それはわたしは一定範囲内の魔物の存在を感じる事が出来るから。近くにいるとスゴく気持ち悪い嫌な気分になるの。きっと魔物も同じ気持ちだと思う。
見てもらえば分かると思う」
アイラは説明した。ノーフィスは頷き
「百聞は一見にしかずだ。回りくどいのは面倒だ。
ここにいる面子で確かめりゃ良い話だろう?」
そう言って有無を言わせず五人……ギルドマスターのノーフィス。その秘書の猫亜人リン。支部長のセイバス。ガイそしてアイラが地下施設へ向かう。
階段を降り幾つもの厳重な扉を抜けると、そこには個別に檻に入れられた四体の魔物がいた。
魔物は大きな犬型魔獣二体。醜い緑色の小人のゴブリン一体。それと二メートルはある顔が豚のような人型の魔物オークがいた。それらは檻の端っこの方に踞っている。
ゴブリンとオークに至っては明らかに怯えている。
「済まねえがお嬢さん。そこの豚顔の檻の周りをグルって一周してくれねぇか?」
ノーフィスの頼みを受けて、アイラはオークの檻の周りをグルッと一周する。するとオークは巨体を丸めて、アイラから逃げるようにアイラとは反対方向の檻の奥へと移動する。他の魔物もアイラの動きに連動して、アイラから離れようという動きを見せていた。ゴブリンの怯えように至っては異常な程だ
これでアイラの[魔払い人]である信憑性が一気に増した。もし本当なら遭難したゴメスのパーティーの救出に、希望の光が見えた。
五人は直ぐにはじめの所長室に戻り協議を再開する。
ノーフィスは直ぐにアイラに質問を重ねる
「能力に気付いたのは何時だ?」
「森に行った時。魔物がいたけど、わたしを見て逃げたの。それで図書館で魔払い人の物語があったら、それかも知れないって思ってた」
「それだけだと確信は持てねぇ筈だ。だがお嬢さんは[確信]していただろう?何でだ?」
「それは学校で魔物の実物をみせて、危険性を知らせる授業があったの」
「ああ。それはギルド主催のヤツだ。あの時俺は居なかったが、魔物が檻奥に這いつくばって動かなくて困ったという報告は受けていた。まさかそれがお嬢さんがいたからか?」
「だと思うわ。あの時も能力を確かめる為に檻の周りを回ったけど、今回と同じ動きをしたから確信したの。
それに魔物の気配が分かるようになったのもあの時から。何かスゴく嫌な物が近付いてきているのが分かって……それが……」
「授業で使われた魔物って訳か?
魔物も気配が分かるってことだが、どれくらいの範囲で分かるんだ?」
「大体……半径2㎞くらい……かな?」
「「「「に……二キロぉおおお!!」」」」
あまりの驚きにアイラを除く面々がハモった!!