【15】聖女様と街娘(1)
朝日の眩しさにレイアは目覚めた。
ボーッとして辺りを見回す。
見知らぬ部屋。
狭い部屋だけど、あの屋根裏部屋に比べたらとても清潔で解放感がある。
わたしはベッドに横たわりながら頬をつねった
──痛い!
夢じゃない。わたしはガイの助けであの地獄から抜け出したんだ!
それに朝日の眩しさで目覚めるなんて、何年振りだろう?
こんなに心地よい寝起きは、いつ以来だろう?
綺麗な肌掛け。
そして毛布。
お日様の良い匂いがする。
わたしは上半身を起こした。
改めて周りを見回す。
ガイは居ない。
ガチャ
ドアが開いてガイが部屋に入ってきた
「良く眠れたようだ。良かった。
お腹空いただろう?
もうすぐ用意出来るから、着替えて待っていてくれ」
「ありがとう。連れ出してくれて。
なんて御礼を言ったらいいのか?
この恩は一生かけて返していきます」
「冗談はよしてくれ」
ガイは手を大きく振った
「そんなつもりで助けたのではない。
ただの俺の気まぐれだ。
今日から家族になるのだろう?
ならそんな馬鹿な事は考えないで、俺の娘になってくれたら、それだけでいいんだ。
後は……もう一人の家族に会って貰う」
わたしは顔を曇らせた。
もしその人に嫌われたらどうしよう……
「心配するな。寝ているレイアを見ているし、娘にする話も付いてある。だが魔法の事は内緒にしているから、会ったらそれ以外の事を話してくれ。
レイアの口から話した方が良いだろうからな」
ガイが部屋を出て行き、わたしは小さなテーブルに置いてあった服に着替えた。
それはわたしが持ってきた服ではなかった。
でもわたしにピッタリだった。
15分くらいしてガイがわたしを呼びにきた。
わたしは部屋を出て、ガイと居間へ向かった。
そこには笑顔の素敵な、少しやつれた綺麗な女の人がいた
「レイアちゃんて言うのよね。
わたしはアマンダ。ガイの奥様になるわ。
ガイから簡単な話は聞いているわ。
これから貴女のお話も聞かせてくれる?」
わたしは頷いた
「良かった。
でもお話の前に、お食事にしましょう!」
食卓の上には柔らかそうなパンと暖かい湯気が立っているスープがあった。そして目玉焼きとベーコンが添えてあった。
わたしはゴクリと唾を飲み、お腹が盛大に鳴った
「あら?可愛い音色ね。
じぁあ。レイアちゃん。そこに座って。
先ずはお祈りしましょう」
わたしを含めた三人は、神様に今日の糧の有りがたさを祈った。そして……お食事。
わたしはパンをかじった。
凄く柔らかかった。そして焼き立てのような香ばしい香りと、小麦の甘い味がした。
こんなにもパンが美味しいなんて!
ずっとずっと忘れていた味だった。
でもあの全てが当たり前に満たされていた時よりも、今のこのパンが何倍も美味しかった。わたしは感動に震えた
「どうしたの?美味しくなかった?」
「アマンダが早起きして焼いてくれたんだ。
焼き立てだぞ」
「美味しい……凄く……美味し……」
わたしはそれ以上言葉が続かなかった。
涙が溢れて嗚咽が出て、言葉にならなかった
「レイアちゃん!」
アマンダさんはわたしに駆け寄って、抱き締めてくれた。
わたしは抱きついて思い切り泣いた。
泣いても泣いても涙が止まらなかった。
人の温もり。
心の暖かさ。
優しさ。
愛情。
ずっとずっと求めていたものが、ここにはあった。
わたしは心を空っぽにして、ずっと耐えてきたのに、その空白は瞬く間に埋められていった。
アマンダさんはずっとわたしの背中をさすってくれていた。アマンダさんも泣いていた。
ガイのすすり泣く音も聞こえてきた。
わたしは何かが決壊したように、ただ、ただ、泣き続けた。