【112】聖女様と初デート(8)
メリアベルが語るには、アーサーは王宮では殆んど離宮で母である王太子妃と共に軟禁生活を送っていたらしい。
これは別に嫌われていた訳ではなくて、王位を狙う第二王子の暗殺から逃れる為に、王太子妃供々離宮で厳重な警護下に置かれていた。
そして第二王子が失脚すると、アーサーは急に表舞台に担ぎ出され、辺境のアスタリス侯爵領の領主となった。
長年共に暮らしてきた王太子妃で母のマリー・ラフドラ・フリーデンとも、離ればれになってしまった。
心の準備が出来ないまま母と離され、特例で未成年ながら領主となったアーサーは、その重圧から自暴自棄になっていた。
それで赴任仕立ての13歳の時、難しい書類仕事を投げ出して[お忍び視察]という名目で、噂に聞いた露店街へ憂さ晴らしの遊びへ出掛けた。
だがその傲慢な性格が災いし、平民の子供達に声を掛けて案内を頼んでも、全て断られた。泣かれたこともあった。
それで不機嫌なままで、たまたま近くを通った背の小さい丸眼鏡の少女へ声をかけた。それがアイラだった
「あの子。不思議だったの。初めはね。殿下の声が聞こえていたのに完全に無視。『丸眼鏡!』って呼ばれて、ようやく覚悟を決めて相手してくれたけどね。殿下を一目見て[貴族]と気付いたみたいなの」
それなのにアイラという少女は物怖じすることなく、殿下と渡り合い、約束まで取り付けた。
それは[相手を見下さず尊重して対等に接する]こと。殿下……急に大人しくなって、アイラに従順になったらしい
「わたし達護衛騎士はみんな、目が点になったの!あの我が儘な殿下が、大人しく手を引かれて露店巡りをしている。あんなに子供返りしていたのに、途中から急に大人びて紳士のように接しだしたのよ。きっとアイラちゃんに良いとこ見せたかったと思うの」
そして最後の方では完全にアイラに魅了された。手を引かれていた筈なのに、いつしかエスコートしていた。
少しでもアイラに気に入られようと、丁寧に優しく接した。まるでアイラをお姫様のように……。
そして……アクセサリーを扱う露店で、アイラが見詰めていた青い蝶の髪飾りを買ってあげた
「殿下がね。自分から髪飾りをね。アイラちゃんの髪へ付けてあげたの。
その二人が顔を赤らめて向かい合う、可愛らしくいじらしい姿ったら!貴方にも見せてあげたかったわ!
きっとアレが殿下の初デートで、初恋だったと思うの」
「その時にプレゼントしたのが……あの髪飾りなのか?」
フェルナンデスは殿下が見詰めていた、青い蝶の髪飾りを思った
「そうね。あの髪飾り。
あの髪飾りが何故殿下の手元にあるのかといえば、こんないきさつが有ったの。
御家族……行方不明から一月後にね。アイラちゃんのご両親が殿下を訪ねてこられたのよ」
その頃はアイラの行方がようと知れず、手詰まり状態となっていた。隣国へも捜索願いを出したが、目撃証言は得られなかった。
アーサーも日々騎士や兵士を派遣して捜索にあたってあたが、手掛かりすら見あたらなかった。正に少女アイラは忽然と消えさった。
そんな折アーサーの元へ、ギルドマスターのノーフィスに伴われアイラの両親のガイとアマンダが顔を見せたのだ。
☆
応接室で対面した折、ガイは懐からハンカチで丁寧に包んであった青い蝶の髪飾りを取り出して見せた。
ガイは
「アイラが毎日眺めて溜め息を付いてました。俺……ワタシはその気持ちが殿下への恋心だと知っています。
この髪飾りは殿下が下さった物と聞いております。夫婦で話し合った結果、この髪飾りは殿下の手元に置いて貰いたいと思い、お持ちしました」
「これは……だが、御両親。
これはわたしが頂いても良いのか?御両親にも大切な代物ではないのか?
アイラさんをとても慈しんで来たと聞いている。そんな彼女の思い出の品ではないのか?」
「はい。アイラは大切な娘です」
アマンダは続ける
「けれど形見とするにはまだ早すぎます。わたし達夫婦は決して諦めていません。必ずアイラを見つけます。
ですから、殿下。もしアイラが無事帰ったら、その髪飾りをアイラへ返してくださいませんか?」
アマンダの提案という心配りに、アーサーは胸が熱くなる
「草の根分けても探し出して、この髪飾りをもう一度アイラの髪に付けるとお約束する。必ず見つける」
そしてアーサーは髪飾りを、大事そうに掌に包んだ。
ノーフィスはアーサーの行為に目を細め
「アイラはギルド通いの誤解から拐われた。それは我ら冒険者ギルドの責任でもある。見つかるまでは、何年かかろうとも探索の手を緩める積もりはない。
それに……義娘アマンダの娘なら、わしには孫も同然。身内としても八方手を尽くしておりますれば……」
ノーフィスの決意を聞いたメリアベルは、形は違えど行方不明になったアイラへの想いを共有する者達を見守っているしかなかった。
☆
それから二年近い歳月が過ぎた今も、アーサーは毎日欠かさず髪飾りを見詰め、アイラに想いを馳せていた。
アーサーはもうすぐ15歳で成人を迎え、アスタリス侯爵と成る。領主としても名実共に申し分ないであろう。
もし誘拐がなければ、アーサーとアイラはこの空白の二年間を婚約者として蜜月の時を共に過ごし、アスタリス侯爵と成って間もなく婚姻を挙げていただろう。
だが、アーサーの想い人の行方はようとして知れない……。
これで[デート]パート終わりました。
如何でしたか?
最後はアーサーとアイラことラフィーネとの、これからの出会いに含みを持たせる感じでしたね。
☆
次回[命の絆]パートは第二部最終パートになります。
そしてこのパートでは魔王と共に目覚めて行く者や、離れ離れの家族を思う気持ち……そして……ラフィーネに突然降りかかる思いもよらない展開が待っています。
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