【18】聖女様と街娘(4)
「どうだ!レイアは見つかったか!」
ダルイ・ダルソン子爵は、報告に来た執事を怒鳴りつけた。レイア脱出が判明して一時間が過ぎた。
執事はしどろもどろしながら
「いえ……屋敷中くまなく探しても見つかりません。
屋根の上にもおりません。ただ逃走経路は判明しました」
「どういうことだ!さっさと教えろ!」
「ええ。それでは……」
執事のいうには、屋根裏部屋の天窓が壊されていた。
そこから飾り棚を梯子のように登って屋根にでで、一段低い屋根に跳び移って、屋根伝いの窓を壊して屋敷内に再侵入。三階から一階まで降りて、裏戸のカギの細工を壊して脱出。
裏庭の塀に脚立が置いてあったから、そこから塀を越えて
「……森へ逃げたと思われます」
執事の言葉に苦虫を噛み潰したような、しかめっ面をするダルイ
「あんな痩せたガリガリの女に、そんな力があるのか?
協力者がいたのではないか?」
「それはないと思われます。メイド部屋には皆揃っていたようですし、庭師は解雇されておりませんし、警備兵は旦那様のご指示で裏戸にはおりませんから、一人でも十分可能だと思われます。
そもそも屋敷の北側には誰もおりませんでしたので、多少の物音でも気付かれないかと……。
それに塀の向こう側に細い角材が落ちていて、その角材には傷が付いていました。それで諸々破壊したと思われます」
ダルイは爪を噛んだ。
状況証拠からして、レイアが脱出したのは間違いないだろう。そもそも使用人も全て入れ替えているから、誰もレイアに同情して手助けなんてしないだろう。
それどころかレイアがメイド達から散々馬鹿にされているのも知っているし、あえて放置して増長させていた。
殺すと脅したのが悪かったのか?
アルゼン伯爵の少女趣味がバレたのか?
どちらにせよ、金をケチって監視人の一人でも付けなかったのが悪かった
「おい。お前!何で見張りを付けなかった!
屋敷を総括する執事だろう!
これは全てお前の責任だ!」
「……そ……そんな無茶な……」
「無茶も何もない!それともこの私が悪いというのか?
ちゃんとレイアを見張れと言っただろう?
お前の監督不行き届きだ!」
ダルイは執事に全責任を押し付けて満足した。そして絶対見つけるようにと念を押して下がらせた。
次の日。
執事は逃げ出して、部屋はもぬけの殻だった。
別に屋敷の貴重品は盗まれていないから、泥棒扱いをするわけにもいかず、何よりレイアが脱走したのが広まれば不利になるのはダルイの方だった。
ダルイは使用人全てを広間に集めた
「皆。実は夜のうちにレイアは見つかった。
今は屋根裏部屋に戻っている。
担当はこれからは専属でジェナに任せる。
だから心配しないように。
ただレイアは病気が悪化したので、しばらく安静が必要だ。署名の立会人は後日会うことにした。
……それと、執事は今回の騒動の責任を取らせ解雇した。しばらくはメイド頭に指示を仰ぐように……。
では解散だ!皆、さっさと仕事に戻れ!
それから……メイド頭とジェナは執務室へ来るように……
話がある」
使用人達は仕事に戻った。
呼ばれたメイド頭とメイドのジェナは、執務室でダルイと対面した
「レイアはまだ見つかっていない。
ジェナ。だからお前は何時ものように屋根裏部屋へ食事を持って行くのだ。
メイド頭。レイアへの毒は止めるように。
ジェナはその食事を処分するんだ。屋根裏部屋で食べてしまえ!捨てるなんてもっての他だ。バレるからな。
くれぐれもレイアがこの屋敷に居ると思わせるのだ。
秘密を守れたら、お前達にだけ特別報酬を約束する。
出来るな。出来なければ……それ以上言わなくても分かるな?」
ダルイは脅した。
脅しに屈したメイド頭とジェナは……
「はっ。万事お任せ下さい」
「お任せ下さい!」
ペコペコとダルイ言うとおりにするしか無かった。
レイアはその日から一歩も、屋根裏部屋から出ることは無かった。担当のジェナとメイド頭だけが、レイアの生存を証明していた。