【17】聖女様と街娘(3)
食事と後片付けを終えたわたしは、お茶が用意された食卓へ付いた。
そして初めての家族会議が始まった。
そこでわたしは出来るだけ感情を抑え、淡々と自分の境遇を話した。
ここでいくつもアマンダさんには嘘を付いたの。わたしは自力であるお屋敷を脱け出した事にしたのよ。
ある屋敷はアスタリス侯爵家の屋敷ではなくて別の誰かの御屋敷。孤児のわたしは拐われて監禁されて食事も満足に貰えなくて、酷使されていた。
そしてその御屋敷を隙を付いて逃げ出し、運良く夜風に当たるため散歩していたガイに出会って助けを求めた事にしたの。
これは屋根裏部屋で事前に打ち合わせた事。
アマンダさんへガイの泥棒行為を内緒にしたかった事もあるけど、それは本意ではない。わたしがもし発見された時にガイが屋敷に侵入し貴族令嬢レイアを拐った判明すれば、縛り首になるから、わたしが自力で逃げ出したシナリオにしたの。
これはわたしがガイへ訴えて決めた
──助けてくれた恩人を縛り首になんかさせられるか!
だから貴族の身分であるのはもちろん秘密。
ガイとアマンダさんはわたしがアスタリス侯爵家の跡取り娘、唯一の後継者レイア・アスタリスなんて夢にも思わなかった……そういう事にしたの。
本当は先に名前も変えるべきだったけど、うっかり忘れてレイアのままだった。でも髪色や瞳の色、何より見た目年齢が違い過ぎるから大丈夫だと思う。わたしが生まれた後にあやかってレイアという名前が増えたみたいだから「別に珍しい名前ではない」とあとでガイが教えてくれたの。
それからもしわたしが捕まった時に、ガイ夫婦に類が及ばないように、アスタリス侯爵家に少し細工も施したのよ。
捕まった時のわたしの自白内容はこう。
わたしが天窓を壊し屋根へ上り、そこから違う少し低い屋根に移り、屋根伝いの窓を破壊して屋敷内へ再侵入し、裏戸のカギを壊して屋敷から脱走した事にした。
そして裏庭を通って近くの脚立を使って塀を越えて敷地からも逃げ仰せたことにしたわ。
その為にわざわざ天窓を派手に壊した。
一段低い屋根からの経路沿いの窓を、派手に壊した。
それを見れば、屋根から窓を壊して再侵入を果たしたと思うだろう。裏戸も一部破壊したから、そこからカギを壊して逃げたと推理してくれると思う。
元々カギは空いていたけど、それだと使用人の誰かが処罰を受けるかもしれないから、ワザと壊したの。
壊すのはもちろんガイがした。
物音を極力立てず壊すなんて朝飯前だった。
脚立は近くに置いてあったものを裏庭の塀へ立て掛けた。
それはわたし達が逃げた所とは真逆の位置に置いたの。
もしその脚立を使ってわたしが逃げたと思えば、街ではなく森の方へ逃げたと思ってくれるかもしれない。
少しは混乱してくれるかも?
このアスタリス侯爵家への細工はもちろん秘密で、アマンダさんには口が裂けても話さないわ。
だからアマンダさんは、わたしが両親縁者も誰もいない浮浪孤児で、孤児院にも入れず道にいたところを拐われて監禁されて、酷使された可哀想な少女だと思ってくれたと思う。
脱け出した屋敷の記憶も曖昧で、拐って酷使した人の顔も良く憶えていないことにしたから、色んなショックで一部記憶が飛んだことにしたの。
アマンダさんは直ぐに信じてくれた。
わたしは盗んだ事にした安物の服を着てもみすぼらしかったし、髪は梳かしてなくてゴワゴワだし、体も骨と皮だけのように痩せているし、手足も棒のように細いし、こんなのが貴族令嬢なんて夢にも思わないと思う。
わたしは食事が一日パン一個とスープ一杯しか貰えなかったと言ったら、凄く同情して泣いてくれたの。
わたしがこの家に運び込まれた時に、アマンダさんが寝巻きに着替えさせてくれたらしいけど、裸のわたしを見て驚愕したらしいわ!
寝ている間の出来事らしいけど、それを聞いてわたしの心は動揺して、キッとガイを睨み付けた。
ガイは真っ青な顔をして、ブンブン首を振った。
それを見たアマンダさん
「大丈夫よ。レイアちゃんの着替えをしたのは私。
そこにガイは居なかったわ。体はぬるま湯で拭いたけど、一度タライにお湯を張って洗ってあげないとね。
その時も安心して、ガイは近づけないから!」
どうやらガイにはこのみすぼらしい、レディの裸は見られなかったらしい。
これでも二日後に15歳の成人を迎えるレディだからね。見られたと思うと、ちょいと恥ずかしいのよ。
みすぼらしいから、尚更ね。
ガイへの疑いは晴れたけど、問題は……この痩せた体であの御屋敷を協力者もなく、自力で脱け出したと信じてくれるのかな?
叔父夫婦は頭悪そうだから、きっと信じてくれると思うわ!