【12】聖女様の屋根裏部屋(12)
ガイはわたしの顔をしげしげ見ながら眉をひそめた
「それにしても困ったな……」
何が困ったのだろう
「別嬪さんなのは何とかなるが、青い髪はこの辺じゃレイアしかいない。これじゃあここから出ても直ぐに見つかって仕舞うぜ」
そういえば聞いた事がある。
青い髪は魔力持ちで『青い髪を見たら貴族と思え』なんて言われていること。
こちらの王族は金髪が多いけど、わたしの母の出身国ファルシア王国では、王族はみんな青い髪をしていた。
あちらの国にだけ時折生まれる聖女様は、みんな綺麗な青い色をしているらしい。その血を受け継いでいるお母様も目の醒めるような青い色だった。
わたしはお母様に良く髪を梳かされながら
「私のお母様。そうね。貴女のお祖母様は聖女様なのよ。今も私の祖国をその偉大な力で守ってくれているの。
私はその髪の色を一番濃く受け継いでいるのに、魔力は余り受け継げ無かったわ。
昔は悔しかったけど、今は全然後悔していないの」
「どうして?お母様」
マリアお母様は、その紺色の瞳でわたしを見詰めて
「だって魔力が少ないお陰で御父さんと結ばれて、こうして宝物の貴女を授かったのだもの。
それにしても……貴女の髪の色は、聖女様そっくり。
とてもとても綺麗!
今度ね。お祖母様に会いに行きましょう!」
「うん!お祖母様にわたしも会いたい!」
結局。お祖母様の聖女様には会えなかった。
今……会いに行ったら喜んでくれるかな?
でも……送り返されたら変態伯爵と結婚させられるから、諦めよう。
わたし……もう貴族は捨てるから……。
それにしても青い髪か?
紺色の瞳も聖女様と同じだって言っていたわ。
どうにかならないかな?
髪と瞳の色を変えたらいいんだよね?
魔力でどうにか出来ないかな?
──ん?
あれ?
出来るかも!
なんか分からないけど
──出来そうな気がする!
わたしの頭にある呪文が浮かんだ
それにはちょっとガイ父さんにも条件を伝えなきゃ
「父さん……わたしも条件あります。
これを絶対守って欲しいのです」
「どんな条件だ?場合によっちゃ聞けねぇこともあるが……取り敢えず聞いてから判断する。
言ってみな」
ガイが少し警戒している
「わたし……魔法を使えます」
「魔法?」
貴族には魔法を使える者が多い。それでなくても魔力持ちは尊敬される。
ガイは現役を退いたといえ、冒険者稼業に未だ片足を突っ込んでいる。魔法の使い手には幾人も出会った。
攻撃魔法の使い手なら結構いる。
だが神聖魔法……アンデットを浄化したり、人の傷や状態異常を回復する治癒魔法士の数は少ない。
それで冒険者の中にも何人か治癒魔法士がいるが、わざわざ冒険に出て命の危険を冒さなくても、神殿に帰属し神聖魔法を行使すれば大金を稼げるので、高位の治癒魔法を使える冒険者は極端に少なかった。
レイアはどんな魔法が使えるのだろうか?
「わたし。大した魔法は使えませんが、変な魔法は使えます」
「どんな魔法だ?」
「ちょっとした変身魔法です。昔試してみたら出来ました。今はどうか分かりませんけど……」
これは嘘。今開発した……というより閃いた魔法だから、使えば初めてその魔法を発動したことになるの
「変身魔法?」
「大したことはありません。何か別の物になったり、顔が変わる訳でもありません。ただ……」
「ただ?」
「髪と目の色くらいなら、変えられます!」
「何だと!」
ガイは驚いた。そんな魔法見たことも聞いたこともない。
実際存在するのだろうか?
「この魔法使えること、絶対秘密にして誰にも教えないで下さい」
「もちろんだ。絶対秘密にする。約束する」
こんな魔法使えるとならば泥棒稼業をする者にとっちゃあ、この少女の能力は喉から手が出るほど欲しいだろう。
暗殺者にもあれば役に立つどころか、非常に危険な魔法だ。髪はともかく瞳の色まで変えられるなんて!
たぶんレイアは魔法で髪と瞳の色を変えられる事を知られたら、そこから正体がバレると思って秘密にしてほしいのだろう。だが、これにはガイも更なる条件を付け足さなければならなくなった
「分かった。その条件は飲もう。絶対秘密にする。
だが俺にも条件がある。その魔法。お前も絶対秘密にしろ。人に知られるな!人前で使ってもいけない。
良いか?分かったな?」
「はい。条件を呑みます。
人前では絶対使いません。
でも……今だけは例外。
それでは……早速唱えます」
レイアはベッドの端に腰掛けて、背筋を伸ばすと呪文を唱えた
「スタイニ!」
レイアの体全体が青白く光った。